デザインの手前 #06:Takram回振り返り
こんにちは。
ポッドキャスト番組「デザインの手前」の原田です。
先週まで、デザインイノベーションファーム・Takramのメンバーが週替りで登場するシリーズ企画をお送りしてきました。
そこで今回は本シリーズを振り返っていきたいと思います。
本業と並行して行う多彩な課外活動
Takramは、多彩な領域のプロフェッショナルがビジネス、テクノロジー、クリエイティブのスキルをかけ合わせ、さまざまな企業や組織のプロダクトやサービス、ブランド、事業の創出をサポートしているデザインイノベーションファームです。
東京のほか、ロンドン、ニューヨーク、上海にも拠点を持ち、現在およそ60名のメンバーを抱えています。
TakramのWebサイトでは、錚々たる企業や団体とのプロジェクトの数々が紹介されていますが、これらを推進するメンバーの中には、書籍の執筆、デザインイベントの主催、ニュースレターの運営など個人的な活動を行っている方が少なくありません。
そこで今回は、多彩な個人活動を行うTakramのメンバーに週替りで登場頂き、デザイナーが個人の活動に取り組むことや、デザイン組織と個人の関係などをテーマにお話を伺いました。
「わかる」と「つくる」を行き来する / 緒方壽人さん
1人目のゲストとしてご登場いただいたのは、デザインエンジニアの緒方壽人さんです。
東京大学工学部でプロダクトデザイナー・山中俊治さんの授業を受けたことでデザインに興味を持ち、その後、IAMASでメディアアートやインターフェースデザインを学んだ緒方さん。
デザインとエンジニアリング、ソフトウエアとハードウエアを股にかける全方位的な知見を活かし、Takramの多彩なプロジェクトをリードしてきました。
その傍らで2019年には共著『情報環世界』を、2021年には単著となる『コンヴィヴィアル・テクノロジー』を執筆するなど、自らの考えをテキストにまとめ、発信する活動を続けています。
人間の力を奪う行き過ぎた道具のあり方に警鐘を鳴らしたイヴァン・イリイチの著書『コンヴィヴィアリティのための道具』にインスパイアされ、デジタルテクノロジーが発達した現代における「ちょうどいい道具」のあり方を探求する書籍を上梓した緒方さん。
本の執筆を通して思索を深めていったことが、コロナ禍に決めた長野県御代田町への移住の後押しにもなったと言います。
現在は御代田で米作りなどにも携わっているという緒方さん。自然に囲まれた生活環境は、「ちょうどいい道具」のあり方を模索する実践の場にもなっているようです。
そんな緒方さんの活動の背景には、「わかる」ことと「つくる」ことがあると言います。
「わからない」ことに直面することで、あらかじめ脳が予測していたものとの間にズレが生じる。自らの認識と世界のズレを解消するための手段として、「わかる」ことと「つくる」ことがあり、緒方さんのあらゆる活動はこの両者の行き来の中にあるようです。
「つくる」ことが祝福される状況を / 相樂園香さん
2人目のゲストは、Culture & Relationsの相樂園香さんでした。
Takramにジョインする以前からデザインイベントの運営に携わってきた彼女は、デザインの祭典「Featured Projects」を共同代表の後藤あゆみさんとともに運営しています。これらの活動を通してデザインコミュニティに携わってきた経験が、Takramにジョインするきっかけにもなったそうです。
前職のメルカリでブランディングのチームにいた頃から、「つくる」ことと「伝える」ことをセットで考えていたという相樂さん。その経験を活かし、現在はTakramの活動や文化を内外に発信していく仕事をされています。
「Featured Projects」では、トーク、マーケット、展示など多彩なプログラムを通じてクリエイターたちの活動を発信し、「良いものづくり」について考える場をつくっている相樂さんですが、自ら「つくる」ことにも精力的に取り組んでいます。
リソグラフ印刷を楽しむスタジオの運営、自主制作作品の展示、メディアの編集など活動は多岐にわたり、これらの背景にはものが生まれる工程への強い好奇心があるようです。
「本来は家にこもってものをつくっていたいタイプ」と話す相樂さんですが、一方でものづくりの力を周囲に伝えていくことや、ものづくりに取り組む人たちが祝福される状況をつくることが、「伝える」ことの動機になっていることが垣間見える収録となりました。
身体知に根ざしたものづくり / 成田達哉さん
3人目のゲストは、プロトタイピングエンジニアの成田達哉さんです。
2015年にTakramにジョインし、デバイスエンジニアリングやデジタルファブリケーションの技術を用いて、主にハードウエアのプロダクトやガジェット、あるいはその前段階のプロトタイプをつくる仕事に従事している成田さん。
そんな成田さんは、2021年に北軽井沢の山中にある約1000坪の別荘地を購入し、その開拓に励んでいます。成田さんは以前から、デジタルファブリケーション技術を用いた磁器「野良雲焼」の制作、キャンプナイフの自作などを行い、さらにコロナ禍における屋外での仕事環境を整えるべく、ルノー・カングーを購入・改造するなど、生活や仕事における道具や環境を自らの手でつくり続けてきました。
