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ギャンブラーの誤謬(次こそは心理):行動経済学とデザイン27
賭け事をして「次こそは当たる気がする」と思ってしまう人、まずはこの漫画を読んでみましょう。
敵役で登場する根津夫婦、最初はあえて相手に勝たせて油断させます。そのあとで反撃に出ると、相手は「さっきは勝てたのに」という成功体験をひきずって途中でやめられなくなります。
誰しもこういった経験ありますよね。気をつけましょう。
意味づけしたがる人間
今回のテーマはギャンブラーの誤謬(ごびゅう)です。このテーマの説明でよく出てくる例はコイントスです。
4回とも表が出た時に次は表が出るか裏が出るか、多くの人は「そろそろ裏が出るはず」と思ってしまいます。でも確率はどちらも一緒で50%。
これと一緒で、負けが4回続いたら「次こそは勝てるだろう」と考えるのはギャンブラー的思考です。確率が50%と決まっているならともかく、確率の保証がないのに「次こそは」と考えるのは合理的な判断ではありません。
次があるギャンブルが急成長
この「次こそは」が、近年の賭け事やゲームに大きな影響を与えています。
デザインされたギャンブル依存症
ナターシャ・ダウ・シュール(著)、日暮雅道(訳)
青土社 2018.06
この本、600ページ弱ある分厚い本でギャンブル業界を裏側から冷静に調査分析した内容ですが、なるほどと思った点がこちら。
・ラスベガスでいま収益率が高いのはスロットマシーン
・スロットマシーンは機械なのでいつでもできる
・スロットマシーンは高速で結果が出る
・またスロットマシーンはニアミス(惜しい)が頻出する
スロットマシーンは競馬などに比べて1回の時間が短いし、1回あたりが少額なので継続性がある、加えてニアミスがある。すると「次こそは」となって辞められなくなる、ということです。加えて機械だから24時間いつでもできてしまうので、生活に食い込む。
1回の思い切りより次を見いだせるか、が収益率に寄与しています。
コンプガチャ
社会問題になった「次こそは」の例といえば、SNSゲームのコンプガチャ。この本はソーシャルゲームの仕組みから分析しています。
ソーシャルゲームのビジネスモデル
田中辰雄・山口真一
勁草書房 2015.05
ソーシャルゲームのビジネスモデルで多いのはフリーミアム。最初は無料だけど使うなかで課金をする仕組みです。(dropboxやcookpadもフリーミアムのビジネスモデルと言われています)
フリーミアムの売上の計算式はこうなります。
売上 = DAU x 課金率 x ARPPU
・DAU:1日のアクティブユーザー数
・課金率:DAUの中に何%のユーザーが課金するか
・ARPPU:課金するユーザーの平均課金額
10万人のDAUがいて5%の人が平均200円課金したら、1日あたり100万円、年3.65億円の売上が見込めます。5000円の売切のゲームソフトが同じ売上を見込むには7.3万人に買ってもらう必要があります。
サービス提供者としては、まずは課金したくなる要素を入れる。で、一回きりではなく「次こそは」で何回も課金してもらうよう設計する。そのために生まれたのがコンプガチャです。
ゲームは他サービスと比べて熱が入り合理的な判断ができなくなることと、コンプガチャは現金支払いではないので、ワンタップで際限なく「次こそは」を容易にしてしまうことが問題となりました。
ビックリマンシール
僕の世代的に、ビックリマンシールはコンプガチャのようなものでしたが、いつの間にか終息していった経緯、知ってますか?
80年代おまけシール大百科
サデスパー堀野
いそっぷ社 2017.04
実は1988年8月8日、公正取引委員会から下記の指導が出ています。
1. 価格差をなくすこと
2. 種類ごとの混入率を均一にすること
3.特定のシールに勝ちが出るような広告をしない
これによって、極端なレアシールがなくなり、ホログラムなどヘッドに豪華素材を使わなくなりました。その結果「つまんない」となり、人気が下落していきました。
コンプガチャ騒動とかなり似てますが、根本はすべて一緒で「次こそは」の射幸心を過度にあおることへの規制です。(ただ、この規制は人間の欲求を無視した合理的経済学の発想であるともいえます)
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デザイナーは、ユーザーと長期的な良い信頼関係をつくることを信念に取り組む人たちだと思います。やりすぎず、でも退屈にならない適度な「次こそは」をどう提供すべきか考えてみたいと思います。
対策1. 目的と報酬を分ける
宿題できたらおやつ、のように報酬に対する労力がプログラムされていて、続けていくうちに勉強の楽しさに気づいてもらって、おやつを食べなくても宿題を楽しくやってくれるような仕掛けができたら理想的です。
報酬への扱い方はまた難しいのでこちらを参照ください。
対策2. 未練を与えない
惜しかった、もうちょっと、などのニアミスのメッセージは「次こそは」を引き起こす要因になります。気持ちよく終えられるためには、未練を与えず GAME OVER を伝えることも1つの方法です。マリオなど子ども向けのゲームソフトから学びになる要素が見つかるはずです。
こちらの工夫4をご参考に。
対策3. ムードを変える
映画館やコンサートで、本当の終わりの時には電気をつけて「もう終わりなんだ」と気づかせることで、次への気持ちがなくなります。
ムード効果は誘引にもなるし目を覚まさせる効果もあって、1つのテーマに取り上げられるくらいなので、また別の機会に細かく書こうかと思います。
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まとめ
今回は「次こそは」で、下記NG項目をまとめてみました。
・次の展開をチラつかせる
・1回をみじかくする
・ニアミス情報を出す
・いつでももう1回できる環境を用意する
・初期損失を少なくする(途中から課金する)
・レア要素をまぜる
これら、ワクワク感を高められるかもだけど、くれぐれも悪用しないでくださいね。やりすぎると規制がかかって業界全体をダメにしかねないし、何よりもユーザーとの関係性にヒビを入れることになるので、デザイナーがそれをやっちゃあ、おしまいです。
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