見出し画像

DIY効果(自分が関わると過大評価):行動経済学とデザイン:35

自分がちょっと手を加えたものは愛着がわいてしまう現象を、イケア効果といいます。行動経済学の人気教授、ダン・アリエリーのこの本に詳しく書かれています。

不合理だからすべてがうまくいく

非合理だからすべてがうまくいく  行動経済学で人を動かす
ダン・アリエリー
早川書房 2011.10

完成品よりも(めんどうなのに)売れる

実はこの効果はイケアよりも以前に、ホットケーキなどインスタント食品のほうが先行していました。ただ水を加えるよりも卵を入れる一手間を加えた商品のほうがヒットしたのだとか。

また、イケアの組み立てが生まれた背景は愛着よりコストの観点だったことから、ここではDIY効果とよぶことにします。DIY効果は他にも、

・ミニ四駆
・電動自転車
・建売住宅のプチデザイン要素
・自分で組み立てできる保険商品

などなど。デジタルの世界でも、背景画像の設定や、プレイリストの作成、アバターの作成など。ドラック&ドロップさせるソフトのインストール操作も、この効果が働いているのでは?と思ってます。(単にボタンクリックだけだと自分で入れた感じがしないので)

DIY効果01

イケア効果は、いろいろなサイトでも詳しく丁寧に書かれている記事があるのでこちらをご覧ください。

値段が変わる

行動経済学としての着目点は、値付けをすると同じものでも自分が手を入れたものは高く設定してしまうことです。本書の実験では、折り紙を値付けしたところ、つくった自分は平均25セント、つくってない人は平均5セントという差が出ました。

自分が関わったものに固執することは、自前主義のバイアスにもつながるので注意が必要です。例えば、自分のアイデアに固執して他の意見を取り入れない、といったこと。

これは、以前紹介した保有効果とも関係します。

保有効果3

最後にほんの少しやればいい

DIY効果のもう一つ面白いのは全部自分でつくらなくていいことです。ほとんど出来ている状態で最後に手を入れるだけでもこの効果は表れます。

例えば、子ども向けのイベントなどでも、8割方は完成されていて最後に少し形や色を加えることで自分がつくったように思えるワークショップはよくありますね。

大人の世界でも、署名やハンコを押すのもこれに当てはまるかもです。ずっと傍観してたのに最後にちょっとメールに返信して、さも自分が関わっていたようにするズルい人も同じです。

逆に、どんなに労力をかけても最後は別の人がやると愛着は生まれないので、ここを間違えてしまうと心理的な損をしてしまいます。

本書では、リハビリの作業療法で行われる訓練(ネジをしめる動作など)はがんばった割に完成につながらないので、モチベーションが下がる例をあげています。世の中のサービスで続かないものの原因には、こういったことが起因している可能性が多くありそうです。

DIY効果03

・・・・・

ではユーザーがちょっと手を入れたくなる領域は何があるか、そこでどんなデザインの工夫ができるかを考えてみたいと思います。

(手間をかける)文化の市場に有効

DIY効果は完成品よりも手間がかかるので、ユーザーにとって効率性を重視するようなものにはあまり適しません。

逆に効率性を求めない分野には有効といえます。それは何かというと、手間を楽しめるもので、代表的なのは「衣・食・住」のような暮らしや娯楽・趣味に関するもの、あるいはモチベーションが大事な領域です。

例えば掃除など家事にかける時間は、これだけ技術や進化したのに変わってないのは、むしろ人が手間を求めているとすら思えてしまいます。

そんな観点で注目度の高いライフスタイル分野に目を向けてみます。

キャンプ(市場の不便化)

キャンプをしない人からすると、なんでわざわざ手間暇とお金をかけて不便なことをするんだろう?と思える趣味が、年々にぎわっています。

キャンプギアは年々便利になってますが、簡単でも、自分でテントをたてられる、ご飯をつくれる、焚き火で木を足せる、といった体験は嬉しいものです。キャンプ以外にも便利になった市場にあえてDIY要素を入れられないか、考えてみるといろいろありそうです。

植物を育てる(出会いの一手間化)

コロナの影響で在宅仕事が増えたので、我が家はたくさん植物を育てるようになりました。毎朝水やりをすると、植物への愛着もひときわです。

植物をお店で買うとき、もしその場で鉢を選んで自分で植え替えるサービスがあったらDIY効果でお店へのファン度も高まるのではと思います。あるいは、水やりの習慣をインターフェイスとして捉えるとプロダクトとユーザーとの接点が増えるので、ここにデジタルを介在させたネットサービスができないかな、なども考えられそうです。

コーヒー(クラフト化)

コーヒーは自動化が進んでも、焙煎だったりドリップだったりと、クラフト的要素が欠かせません。かくいう僕も週末は毎日ハンドドリップでコーヒーを入れてます。

これまで自動化していた習慣にクラフト要素が入れられないか、BRUTUSや&premiumなどライフスタイル系の雑誌での特集テーマからクラフト要素のヒントは見えてくる気がします。

勉強やダイエットなどの習慣(スタンプ化)

計算ドリルなどで、問題が全部できたらシールを自分で貼る、という行為は、自分が手を入れて完成させた達成感につながります。任天堂スイッチのフィットボクシングは、1日のメニューが終わるとパンチでスタンプが押せます。なんてことない操作ですがこれが嬉しい。

この仕組みを使うと、モチベーションを維持するデザインができます。

DIY効果04

・・・・・

まとめ

上にあげたように、効率性追求とは違う道=人らしい生活ができて楽しめる世界、をデザイナーが切り開く意味は大きいと思いますので、人が愛着を持てるために何か一手間を入れられないか?を考えてみてください。

不便益という考え方がありますので気になった人は読んでみてください。

不便から生まれるデザイン

不便から生まれるデザイン
川上浩二
化学同人 2011.09

あと、デザインの取り組みでDIY効果のテクニックを1つ紹介します。クライアントにデザイン案を提示するときは、隙のない説明より、クライアントの意見を取り入れる余白が少しあるくらいの方が、前向きに検討してくれる傾向が強いと思います。なぜなら自分が最後に手を入れたから。

おそらく人は、何かしら介入がないと自分との距離感が縮まらないので、無意識でついやりたくなってしまうのではないかと思います。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。