成果物だけではなく、そこに至るまでに介在する周囲の環境や状況、スキルへの興味があるという成田さん。
ものをつくることはプロセスを知ることでもあり、自ら手を動かすことによってデザインや製品を見る目が肥え、仕事の解像度も高まるのだと言います。さらに、つくったものを自ら使ってみることで身体知を得たり、「何のために」「誰のために」つくるのかという意識を明確化できるのだそうです。
日常における成田さんのものづくりの実践は、Takramで行っているプロトタイピングと完全に地続きにあるものだと言えそうです。
変化の兆しから未来を紡ぐ / 佐々木康裕さん
4人目のゲストは、フューチャーズリサーチャーの佐々木康裕さんです。
総合商社で新規事業開発などに携わる中でデザイン思考に興味を持ち、アメリカ留学を経て2014年にTakramにジョインするという異色の経歴を持つ佐々木さん。
ビジネスデザイナーとして、企業のヴィジョンづくりや未来の戦略を考える仕事をしてきた佐々木さんですが、もともとリサーチを通じて未来のことを考えることが好きだったそうで、自らの「好き」を先鋭化させるべく、2024年から現在の肩書きに変更されたそうです。
2019年にスタートしたニュースレター「Lobsterr」は、まさにそうした佐々木さんの志向が現れているプロジェクトです。
「Lobsterr」が大切にしているのは、日本のメディアが取り上げない「小さな物語」をすくい上げ、お裾分けするように読者に届けること。ニュースレターというフォーマットも相まって、忙しなく流れ去っていく時間やタイムラインから一定の距離を置き、世界の有り様や未来の社会に思いを馳せることができるメディアとして、多くの読者から支持を得ています。
毎週配信のニュースレターを運営することの大変さは想像に難くないですが、Lobsterrの活動がTakramのリサーチプロジェクトなどに良い影響を与えるなど良いループが生まれていると言います。
そして、世界の有り様を「知り」「驚く」ことが、言葉を中心とした佐々木さんの「つくる」こと、「語る」ことに直結していると話してくれました。
個人活動が組織にもたらすもの / 田川欣哉さん
多彩な個人活動を展開するゲストの皆さんには、組織と個人の関係やTakramという組織の特徴についてもお聞きしました。詳しくは各エピソードをチェックしていただきたいのですが、これらのテーマを考えるにあたっては組織の代表である田川欣哉さんの視点も欠かせません。
シリーズの総まとめとして、田川さんにもご出演いただくことができました。
今回のシリーズでは、Takramのメンバーそれぞれの内面にある「振り子」について伺ってきました。
デザインとエンジニアリング、デジタルとフィジカルなど、複数の極を行き来しながら創造性を高めていく「振り子」の概念は、Takramが大切にし続けているものです。その背景には20代の頃、デザインとエンジニアリングのどちらかを選ぶことを周囲から迫られたという田川さんの原体験があり、それがTakramをつくった理由にもなっていると言います。
そんなTakramは、いつしか「ひとつに選ぶことができなかった人たちの駆け込み寺的な存在」になっていたそうです。
Takramには、異なる専門領域や探究テーマを持つメンバー同士がそれぞれの活動を認め、影響を与え合うことで組織の輪郭が変わっていくことを寛容に受け入れていくカルチャーが共有されています。その背景にあるのは、メンバー一人ひとりが持つ「好奇心」や「学び」への強い欲求です。
Takramの中には、それぞれの知的好奇心が共鳴し合い、視野や興味の対象が拡張されていくような「知のサイクル」が生まれているようです。
それぞれの興味関心を個々の活動を通じて探求し、そこで仮説・検証されたものを社会に実装する機会としてTakramのプロジェクトに取り組む。
そこには、クリエイターたちの孤独な探求を励まし合う環境があると同時に、個々の探求は組織に多様な視点をもたらし、世界を変えるアイデアやクリエーションの種にもなると田川さんは言います。
田川さん曰く「自分たち自身にプロトタイプだと言い聞かせながら」、組織と個人の関係性を模索し続けてきたTakram。世界的に見ても唯一無二のデザイン組織となりつつあるTakramは、未来のデザインファームのあり方やデザイナー個人の活動を考える上で大きな示唆を与えてくれる存在であることを感じた一連の収録となりました。
秋のデザインウィーク関連企画がスタート
現在「デザインの手前」では、東京の秋のデザインウィーク関連のエピソードを配信中です。
第一弾として、10月下旬に東京各所で開催された「DESIGNART TOKYO 2024」を中心に、番組パーソナリティの2人が気になった展示やデザイナーについてレポートしています。
次週は、「DESIGNART TOKYO 2024」に参加していた2組の若手デザイナーによる対談もお届けする予定ですのでこちらもお楽しみに!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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