一貫性(固執と結びつけバイアス):行動経済学とデザイン12
影響力の武器、2つ目は「一貫性」です。これも行動経済学の観点から捉えて、かつデザインの実践のために何が学べるか、考えて見ます。
影響力の武器
ロバート・B・チャルディーニ (著)、社会行動研究会(訳)
1991.09(第一版) 誠信書房
一貫性とは
人は、自分の発言・信念・態度・行為を一貫したものにしたいと思うし、他人からもそう見られたいと思っています。その理由は3つ。
1. 一貫性があると社会からの評価が高くなる(表裏や嘘がない)から
2. 日常生活でも有効(他者との関わりで話しが通りやすい)から
3. 経験則で社会に適合できる(常に考え直す必要がない)から
この一貫性は他人にも自分自身にも強く求めているので、人との関わりで事実とは違うような認識がはたらいてしまいます。例えばこんなこと。
・一貫性を保つために状況に合わせてしまう
・勝手に一貫性のあるストーリーをつくってしまう
この2つの影響が、相手との関係やコミュニケーションでどういった影響を与えるのか、自分が関わるデザインやUXの観点から、事例を交えて紹介してみます。
コミットメントの危険性
1つめの『一貫性を保つために状況に合わせてしまう』は、ユーザーインタビューを行うときに多く関係してきます。
自分の意見や立場を主張することをコミットメント(宣言)といいます。コミットメントすることで社会的信頼を得たりや他者に安心を与えたりすることができます(政治のマニュフェストなどがわかりやすい例)が、一度いってしまうと固執してしまい後に引けない、というリスクもあります。
例えば、インタビューで「A とBどちらが好きですか?」という質問に対して「Aのほうが好きです」と回答すると、Aに対してコミットメントをしていることになります。
そうすると、続けて「どんなところが好きですか?」と聞かれると、Aの良い点をあげてBの良くない点を話すことになります。このとき、もしBもそれほど悪くないと思っていても、AとBの優劣を過剰に捉えてしまいがちになります。これは一貫性を保つためにはたらいてしまう心理です。
これをうまく利用して、相手が不利になるよう仕向ける人もいます。「だって、さっきそう言ってましたよね?」と話すようなあんまり関わりたくないタイプの人。これは承認誘導というテクニックです。
僕は仕事柄、ユーザーインタビューを行いますが、コミットメントは会話を組み立てるうえで有効なので使いつつも、承認誘導で相手の考えを歪曲させてしまうことは、気をつけるべきことです。
インタビューのテクニックについては前にまとめてみました。
ストーリーの自動生成
2つめの『勝手に一貫性のあるストーリーをつくってしまう』は簡単にいうと、思い込みです。
例えば、ある人が傘を持っていて、外の天気が曇り空だったら「きっと雨が降るに違いない」と思ってしまいます。でも実際は傘を持っているのは、前の日に置いたままにしたのを持ち帰っただけかもしれないし、別の用途で使うかもしれません。
こんなように考える人は間違いなく「めんどくさい奴」ですが、多くの人は「雨が降るはず」という2つの事象を1つの文脈に勝手に結びつけてストーリーを考えるという思考をします。難しい言葉でいうと『錯誤相関』というようですが、これも一貫性の思考によるものです。
一貫性のあるストーリーで大事なのが『コンセプト』です。
コンセプトはデザインの提案であっても、社長のスピーチであっても、映画や小説であっても大事です。ディテールの1つ1つがコンセプトに基づいているか(つまり一貫しているか)で受け手への納得性や共感や信頼を獲得することができるからです。
ストーリーをうまく使えば、デザインの魅力を高められけど、コンセプトのない無理のあるストーリーは一貫性がなく見透かされてしまうので逆効果です。あくまで自動で勝手につくりあげられるような自然なストーリーをこころがけるべきです。
デザインはストーリーを語り伝えることだと主張するこの本オススメです。最近のデザイン概論がよくまとめられています。
まとめと雑感
あくまで個人の感想ですが、以前に比べてデザインの説明で「コンセプト」を聞く機会が少なくなったように感じます。例えばアプリだと、いかに分かりやすくて間違えずに使えるかを前提としたデザインの説明をよく目にする気がします。
でもそれだけだとストーリーの余地はあまりないと思っていて、いずれは均一化していく市場になり、結果としてデザイナーの地位向上にはつながらないと思います。
デザイナーが入ることでうまれる価値とは、考えの固執やストーリーといったような非合理な考え方をしてしまう人間を相手に、共感や驚きを提供して社会や経済に貢献できることです。なので、コンセプトとストーリーをつくれることはデザイナーの欠かせない資質だと僕は考えます。
そう考えると行動経済学や社会心理学は、デザイナーにとって有効な知識や観点になるので、今年はこのテーマでしっかり勉強するべきだと改めて思った次第です。
という自分の考え方を書くことで一貫性がはたらき、途中でやめずに一貫して続けられるはず、という自分への洗脳を意図的にやってみました。