財布を落とした話【#お金について考える】
今回のテーマが「金」という、範囲の広い漠然としたものであり、初めのうちはこれならなんでも書けるではないか、などと甘くみていたものの、テーマが大きすぎて逆に何を書いたらいいのか分からなくなってしまい、この気持ちを例えて言うならば、高級バイキングに行ったときに、寿司もステーキもフカヒレスープも何でも揃っているがために、最初に何を食べて良いか分からなくなり混乱して、とりあえずおにぎりを食べてしまう感じに近い気がするのだが、それにしても本当につかみ所のないテーマであって(お湯を入れた後のペヤングの容器と同じくらいつかみ所がないと言っても過言ではないだろう)、甚だ途方に暮れているのだけれど、いつまでもこんな風に愚痴を言っていても仕方がない、ということぐらいは充分に認識しているつもりである。
経済学部に5年も在籍していた僕としては(ここ笑うところです)、やはりここはマルクスやマックス・ウェーバーなどを例に出して、金というもののシステムを論理的に解明していきたいのはやまやまだが、内容がとても高度になることが予想されるし(書いている本人にも理解できないくらい)、なによりマルクスもウェーバーも1ページたりとも読んだことがないという事実を今思い出したので(テストによく出るから名前だけは知っている)、今回は別の事を論じていきたい。
大学時代に金を落としたことがある。財布がないのに気づいたのは昼休みが終わった後の三限の講義中だった。どこで落としたのかを考えて、学食で飯を買ったときはあったから、学食のテーブルの上に置き忘れてきたに違いないと思った。その日の俺の財布には一万六千円が入っていた。一刻も早く講義を抜け出して、財布を取りに行かなければいけないのだが、運が悪いことにその講義が「英語」で、なにやら外人の教師がぺらぺら話している最中だったのだ。
俺はテンパリながらも「エクスキューズミー」と教師に言った。教師とクラス中の生徒の視線が俺に集まる。教室に知り合いは一人もいず完璧にアウェイであったため俺はかなり緊張しながらも、「アイ フォゴット マネー! アイ フォゴット マネー!」とめちゃくちゃな英語を叫んだ。教師はこのイエローモンキーは一体何を言っているんだという感じでぽかんとしていたのだが、俺は説明するのも面倒くさくて「イマージェンシー!イマージェンシー!」と叫びながら、教室を抜けだし学食へと走った。
学食のテーブルの上に財布が見つからなくてあせったが、学食のおばちゃんに聞いてみたら、財布が落とし物として届いていたのを知り、俺は安堵した。が、財布の中身をチェックしたところ、一万六千円入っているはずが、何度見ても六千円しか入っていないのである。「一万円だけ抜かれた!」ということに咄嗟に気づいた俺は、激しい怒りを覚えつつも、たぶん盗んだ奴は良心の呵責から全部は盗まず、一万円だけ抜いて財布はまた置いていったんだな、いい奴とは言えないまでも、少しは酌量の余地がある、などと考えていた。
その時である。俺に悪魔の声がささやいたのは。もしかして今俺の目の前にいるこの学食のおばちゃんが、一万円抜いたんじゃないのか、と俺は考えてしまったのだ。財布を届けてくれた人はちゃんと届けたのに、この学食のおばちゃんがこっそり盗んだのでは、と。
ああ、なんて醜い俺の心!あのときの俺は汚れきっていた!牛の糞だ!ひどい!ひどすぎる!悪魔だ!人間として最低だ!あのいつでもニコニコ笑顔の心優しい学食のおばちゃんを、たとえ一瞬たりとも疑ってしまったあのころの俺を、今すぐぶん殴ってやりたい!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿俺の馬鹿!!最低だ!ああ、本当に最低だ……。
それ以来僕はすっかり改心して、今ではとても良い人間になりましたよ、というお話でした。
完(結局何が書きたかったのかよく分からんけど)
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?