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院長先生に知ってほしいオープンソースソフトウェアのこと

 歯科業界でもデジタル化が進むようになり、電子カルテやレントゲンなど多くのものがデジタル化されてきました。その一方で、そういったデジタル機器への導入費用が経営に大きく影響するようになり、導入をどうするかは悩みの種になります。

今回はソフトウェア開発側から見た歯科医院へのデジタル化について考察してみたいと思います。


デジタルが活用される場面

 最近ではSNSの広まりにより、スタッフ間の連絡にもLINEが使われるようになってきています。また、Wikipediaといった情報共有システムも一般的に認知されるようになりました。

しかし、このようなパブリックシステムには問題点もあります。いくつか例を挙げてみます。

LINEなどパブリックSNSの問題点

職場でLINEを活用すると、プライベートで使っているアカウントを職場と共有しないといけません。スタッフ同士が仲良くなってからLINEを交換するならいいかもしれませんが、入職初日にLINEのアカウントを院長と交換することはあまり気分がいいものではないかもしれません。また、短い期間で退職したとしてもLINEのアカウントは変わらないままです。休日でも職場からLINEの通知が鳴り続け休日まで仕事に追われないといけなくなります。

また、情報漏洩の問題もあります。ハッカーはLINEなど大きな組織を狙おうとします。そのほうが与えられる損害が大きいからです。よって、院内で治療経過や患者さんの情報を共有したいことがあっても、不特定多数の人が使うSNSに患者さんの情報をアップロードすべきではありません。たとえ非公開アカウントでも危険を伴います。

パブリックSNSにはデータ容量の制限があります。患者さんの写真や動画、あるいは研修の資料をアップロードしようとしても、容量制限があったり、一定期間で削除されるなど院内での情報共有としての使用には不利になります。

Wikipediaなどの情報共有システムの問題点

Wikipediaはとても便利で、だれもが一度は知識の共有に使ったことがあるかと思います。Wikipediaのようにいつでも知りたいときに情報を確認できるシステムが院内にあったらどれだけ便利でしょうか。

連絡ノートなどを使って、スタッフ間で情報共有をしていることもあるかと思いますが、古くなったノートのページを読み返してすべての情報を確認することは不可能ですし、新しいスタッフが入職されたときにすべて読み返してもらうことは不可能です。また、必要なったときにその都度連絡ノートに追記していくため、同じことを何度も連絡することになってしまったり、過去のページを内容ごとにまとめる作業は困難になります。ノートのどのページに何が書いてあるのか検索することもできません。

しかし、Wikipediaはインターネットに公開されていますので、院内のマニュアルをWikipediaに書き込むことは不可能です。

プライベートSNSという提案

プライベートSNSは、院内限定のネットワークを構築するアイデアです。院内からしかアクセスできない、あるいは、院内のスタッフしかアクセスできるURLやアプリを知らないという条件で使うことができる、閉じられたネットワークのことです。

わかりやすく電子カルテを例にすると、電子カルテの端末は院内でLANやWifiでつながっていて院内からは自由に接続することができますが、特別な設定をしない限りは、院内からしかアクセスすることしかできません。最近ではクラウド型も普及してきましたが、それでもアクセスするURL等は院内でのみ共有されており、電子カルテの内容は歯科医院に勤務している人しか見ることはできません。これは電子カルテのシステムがプライベートなシステムとしてデザインされているからです。

院内プライベートネットワークの利点

院内にプライベートネットワークを構築すると、LINEのようなSNS、Wikipediaのような知識共有システム、写真や動画の個人情報を容量無制限で共有できるシステム、さらには院内研修でそれぞれのスタッフの研修状況を管理できるシステムや技工物の記録を管理できるシステムなど様々なシステムを、インターネットから隔離された状態、あるいは半隔離状態で構築することができます。

そして、実はこれらの超便利なシステムの構築を可能にするのが、今回紹介したいオープンソースソフトウェアの存在なのです。

便利なオープンソースソフトウェアを理解する

もっとも大きなメリットは高性能で無料であること

オープンソースソフトウェアは、多くの場合無料です。無料といっても、フリーソフトとは少し違います。オープンソースソフトウェアが広まる前からフリーソフトといって無料のソフトは多くありました。フリーソフトも無料で使うことができますが、開発者が個人のプログラマであることも多く、性能が限定的だったり、新しい機能がアップデートされるには時間がかかったり、ユーザが自由にカスタマイズすることは不可能な場合がほとんどです。

