街と自発性「デジタル化で消失する共の場」
こんにちは、デンソー先行デザインの平賀です。
(今回は少し思うことがあって、共の場に関する雑談です。)
消える空き地
秋の深まりと共に体調を崩す人がちらほらと出てきましたが皆さんお元気ですか? コロナ禍ということもあって私も体調管理に気を配っていますが、ずっと家にいても気分が落ち込むので、人混みを避けるために山間にドライブにいく機会が増えてきました。
私がよく行くのは豊田市の山間、矢作川沿いのエリアで、道沿いの公園や空き地に車を停めて音楽を聴きながらぼーっと考え事をします。この空き地の周辺は鮎釣りのメッカとしても知られていて、例年五月の鮎釣りの解禁日以降はここを拠点に釣行に向かう釣り客で賑わうのですが、最近立ち入り禁止になるエリアが増えてきました。
以前豊田市役所に移住の相談に伺った時、これらの空き地で夜中に騒ぐ人やゴミの放置などの問題があり、迷惑施設になっていると職員さんがおっしゃってました。閉鎖の詳細な理由は不明ですが、おそらくコロナ禍で普段と比べ物にならない数の人がBBQに来たことも関係しているのでしょう。マナーを守る釣り客のために開放されていた善意の空間が、想定しない利用者の増加によって閉鎖せざるを得ない状況になってきているのだと想像できます。
公・共・私の空間
以前弊社にて慶應SFCの加藤文俊教授にご講演頂いたことがあり、その時先生は「社会には公共私の3つの空間がある」とおっしゃってました。
公:市役所や公園といった利用ルールが明確で管理された空間
共:利用ルールが明文化されておらず、良心とマナーで共有される空間
私:個人が持つプライベートな空間
先ほどの矢作川の空き地のような場所は3つの中の共の場にあたり、この空間がどんどん無くなってきてるそうです。
「良心なんて不明確なもので運営するより、ルールでもってちゃんと管理する方が安心だしわかりやすいからいいのでは?」と思われる方もいると思いますが、すべてを公の場にしてしまうと管理する必要が出てきます。
・1週間前に申請書を出さないと使えない野球場
・役所の開庁時間内しか利用できないセミナールーム
・許可を取らないと水が出ない公園の蛇口
など、管理のために利便性が下がったり、管理コストを税金で払ったりしなくてはいけません。もしこれが良心とマナーで運営できるなら
・放課後に異なる学校の生徒同士が自然と試合を始める野球場
・終業後のサラリーマンが勝手に集って物づくりをするセミナールーム
・自由に水が飲める蛇口
など、もう少し自由で魅力的な活用をすることが出来ます。
デジタル化が社会から共の場を消してゆく
私は今回の矢作川の公園で問題が起こった要因の一つがGoogle mapではないかと考えています。Google mapで矢作川沿いを見ていると、一つ一つの公園にレビューがついていて、その場でBBQができるがどうか確認できるようになっています。中には名前もない空き地にBBQができる場所としてピンが立っている場所まであり、どれもコロナ前までは楽しく過ごしたというコメントに溢れ、最近はマナーの悪さや閉鎖の悲しみのレビューが散見されます。
昔は現地に行って初めて空き地を確認し、先客の振る舞いを見ながらそこで過ごすルールを学ぶことで維持されていた場所が、map上にデータとして登録されて誰の目にも見えるようになってしまったことで、共の場としての運営ができなくなってしまったのではないでしょうか?
Google mapは個人が編集可能な分、共の場のような非公式な場でもすぐにデータ化されるため、利便である反面、利用者同士の暗黙のルールといった一緒に可視化しなくてはいけない情報が可視化されなかったり、仮に可視化されても、それを無視する属性の人にまで情報がオープンになります。
結果、魅力的な共の場ほどデータ化され、可視化され、イレギュラーの発生確率が上がり、閉鎖されるか管理される公の場へと変貌してしまいます。
この流れは何もフィジカルな場所だけでなく、デジタルな場所でもクローズドコミュニティやフィルターバブルといった形で発生してきており、社会全体が共の場の無い公か私かの世界になってきてる気がします。
まずは自分のマナーから
デジタル社会で共の場を維持していくための技術や仕組みはこれからもっと必要となっていくかと思いますが、今時点で共の場を維持するために我々にできることはフィジカル空間にしてもデジタル空間にしても一人ひとりの良心とマナーだけです。
日本の社会は一度問題が起こると厳格なルールで行動を縛ってしまいがちですが、あらゆる行動をルールで縛る社会では人々の自発性は高まらず、社会は活性化しません。
なにより自分の大切にしていた場所がどんどんと無くなっていく社会は寂しい限りなので、私たちの行動一つ一つがその場所を残している自覚を持って行動したいですね。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。