僕のジムに10年間お客さんが途切れない理由
なぜ一流があつまるジムがつくれたのか?
ジムをつくるのは簡単です。
初期投資がそんなにかからないし、器具のメンテナンスもたかが知れています。ある程度スペースがあれば、器具さえ揃えればジムの「形」はつくれてしまいます。
ただ、ジムを「経営」できるかどうかは別です。
ジムの形はつくれても、継続してくださるお客さまを集め続けなければ「経営」は続きません。
僕は10年以上、パーソナルトレーニングジムを経営してきました。
場所は西麻布の路地裏。小さなジムですが、アスリートや芸能人、経営者など、いわゆる一流の人たちがやってきます。
そういう話をすると「なぜそういう人が集まるんですか?」とか「どうやってネットワークをつくったんですか?」とよく聞かれます。
「特別なトレーニングをやっているのでは?」と思う人もいるかもしれません。
もちろんトレーニングの質には自信があります。ただ、他のジムとまったく違うメニューをやっているかというと、そこまでの差はないと思います。
では、なぜ一流の人たちが集まってくるのか?
僕らにとって「いいトレーニングを提供する」はあたりまえ。今日は、僕らがそれ以上にこだわりを持ってやっていることをお伝えしたいと思います。
「ネットで買えますよ」がダメな理由
「どうやってネットワークをつくったのか?」と質問をされたら、僕はいつも「その人がほしいものをあげられるからだ」と答えています。
どういうことか?
以前、うちのジムでこんなことがありました。
ウエイトトレーニングのあと、50代のご婦人が「家でもバランスボールをやった方がいいかしら?」とうちの新人トレーナーに聞きました。トレーナーは「あ、やった方がいいですよー」と答えています。
そのあとにご婦人が「そうよね、バランスボールはどこで買えるのかしら。ここでも買えるの?」と聞いてきました。でもうちのジムではバランスボールは売っていません。
このあと、みなさんならどう答えますか?
その新人トレーナーは「いや、ウチでは買えません。ネットで買えますよ」と答えました。
ふつうはそう答えるでしょう。でもうちのジムではこの答えはアウトです。
なぜか?
それは、そのお客さまは単に「ネットで買える」という情報を知りたいわけではないからです。
僕がこの会話を横で聞いて思ったのは、そのお客さまは「そもそも道具を選んだり買ったりするのが煩わしい人」なのだということ。たぶん「よくわからないから選んでよ」というのも込めて言っているのです。
だからもし僕だったら「今度頼んでおいて、次回来たときにお渡しできるようにしましょうか?」とか、そこまでしなくても「買えるお店のURL送っておきますね」とか。そういったご提案をします。
そこまでやって初めて「その人がほしいもの」を与えられているんです。
ジムは「クラブ」である
相手が芸能人や経営者でも同じです。「その人がほしいものをご提供する」という原則は変わりません。
この前、ある著名人のお客さまが「自分が手伝っているスイーツ屋でグルテンフリーの新商品を出すんだ」とぽろっと言っていました。
そのとき担当のトレーナーは「じゃあ、他のお客さまがいらっしゃったときにその商品をお渡ししましょうか?」とご提案していました。
僕のジムにやってくるのは健康への感度が高い人たちばかり。その人たちに商品を渡せばいいマーケティングになるはずです。
お客さま同士を紹介することもよくあります。
「新しくこういうビジネスを始めようと思っている」と言うお客さまがいたら、そのビジネスに詳しい経営者の方をご紹介する。
あるいは、クライアントを探している経営者がいたら、そのサービスを求めていそうなお客さまをご紹介します。
ご紹介するときに心がけているのが、なるべく自然にやること。「今度この時間にこの方が来るんで、うまく紹介しますよ」と裏でやっておくのです。
そのときになったら、たまたま会った風に「あっ〇〇さん、ちょっとご紹介したい人がいるんですけど」と声をかけると、相手も「僕も〇〇さんとお話ししてみたかったんです」みたいになったりします。
僕らはそういうことを日常的にやっているので、ジムというよりは「社交場」というか「クラブ」をやっているのに近いかもしれません。銀座のクラブのママが社長同士を紹介し合ったりするのと一緒です。
しかも、それを酔っぱらっていないフレッシュな状態でやるから、話も進みやすい。「時代は銀座のクラブより西麻布のジム」と言いたいくらいです(笑)。
うちのお客さまは、トレーニングをしに来ているようで、実は「トレーニングでつながった人間関係のコミュニティ」に参加しに来ていると言えるのかもしれません。
「ひとりの人間」としてお客さまに向き合う
僕らが提供するサービスはあくまでトレーニングです。
でも、僕らが願っているのは「お客さまの人生」がよりよくなること。そのためにできることをやるのが僕らのスタンスです。
そういう意識で行動していると、お客さまには「言ってもいないのに先回りしてくれた」「私のことを考えてくれているんだ」と思っていただけます。
そこまでいくと、お客さまはなかなかやめません。
これって、トレーナーが「ひとりの人間として」信頼されるということ。
単に「トレーニングを提供する側とされる側」という関係だと、トレーニングという対価でしかつながっていません。これではトレーニングが必要なくなったらやめてしまいます。
でも、ひとりの人間として「この人に会いたい」とか「話したい」と思ってもらえる関係になると、サービスを使うとかやめるといった話ではなくなります。「人間関係をやめよう」とはならないのです。
うちジムの場合は、お客さま同士のコミュニティーもできています。だから、なおさらやめていく人は少ないです。
「お客さんとお店」という関係を超えて「人間同士の関係」にすることが、結果的にお店や会社を盛り上げることにつながります。