オープンソースソフトウェアの場合は、世界中の人が開発に加わる仕組みのため、無料とは思えない高性能と、とても速い開発スピードが特徴です。

なぜ高性能で無料が実現できるのか

オープンソースソフトウェアのソースとはソースコードを意味しています。ソースコードはソフトウェアを動かしているプログラムそのものです。オープンソースソフトウェアでは、ソースコードのすべてがインターネットに公開されています。そして、誰もがそのソフトウェアの開発に参加できるのです。そのため、ソフトウェアのすべてが自由にダウンロードして使うことができる状態になっているため、ソフトウェアを入手するためにお金を払う必要はありません。また、世界中の人が開発に協力しているためアップデートやバグの修正がとても速いのもの特徴です。そして開発にかかわる人たちが思いついたいいアイデアは新しい機能として追加されるため非常に性能がいいものになります。

また、もうひとつ大切な側面としてセキュリティ上の安心が大きいといえます。世界中の人がソースコードの中身のすべてをチェックできるため、悪意のある人が意図的にマルウェアのコードなどを書き込んだとしても、たちどころに発見され修正されるでしょう。ソフトウェアに脆弱性があればすぐに修正されます。

Androidは世界一有名なオープンソースソフトウェア

オープンソースソフトウェアという言葉はあまり聞きなれないかもしれませんが、実はオープンソースソフトウェアはとても身近にあります。スマートフォンに入っているAndroidはオープンソースソフトウェアです。スマートフォンの本体はお金を払って買う必要がありますが、中に入っているAndroidと呼ばれるOSはオープンソースソフトウェアなので、無料で誰でもダウンロードできます。Androidはスマートフォン用に開発されてきたOSなので、Android=スマホというイメージが定着していますが、Androidは自由にダウンロードしてスマホに限らずパソコンにもインストールできます。

オープンソースソフトウェアのデメリット

オープンソースソフトウェアは無料で高性能なソフトウェアが手に入る一方で、デメリットないわけではありません。一番のデメリットは、有料のソースソフトウェアを購入する場合と違い、サポートを受けられないという点です。自由にダウンロードできる分、困ったことがあったとしてもすぐに誰かが助けてくれるわけではありません。もちろんインターネットにはさまざまな技術的情報がありますので、原因と解決方法を調べることもできますが、使い方もからトラブル対応まですべて自己責任となります。

歯科医院の経営に役立ちそうなオープンソースソフトウェアの紹介

便利なオープンソースソフトウェアをいくつかご紹介します。今回は簡単な紹介だけなので、導入方法などはご案内できませんが、無料でこんなに便利なものがあるのだと知っていただけたらと思います。オープンソースソフトウェアは世界規模で開発されていますので英語のサイトが多くなりますが、世界規模で開発されているだけあって、多言語に対応することが多く、使用する際は日本語で使用することができます。


チャットシステムを紹介します。LINEのようなチャット機能をプライベートネットワークで自由に構築できます。スマートフォン専用アプリもあり、新しいメッセージが投稿されると通知も来るためとても便利に使うことができます。スタッフの個人的なLINEアカウントを職場と共有する必要もなく、退職された場合は個別にアカウントを停止することも可能なので安心です。

RocketChat

RocketChatはLINEのようなチャット機能を提供します。グループを自由に作ることもファイルを共有することもできます。

NextCloud

NextCloudはチャット機能とDropBoxのようなオンラインストレージ機能を合わせたようなソフトウェアです。スマホでチャットやファイル共有を行うだけではなく、PCで共有フォルダを設定すればDropBoxやOneDriveのようにファイルの自動共有が可能になります。また、カレンダーなどの追加のプラグインが豊富にあるのも特徴です。


E-Learningで使えるオープンソースソフトウェアです。E-Learningはオンライン学習のシステムで、学習者一人一人の学習進捗状況を確認することができます。スタッフ研修に利用すれば、スタッフごとの研修の習熟度を個別に管理することができ、スタッフごとに個別の課題を与えることも可能です。また、理解度をテストすることも可能です。

