創業者の思いが込められる「ロゴマーク」のデザイン考察
最近、メディアを賑わせたことで目にする機会が激増したOpenAIのロゴマーク。そのお家騒動の行方に人々の関心が集まる中、わたしはこのお花のように見えるロゴマークのことが気になってしまった。どういう意味なのか、さっそくネットで調べてみたが、残念ながら公式に発表されていないようで正確な情報は得られなかった。
そこで、ChatGPTに聞いてみた。
とのこと。お花ではなく「脳」がモチーフだった。
OpenAIのサイトの ”About” のページには、
とあるので、ChatGPTの回答が正しければ、このロゴマークは企業理念を表していることになる。
思いを図案化するロゴマーク
企業のロゴマークには、そのように創業者の思いが込められたものがある。近年は、企業が独自の強みを活かし、製品やサービスを通して「社会」にどのような価値を提供するか、何のために事業を行うのか、その目的「パーパス」が経営において重視されている。
パーパスについては、米国のアウトドアブランド・パタゴニアの「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」が、例としてよく採り上げられている。社会的存在意義とその志を示すもので、最近になって制定する企業が増えているが、松下電器産業(現パナソニック)の創業者、松下幸之助氏が1978年出版の著書「実践経営哲学」で語られた「企業は社会の公器」の名言は、今のパーパスを総括したメッセージだったのではないかと振り返って思う。
クロネコヤマトのヤマト運輸のロゴマークは、親猫が子猫をくわえている姿がデザインされている。公式サイト情報によると、1957年に業務提携を結んだ米国のアライド・ヴァン・ラインズ社が当時使用していた親子猫のイラストが基になっているそうだ。ヤマト運輸の創業者が、その甘噛みして子猫を運ぶ絵に込められた「Careful handling」(丁寧な荷扱い)の意味に共感し、使用許諾を得てクロネコのマークが実現したそう。同社はパーパスを明文化していないが、このロゴマークに込めた思い=パーパスと解釈しても良さそうだ。
左が基となったアライド・ヴァン・ラインズ社のイラスト。右がヤマト運輸創業時のロゴマーク。
同じく運送会社であるアメリカのFedExのロゴは、「隠しデザイン」で有名である。
1994年にLandor Associatesがデザインしたこのロゴマークには、白い「矢印」が隠されている。Eとxの間の余白のところだ。物流スピードを表したFedExと丁寧な荷扱い示したヤマト運輸。同じ業種でもロゴマークに込めた意味から企業が大切にしていることの違いがわかる。
普段何気なく目にしているロゴマークも調べてみるとこのように含蓄があるので面白い。また、近年は、ロゴが表示される媒体の中心がスマホの小さな画面になり、さらにロゴマークがアプリのアイコンとして機能するようになったことで、デザインにも変化が起きている。今回はそうした企業の志や時代性を反映するロゴマークについて考察してみた。以下の3つの観点からお話しさせていただく。
① パーパスやヴィジョンを表すロゴデザイン
② スマホアプリのアイコンを前提とした新サービスのロゴデザイン
③ カラーでのイメージ表現
① パーパスやヴィジョンを表すロゴデザイン
1966年に誕生した米国のアウトドアブランド「THE NORTH FACE」のロゴマーク(1971年)も創業者の熱い思いが込められた秀逸なデザインである。
ザ・ノース・フェイスは「山の北壁」を意味し、登山家にとって最も難易度の高い面であることから「チャレンジ精神」を示している。右側のマークが正円を4等分した形体よりも縦長なのは、何故だろうと思っていた。実はこれには理由があった。ヨセミテ国立公園のハーフドームをモチーフにしているのだ。
3本のラインは、それぞれ「世界の三大北壁」であるスイスのアイガーとマッターホルン、フランスのグランドジョラスを表している*¹。
これだけ無駄なく志を表したロゴデザインは他にあるのだろうか。今ではバッグやウェアの装飾的なデザイン要素として認識されているが、実は深い意味と情熱が込められているのだった。
ちなみにTHE NORTH FACEが掲げる企業の「使命」は、Shaping the future of human/nature(人間と自然の未来を形作る)である。副文は「探検は、我々の酸素である」から始まっていることからチャレンジ精神を大切にしていることが窺える。
https://www.thenorthface.com/en-us/about-us
英国のグローバル企業「Unilever」のロゴマークも他に類を見ない独特のデザインである。頭文字の「U」が模様になっている。よく見ると太陽や蜂、服などの24個のアイコンで構成されており、それぞれがホームケア製品から食品に至る同社の事業や持続可能性を追求する姿勢を象徴している。
ユニリーバのパーパスは、「サステナブルな暮らしを”あたりまえ”にする」こと。それを示すアイコンの集積でロゴマークを形成するというアイデアが面白い。どことなく象形文字を刻んだエジプトの壁画を彷彿とさせる。可愛らしくもあり、社員の方々に愛着を持たれているのではないだろうか。
② スマホアプリのアイコンを前提とした新サービスのロゴデザイン
Appleは、2013年のiOS7へのアップデート時にアプリのアイコンをそれまでのリッチデザイン(影や質感で立体的に見せる表現)から「フラットデザイン」(装飾を省いた平面的な表現)に変更した。
シンプルな平坦なデザインの方が視認性に長け、ページの読み込みに掛かる負荷も低いことから、それ以来、企業ロゴのフラットデザインへの移行も進んでいる。
自動車ブランドのMINIも2018年にフラットなロゴに変更。
スマホアプリがマストな新形態のサービス企業のロゴマークは、アプリのアイコンになることを前提としたデザインにしている。冒頭に挙げたOpenAI然り、インスタグラムやTikTokなどもそうだ。それが2000年代のロゴデザインの基準になってきている。
