忘れてた、歩兵の最中だった。
間違えて頼んだホットコーヒーを目の前にして、村上春樹を読んで夕暮れを待つ。こんな時間の使い方こそが至高。
今日から3日間、在宅ワークをして、さらには15時に毎日仕事を切り上げることにした。自分の時間は確保した上で労働も行うべきだ。
今日のAM、僕と他部署の担当者はチャットしていた。全セールスへのアンケート協力いただいたことの御礼と生データを主担当者へフィードバックするという案件で、その連名発信のメールをどうするかというもの。どうせ受け手なんて50人くらいしかいないメールだけど、受け手のためを思ってのいくつかの配慮を散りばめたメールを拵えた。
あとは両上司の承認ののち発信するだけだ。
両上司の名前を“発信“、僕ら担当者は“担当“として名を連ねるとはいえ、社内でこんな畏まる必要あるかと幾度となく思うが、これが通行するための御作法だ。
A氏「ファクトとはいえ、本文にこのデータが載っていると横槍が入って面倒なことになるから本文から添付を消してくれ」
B氏「匿名とはいえ、年代と担当客先から特定される可能性があるから『必要に応じて活用ください』ではなく『取り扱いご注意ください』とするべき」
リスクヘッジの賜物により、見事に配慮したはずの添付は削がれ、伝えることは伝えているという体をなすための文言が添えられた。いっちょ上がりといった具合に量産型のメールが出来上がった。
ダサいなと思う反面、彼らも彼らなりに制約の中で働いている。
僕と事前に打ち合わせしていた担当者の後輩は即座にチャットをくれた。
「そう言われるけどもこうしたら両立できるかも・・・」
「考えたけど、リスクヘッジの賜物により、我々の配慮は削がれました。あくまでも上司が発信者であり、僕らは一担当者の捨て駒だったね。忘れてた。」
「そうでした。歩兵でした。」
無にした感情の中、僕はメール発信をクリックした。
歩兵の役割を全うした僕は15時にはPCを閉じて外に出た。
切り売りした時間と自分の時間は別物で、自分の時間で好きに動けばいい。
ホットコーヒーを間違えて注文したっていい。
ゆっくり飲もう。
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