Moodle

Moodleは世界的に有名なE-Learningシステムです。テキスト、画像、動画など様々な学習教材が利用可能で、課題の提出やテストも実施可能です。

iroha Board

iroha Boardは日本で開発されたE-Learningシステムです。比較的シンプルな内容で、指導者と学習者側両方にわかりやすいシステムになっています。


Wikipediaのような知識共有システムが構築できるオープンソースソフトウェアです。院内のさまざまな業務の決め事やマニュアルを一元管理できます。連絡ノートなどでやり取りし、「以前に伝えたのに伝わってない」、「やり方が統一されなくて困る」、「知ってる人にいつも聞かないといけない」、「新人が来るといちからすべて説明しなおし」、「どこに書いたかわからない」といった問題を解決できます。

MediaWiki

MediaWikiはWikipediaのような知識共有システムです。有名なWikipediaも
MediaWikiをもとに開発されています。

DokuWiki

こちらも使いやすい知識共有システムです。見た目と使い方がシンプルなのが特徴です。


グループウェアを紹介します。グループウェアとは社内メールなどの連絡手段だけでなく、一時的に共有したい告知などを全員に届いたか確認できる掲示板機能やカレンダー共有機能、ファイル共有機能、書類の稟議管理など様々な機能を提供するソフトウェアです。

GroupSession

こちらはめずらしく日本で開発されているグループウェアです。企業での導入実績もあります。オープンソースソフトウェアとして無料で導入することも可能です。


オープンソースソフトウェアのCMSを紹介します。CMSとはコンテンツ・マネジメント・システムの略で、プログラミングの知識なしで、さまざまなWebサイトを構築することを可能にするソフトウェアです。CMSそのものはWebサイトのベースとなるもののため、歯科医院のホームページから独自の業務管理サイトまで自由に作ることができます。Webサイトといっても、プライベートネットワーク内で構築すれば必ずしも作ったものがインターネットに公開されるわけではありません。

Drupal

DrupalはアメリカのNASAやホワイトハウスでも使用された実績のあるCMSです。ホームページだけでなく、さまざまな機能のあるWebサイトを構築可能です。プラグインで機能を追加できるためEコマースのショッピングサイトまで作ることが可能ですが、歯科医院の業務に関連したところでは、技工物の発送納品記録システムを構築したりすることが可能です。普通であればこのようなシステムはプログラミングの知識が必要ですが、CMSを使うとさまざまな機能が部品のようにあらかじめ作られているので、組み合わせるだけでオンラインシステムを構築できます。

https://www.drupal.org/


ちょっと変わったオープンソースソフトウェアを紹介します。最近では院内にセキュリティカメラを設置して、トラブル防止や院内のスタッフの導線を管理することも増えてきました。個室の診療室が多かったり、分院があるとスタッフの管理が見えづらくなり、院長先生が全体の動きを把握することが難しくなることがあります。その場合にセキュリティカメラを院内に複数設置することがありますが、ネットワークカメラを使用したシステムを導入しようとすると専用の録画システムの導入などで非常に高価なコストがかかります。

iSpy

iSpyはIPカメラ録画管理ソフトウェアです。これまで非常に高価だったネットワークカメラ録画管理システムをひとつのソフトウェアで達成できます。ネットワークカメラを設置すれば、あとはネットワークを介してiSpyが画像を管理してくれます。動きがあった時だけ反応するモーションセンサー機能などもあり、これまで高価だったシステムを無料で構築できます。すべてのカメラの情報を院長のスマホでチェックするなんてことも可能です。

まとめ

今回はオープンソースソフトウェアという概念と、歯科医院で役立ちそうなオープンソースソフトウェアをご紹介しました。実際の導入方法までは説明できませんでしたが、それらはやや専門的になるため簡単ではありません。しかし、個々の企業が開発した電子カルテのように、これまでなら高額な費用を払うことが常識だったさまざまなシステムが、オープンソースソフトウェアの登場により場合によっては安価で構築可能だという事実をお伝え出来たら幸いです。コンピュータに興味のある院長先生がいたら、医院の経営に役立つこと間違いなしです。



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