フリマアプリの「メルカリ」は、決済サービスmerpayなどの事業拡張に伴い、2018年にロゴマークを刷新している。公式サイトに、
とあることから、人から人へ物が渡るその橋渡しを行う事業と売り手買い手のワクワク感をおもちゃ箱のような楽しげなグラフィックデザインで表現しているのがわかる。
同サイトの詳細情報によると、アニメーションにした時のモーフィング(変形)にも対応できるようリデザインされたようだ。デジタルネイティブな企業のロゴはそうしたことも考慮されている。
メルカリのグループミッションは、「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」。循環性を表すためにもモーフィングしやすいデザインにする必要があるのかもしれない。
本題から逸れるが、アプリのアイコンへの汎用性を意識し、ロゴマークを変更するケースもある。昔のテレビ画面のような丸みを帯びた赤い四角に再生ボタンの三角のマークを入れたYouTubeのアイコンは、もうすっかり見慣れてしまったがこれに変わったのは2017年である。
1971年に学生さんが35ドルでデザインしたという逸話のあるナイキのスウッシュのロゴマークは、ブランド認知が高まったことで1995年にNIKEの文字を省きマークのみに変更されたが、今思うと時代を先駆けていたということになるのかもしれない。 企業名なしでもわかるようになることが、ロゴマークのデザインの新しい使命になっている。
③ カラーでのイメージ表現
米国のロゴデザイン会社、The Logo Companyが作成した「COLOR EMOTION GUIDE」というのがある。
色が与える印象をわかりやすくまとめ、著名な企業ロゴと照らし合わせて見られるようにしている。先のヤマト運輸のロゴマークは黄色なので、楽観性・明瞭さ・暖かさを感じさせるデザインということになる。マクドナルドはまさにそういう感じだ。全てに当てはまる訳ではないが、かなり説得力のある図である。
親近感・陽気さ・自信を感じさせるオレンジは、日本では携帯電話のauのロゴがまず頭に思い付く。興奮・若さ・大胆さを象徴する赤は、コカ・コーラからNETFLIXのロゴまで新旧、業種問わず幅広くある。赤やオレンジは食欲を増す効果があるとされるので、食品メーカーに多いのも特徴。創造的・想像力豊か・賢明な印象の紫は、格安航空会社のPeach Aviationやヤマハ楽器のロゴがある。
ヤマハ楽器とヤマハ発動機のロゴデザイン。楽器の方は、高貴な印象があることから紫を採用したそう*³。バイクのヤマハ発動機は、確かに赤のBOLDなイメージが合っている。
青は、信頼性・頼りがい・強さを示すとされるが、Twitter(現X)などの新興テック企業やBLUE BOTTLE COFFEEといった今どき感のある企業が水色をロゴに使用しているので、水色に関しては個人的にフレッシュで軽やかなイメージを持っている。
緑は平和・成長・健康で、サードプレイス(家庭、職場の他のもう一つの居場所)をコンセプトとするスターバックスコーヒーなどがロゴに採用している。スタバは、1971年の創業時のロゴ(ギリシャ神話のセイレーンは当時から有り)は茶色だったが、現CEOのハワード・シュルツ氏が設立したIL GIRONALEが投資したことを機に、同社のロゴの緑に色を変更したそう。なので、スタバ起点の色の選択ではないが、近年環境への取り組みを強化していることもあり、緑にしたことが功を奏している。
黄緑だと、LINEやSpotifyのロゴがある。水色同様に黄緑もフレッシュな新しい企業の印象が持たれそうだ。
最近は、黒いロゴマークが多いような気がする。黒はこの図によると、バランス・中立性・静寂さを感じさせる色。安定感もある。黒が多いのはやはりスマホ画面でも視認性が高いからなのかもしれない。また、理性的な印象があることから現代における「先進性」を表す色になっていることも考えられる。
一方、最近の新しいロゴデザインには、鮮やかな色彩のグラデーションやセロファンのような透明感を感じさせる色使いも見られる。2016年に今のフラットデザインに変更されたインスタグラムのロゴマークや、同年に登場したTikTokのロゴマーク、2018年にデザインが一新した渋谷109のロゴマークなど、若い世代を主力ユーザーとするブランドに多い。昔のロゴデザインにはなかった配色なので新鮮味があり、若々しい溌剌とした印象を与える効果が感じられる。
企業の志に加え、時代性も反映するロゴマーク
自動車のエンブレムやファッションブランドの商品にもなるロゴマークの役割は、アプリのアイコンの存在感が高まったことでさらに重要度が増している。そのデザイン表現に企業の思いが込められているだけではなく、時代性も反映していることも注目すべきポイントだ。スマホの登場でロゴデザインにも変化が起きたように、AIの時代にはまた新たな変革がもたらされるのだろうか。引き続き追って観察したい。
《脚注》
*¹ 参考文献:ブランド・社名・ロゴマーク由来辞典「THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)の由来」
*² 参考文献:Workship MAGAZINE「Nikeのロゴの歴史。35ドルのデザインがもたらした、150億ドルの価値」
*³ 参考文献:BCN+R 「<LOGOS・ヤマハのコーポレートロゴ>ヤマハの理念を表す音叉マーク」
NewsPicksトピックス 2023.12.4掲載記事より転載(筆者:本人)
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トップ画像は、「てがきですのβ」のイラストに筆者が描いたヤマト運輸のロゴマークを組み合わせて作成いたしました。
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デザインコンサルティングのトリニティ株式会社
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