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2030年のグローバル教育指針を読み解く(探究学習)

大学院で学ぶ「学習のデザイン」。今回は前回に引き続き、世界の教育のあり方に取り組んでいるOECDのプロジェクトの紹介します。2030年に向けて教育はどう変わるべきかを示した指針です。


こちらの本を読み解きました。正直、読み物としては分かりにくく、書かれている要素の構成や関係性が複雑です。

そんな中で僕なりに整理してみた内容です。分かりやすさ優先で、ちょっと自分なりの解釈は入ってますので、あくまで理解のための参考として読んでください。(なので、引用しない方がよいです)

学力から実践能力(コンピテンシー)へ

これまで学校といえば、テストで学力を測ることが重視されてきました。でもVUCAといわれるより複雑な社会では、学力だけでは太刀打ちできないことへのズレが意識されるようになりました。

例えば現在、すでにこのようなことが表出化しています。

移民、地球環境、自然災害、政治不信、テロやサイバー犯罪、経済格差、テクノロジーによる労働の代替、失業、高齢化、男女格差、肥満、自殺、政治に対する参加の低下

学校で学ぶ目的は、このような社会課題に向き合っていくための力を身につけるためであり、コンピテンシーへの期待が高まっています。

ではどのようなコンピテンシーの各要素を見ていきましょう。

1. 主体性(エージェンシー)

これからの時代で何かを学ぶにためには、土台として生徒自身が主体的に考えて行動することが欠かせません。OECDは生徒のエージェンシーという言葉を使ってこのように定義しています。

変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任を持って行動する能力

OECD 2019より

加えていまはシェアリングの時代。自分1人だけではなく、誰かと一緒に関係性の中で育む共同エージェンシーという考え方も、発展的な能力としてあげられています。

2. 知識

AIが普及するなかで、単なる暗記はあまり意味をなさなくなっています。そのような中でも教科の知識を学ぶことは、より専門性や体系的な知識を得るためには欠かせないこと(OECDは「パワフルな知識」という言い方をしています)であり、軽視してはいけません。

複雑化する社会への対応には、教科横断的な知識がより重要になります。横断することは知識の「転移」をうながします。ただし、教科の基礎知識がないと成り立たないので、積み上げは大事です。

各教科の原理をとらえる、認識論的な知識(エピステミック)も取り上げられています。質問や観察、倫理や仮説、レビューを行うことなどを意味していて、批判的思考とかにもつながる考えです。

知識をどう役立てていくかという、手続き的知識もあります。これは、例えばデザイン思考などの方法論が該当します。

3. スキル

日本語では「技能」に相当しますが、手に職だけではありません。

認知的スキルは、知識を活用できるようにする思考です。問題解決のために使われる能力などが当てはまります。メタ認知や、知識を融合させていく創造性に関係するスキルなども強く関係します。

社会・情動的スキルは、他者との関わり方に関するスキルです。具体的にはコミュ力やレジリエンス、気配りや敬意などです。日本では昔は道徳が相当し、いまだと協同活動や学校外の活動があてはまります。

身体・実用的スキルは、スポーツや楽器演奏などだけでなく、自分で食事を用意したり、太らない食事を心がけるといったことも当てはまります。

4. 態度や価値観

やる気がない、ひねくれている、利己的な考えなど、学習者の気持ちがともなっていないと、どんな素晴らしい学習機会があっても享受できません。

AIが発達するほど、倫理がより重要になると考えられていています。そこでは、教員も単に教えるのではなく、学習者気持ちに着目した学び方を意識することが必要です。

価値観や態度は、個人・対人・社会・人間(世界)とスケールによってそれぞれ変わってきます。

5. 新たな価値を創造する力

技術だけでなく社会や文化など、いろんな側面でイノベーションの必要性がいわれています。その流れのなかで教育にも創造性が必要だと考えられています。これについては前回紹介した内容を参照ください。

本の記述で面白いな思った点は、目的意識、好奇心、オープンマインド、他者との協働、俊敏性、リスク管理、適応力、があげられていたことです。創造性というと芸術方面ばかりに関心が向きがちですが、心構えや取り組み方への姿勢を意識することって大事だと思います。

6. 対立やジレンマに対処する力

VUCAの社会では分かりやすい答えはありません。深く思考したり、条件下の中でより良い解決策を見つけたりする習慣を身につけておかないと、生きていけなくなります。

政治や外国人に関するニュースで、物事を極端に単純化して白黒つけたがる傾向は、このコンピテンシーの不足だといえます。学校で「答えはない」ことが世の中にはたくさんある、ということを学ぶ必要があります。

7. 責任ある行動をとる力

自分自身はもちろん、他者や周囲に対して意識できているか、ということが大切です。主体性と表裏の関係にあります。

コンピテンシーのサイクルをまわす

これまで上げたコンピテンシーは、学習サイクルの反復を繰り返して身につける必要があります。OECDではAAR(Anticipation - Action - Reflection)サイクルを提示しています。「見通し、行動、振り返り」の意味で、PDCAに近い考え方です。

ラーニング・コンパス2030

これらの考えをまとめたものが「ラーニング・コンパス2030」です。学習者自身が主体性をもって答えのない道を切り開いていく、という意味でコンパスがモチーフに使われているものと思います。

ただ正直、無理やりコンパスの図に収めようとして、関係性がよくわかんない表現になってしまっていると、僕は思います。

僕なりに図で整理してみるとこうなります。

オリジナルと比べると、要素が何か抜け落ちているような気もしますが、学習者にも分かりやすく伝えるためにはこのくらいにした方が良いのではと思います。

学んだこと

ここで紹介したことは2030年にグローバルで標準となっている状態を目指しているわけなので、これに適応できていない国は競争力が下がっていることを意味します。

その中でも創造性は重要なコンピテンシーの1つなので、日本も創造性の学習に取り組むことは不可欠です。ここにデザイナーがもっと関わることができれば、日本の学校はよりよくなると僕は思っています。

ばくぜんとした概要でしか把握していなかったことを、1冊の本をじっくり読んで理解を深めたことは、よい経験になりました。というのも、このくらいしないと論文に活かせないから。

さて、論文提出まであと3ヶ月ですが、焦らずしっかりと1つづつ学び、地に足ついた内容にまとめていきたいと思います。

今日はここまでです。


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デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。