仮定のお話 〜 3人の賢者はなぜ自分の帽子の色がわかったのか? 〜
「もし明日の天気が晴れだったら…」「もし3時間目の数学のテストがなくなったら…」私たちは普段の生活の中で「もし…だったら」と考えることがありますね。「もし…だったら」と仮定することは将棋や囲碁などのゲームや、探偵小説などでもよく行われていることです。今回は、“背理法”とか“帰謬法(きびゅうほう)”と呼ばれる、数学で最も基本的な推論方法についてご紹介します。ここでは「3人の賢者」のお話をしましょう。
ある国に賢者の誉れの高い哲学者が3人いました。王様はどのくらい賢いのか試してみようと、3人を宮殿に招きました。王様は3人を別々の部屋に通し、3人に帽子をかぶせました。赤い帽子と青い帽子があり、本人にはどちらがかぶせられたか分からないようにします。
王様は3人を部屋に集め、次のように言いました。「3人のうち、少なくとも1人には赤い帽子をかぶせた。赤い帽子をかぶっていることが分かったものはすぐに手を挙げなさい。」3人の賢者は、しばらくの間考えていましたが、おもむろに3人とも手をあげました。
どうして3人の賢者は自分がかぶっている帽子が赤だということが分かったのでしょうか。
3人の賢者を A, B, C とします。
A の立場になって考えてみましょう。A は「自分(A)が青い帽子をかぶっていると仮定しよう」と考えます。
B はこの仮定の下で [ A は青い帽子をかぶっていて、C は赤い帽子をかぶっている ]ことを知っています。したがってB は次のように考えるはずです。『自分(B)が青い帽子をかぶっていると仮定しよう』。
すると B は『A と B は青い帽子をかぶっているのだから、C はただちに自分は赤い帽子をかぶっていると気づくはずだ。』と考えます。
B は次のように考えるでしょう。『しかし C は手をあげなかった。これは自分(B)が赤い帽子をかぶっているためだ。』
A は「 B はこのことがすぐに分かるはずなのに、しばらく考え込んでいた」と考えます。これは最初の仮定「自分(A)が青い帽子をかぶっている」が間違っていたからに違いない。
このようにして A は自分が赤い帽子をかぶっていると判明したのです。A は B の立場で考え、A の頭の中の B は C の立場で考えています。また背理法が何重にもネスト(入れ子)となっていてとても複雑です。
将来のことを考える動物は人間だけだそうです。将来のことを考えるから人間にはストレスがあるのだ、という人がいますが、数学の中で「仮定」し目の前の問題に没頭することは、ストレス解消になるように思います。パズルゲームを解くように、推理小説を読むように、ワクワクした気持ちで楽しんでもらえるような数学のお話をお届けしてできたらいいな、と思っています。
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