「モテる人の行動」を心がける
少し昔の話になりますが、僕は独立する前に働いていたジムでは成績トップでした。
それも「その人がほしいもの」をご提供してきたからだと思っています。
けっして「トレーニングの知識」が詳しいから一番になれるわけじゃないです。もちろん知識は詳しいですが、その上で「その人がほしいもの」をちゃんと把握して、いろんな手を使って提供することが求められます。
これはまさに人間関係のつくりかた、もっと言えば「モテる人の行動」に近いのかもしれません。
自分自身がモテていた、と言いたいわけではないのですが、女性とお付き合いする中でそういうことを身につけてきた部分はあります。
ダイエットしたい女の子をすごいジャンキーなお店につれていったら、そりゃ嫌がられます。モデルさんと付き合っていたら、撮影日がいつかによって食べられるものも変わってきます。
僕は焼肉にかなりこだわりがあって、とにかく肉にこだわりを持っている、どちらかといえば地味な感じの店が好きです。
でも女性の好みによっては、写真映えするような六本木の高級焼肉につれていくこともあります。僕はそういう派手な店は好きではないけど、そこで僕のこだわりを語っても意味がありません。
ようするに「自分の行きたい店」ではなく「相手の行きたい店」をきちんと考えるということ。みんな、意外とこれができないのです。
はっきり言って、トレーニングの技術とかやることなんてトレーナーによってそんなに変わりません。
いいトレーナーとそうでないトレーナーの違いは、お客さまに「ああ、私のことをわかってくれてるんだ」と思ってもらえるかどうかです。
女性だって「理解されてない」とか「私のこと考えてもらっていない」ということに怒るわけです。お客さまも同じです。
センスは関係ない
こういう話をすると「相手のことがわかるってセンスですよね」と言われることがあります。
でも僕から言わせれば「センス」じゃないです。みんな「センス」の勝負だと思い込んで、「とにかく相手のことを考えよう」という人が少ない。
いちばん大事なのは、まちがえてもいいから「この人はこれがほしいんじゃないかな」とわかろうとする姿勢です。
そのためにはまず「こっちがベラベラしゃべらないで相手の話聞く」こと。ていねいな言い方をすれば「傾聴」です。
簡単に思えるかもしれませんが、これがけっこう難しい。みんな意外と自分の話ばかりして、相手の言っていることに耳を傾けられないのです。
たとえばトレーニングで言えば「もう無理です」と言っていても、あとから「いや、もうちょっとできたかもな」とぽろっと言う人もいます。そういうキーワードを見逃してはいけません。
そういったことをヒントに「あ、この人ほんとは追い込んでほしいんだな」などと理解していきます。もちろんほんとうに追い込まれるのが嫌な人もいるので、やりながら出る発言から考えていきます。
「この人はこういうタイプだろう」と想像するのも大切ですが、想像だけではダメです。それは勝手な思い込みかもしれません。
実際にお話を聞かせていただいて、その中から相手のほしいものに関するキーワードを見つけていく。そして「こうでしょうか?」とお伺いを立てながら出していくことが大切です。
「自分にはセンスがないから」と思う人もいるかもしれません。
でもそれって、相手の話も聞かずに勝手に想像して、それが相手の望むものと違ったら「センスがない」で終わらせてしまっているだけではないでしょうか?
僕からすれば「いやいや、どれだけ一生懸命考えてますか?」という話なんです。
仕事とプライベートをわけない
相手のことを理解するには、けっきょく相手に対して「どれだけ興味を持てるか」にかかっています。
たとえばうちのジムの三浦という女性のトップトレーナー。戸田恵梨香さんやイモトアヤコさんなど、多くの有名人を担当させていただいています。
彼女のすごいところは「お客さまのファンになる」を徹底していること。
まず、お客さまが出ている舞台やコンサートは絶対に観に行きます。彼女、ほんとうに毎週観に行っているんです。
そうすると当然お客さまからも信頼されます。「この前の舞台でここの動きが鈍かったから重点的にトレーニングしたいんだけど」などと相談され、お客さまの活動をいちばん近くで支えるパートナーになっていくのです。
番組も欠かさずチェックします。仕事を終えたらイモトアヤコのラジオを聞きながら帰るのが日課だそうです。もちろんテレビもチェックします。
そこまでやれば、お客さまも「ああ、見ててくれたんだ」「ほんとうに私のことを考えてくれているんだ」と思ってくれるでしょう。
本気で「その人のためになりたい」と思えば、自然に興味がわくもの。「仕事だから見なきゃ」ではなく、純粋に「この人のことをもっと知りたい」という気持ちなのです。
そうなると仕事とプライベートがあいまいになっていきます。
「いまからはプライベートだから仕事のことはやらない」とはならずに、アスリートにも連絡するし、女優さんが出ているテレビも見ます。
野球を見に行くとか、サッカー見に行くとかも、僕にとっては仕事です。ときには舞台を見に行くことも、仕事なわけです。いろんなサウナを体験しに行くのも仕事。いろんなマッサージを受けに行くのも仕事。
だから、仕事であって仕事じゃない。そこの垣根みたいなものは、非常にあいまいです。
さっきのバランスボールの話も、会社員の対応としては「ネットで買えますよ」で合格なのかもしれません。
でも僕らが目指しているのは、仕事がどうこうという話ではなく「ひとりの人間としてどう役に立とうとするか」という世界なのです。
それができる人の周りには、自然に人が集まってきます。これはジム経営やビジネスの秘訣というより、人生を豊かにするコツなのかもしれません。