「あの頃の増田こうすけ劇場 ギャグマンガ家めざし日和」を読む
YouTubeのアルゴリズムというのは不思議なもので
定期的に、ググッと刺さるコンテンツが僕の下へとやってくる。
「ギャグマンガ日和」は中学生ぐらいの頃から認知していて、現在に至るまで機会がある度に(普段漫画本を買うことがないので、飲食店の待ち時間とか、古本屋で立ち読みするようなタイミングで)面白く読ませていただいていたが、作者の増田こうすけ先生について一体この人がどのような人物なんだろうとかは特段興味があるわけでもなかった。
最近は、映画や漫画の作品に対するSNSの反応や考察みたいな動画を観るのが好きで、それゆえなのかYouTubeのおすすめに、デビュー前の増田こうすけ先生の自伝に対する反応集の動画が流れてきた。
そこで増田こうすけ先生が2022年に自伝を出版していたことを知った。
なんとなく面白そうだったので、早速電子書籍をApple Booksで購入して読んでみた。(余談ですがiPhoneユーザーなら検索から購入までがスムーズなのでApple Booksは個人的に電子書籍アプリの中ではおすすめ)
概要
大まかな作品の内容としては、増田こうすけ氏がジャンプ漫画家としてデビューするまでの半生を描いたもので、それまでの苦労や体験談なんかをエッセイ漫画にして作られたものである。漫画を作ることの大変さ、泥臭さなんかを期待して読んでみたけど、僕が想像していた世間一般の漫画家よりも、独自性のある人物であることが分かった。
読み終えた感想
たぶん、勇気づけられる人がいる
きっと本人はそんなことを狙って今作品を描いたわけではないのは勿論のこと理解しているが、おそらく、この本を読んで勇気づけられたひとが何人もいると思う。
「第1幕」の警備員のアルバイトのくだりから、すべての生きづらさを感じている人たちにとっての、苦悩や葛藤みたいなものをシンプル且つリアルに描写している。警備員や工場、新聞配達など一見「誰にでもできる」ように見られがちな仕事の大変さの片鱗を、綺麗に表現している。先生独自のコミカルなイラストに乗せながら。すごい。
いつの時代も、対人関係の問題は治まることを知らなくて、生きづらさを感じている人たちへのストレッサーとなっている。
ささやかに「漫画家になりたい」ということを恥ずかしくて周囲に言えないもどかしさ。誰かに笑われるかもしれない。誰かにバカにされるかもしれない、怒られるかもしれない。
自分が進みたい道を、意見を、声にできないまま生きているひとがこの国には一体何人くらいいるのだろう。
「就職しなきゃ」「いい仕事に就かなきゃ」と当人が多少のコンプレックスを感じている描写はあるものの「就職する」ということが正解だという明確なスタンスはどこにも述べていないし、それをしないことに対して肯定も否定もしていない。
何かを目指していて、けど世間の目があったりして思うようにいかなくて、その環境を変える力も勇気もなくて。そんな悩みを持ちながら現代社会を生きるひとたちの心を、少しだけぬるっと軽くしてくれる作品なのではないかと思う。
すごい。ほんとにすごい。語彙力がないけど、ギャグ漫画家、恐るべし。なのである。
積み重ねることの大切さ
自伝なのにそんなに書くことがないと述べているのは、世間一般の人たちから見たら「苦労したな」と思えることも、作者にとっては大した苦労ではなかったのかもしれない。ネガティブな印象はあったものの、失敗談も踏まえつつ(そこまで大きな挫折を味わう場面はないけど)漫画に対して、とにかく前向きに取り組んでいる姿に感銘を受ける。
ひとつの物事を継続できること。目標に対して使える時間を無駄にしないこと。
そしてそれを当たり前のような顔をしてやってのけること。
増田先生のデビューまでの道のりは、一見、順風満帆にみえるけれど、すべての読者には見えない努力とか、積み重ねてきたものがあると思う。
仕事には小区分のゴールはあっても、エンディングは存在しない。夢が叶ってからはただただ現実で、誰しも人生はまだまだ続くのである。
だから「すごい努力しよう」とか「大きな結果を残そう」なんて考え込まなくてもいいんじゃないかと思う。とにかく継続する。経験を積み重ねる。来たるべき時までこれが出来たなら、それで爽やかなのだ。
まとめ
小説にできるような人生を過ごせたら、カッコイイよなあって時々思う。良かれ悪かれ、自身に降りかかった事案を、どのように解釈して噛み砕くか。どれだけ笑い話にできるか。心ひとつ。それだけなんだと思います。
すべての生きづらさを感じている人たちが「あの頃の増田こうすけ劇場 ギャグマンガ家めざし日和」を手に取ってくれたらいいなと思います。おわり。