神さまの貨物
最後の情景が、愛の表現が、新しかった。
とてつもなく大きな愛を見た。
赤ちゃんを授かりたい貧しい木こりのおかみさんがいた。
強制収容所行きの
貨車から放られた赤ん坊がいた。
その赤ん坊の命は、次々と
愛のバトンで繋がれる。
最後は、絶望を知った者故の本当の愛。正真正銘の、愛でしかない行動を見ることができる。
第二次世界大戦で起きたユダヤ人のホロコーストがベースにある物語だけれど、その惨状はほとんど描写されていない。
当時、強制収容所というシステムを、付近住民は知らなかったという説もある。
木こりのおかみさんもその一人で、彼女は何も知らなかった。木こりは強制労働で、絶滅収容所の建設にあたっていた(らしいことが読み取れる)。そして、自分のおかみさんが連れてきた赤ちゃんが何者かも知っていた。そして、そのことが周囲に漏れたら大変なことになることも。
それでも、いつしか赤ちゃんを愛しく思うことになる。
貨車から双子のうちの一人を雪の森に放った男は、その判断がよかったのかどうか悩み続ける。いつどこに停まるかもわからない貨車の中で、冷たい妻の視線、二度とぬくもりを感じることのなかったもう一人の赤ん坊。妻と赤ん坊はその後すぐに選別されてしまった。
戦争が終わり、自由になった男は、もう一人の赤ん坊を探す。まずは線路伝いに歩くが、諦めて大通りをゆく。そこで出会うのだ。かつて自分が赤ん坊を包んだ豪奢なショールに。チーズ売りの女の膝で女の子が座っていた。男は、少女からチーズを買う。確信して、見つめた。そして、そこを立ち去った。
幸せそうな母と娘を見て、名乗らずに立ち去った。
児童向けに紹介された本だが、お伽話風に描かれているが、人間の心理描写の鋭さと正確さに驚かされる。極限に追いやられた人間がどのような感覚を持つのか。
あの時あったこと、行われていたことを知らないのであれば、その深い描写も御伽噺のように感じるだろう。
不思議な本。