高齢者を対象とする聞き取り調査で注意すべきこと・その2(問題点の整理編)
高齢者を対象とする聞き取り調査で注意すべきこと・その1では、一般的な注意事項を書かせていただきました。各方面でお役に立てていただければと思います。この「その2」では本法人が調査を行う上で、どのような問題点があったかを書かせていただこうと思います。
「着物を寄贈されるようなお年寄りって、良い方ばかりでしょう?」と聞かれますが、実は違うのです。私たちが体験した危機は、こんなものでした。
そもそもの始まりは博物館から
その寄贈のお話は、京都文化博物館の学芸員さんからもたらされました。「古い着物を寄贈したい方がある」ということで、まずはその方のお話を伺うことになりました。京都市内の烏丸通りに面したホテルのロビーでお会いしました。なんでもそのホテルの敷地も、そのⅠさんという女性のご実家がお持ちだった土地ということで、議員の親戚もいるとのことでした。
Ⅰさんは当時80歳くらい、東京都にお住まいで、京都には源氏物語の講義のために来られているということでした。ある高名作家の秘書をされた経験があり、源氏物語にはお詳しかったようです。
着物そのものはⅠさんが子供の頃からのものに加え、男物もあるとのことで、ひとまず預かって目録を作成するということになりました。数日後、近鉄向島駅の近くのマンションに向かいました。
着物だけで約200着ありました。子供服なども合わせると300点以上だったでしょうか。早速目録を作ってエクセルで表にしました。エクセルには画像をつけてわかりやすくし、タイトルと簡単な説明をつけました。
何かと難しくなってくる
ご報告のため、その源氏物語の講義をされているホテルに伺うと、これも80歳くらいの男性が受付をされていました。Ⅰさんのご親戚とのことでした。目録をお渡しし、当時京都新聞に連載していた私の新聞記事と法人の活動履歴などもお渡ししました。
数日後、お電話があり、「あの目録では不十分だ」と言われました。ほとんどの寄贈先にお出ししているのと同じ様式なので、次回お会いしたときにお伺いします。と返事をしました。Ⅰさんの用件はもうひとつあり、「まだ布地などがあるが、それも希望するか?着払いで送ってもよいか?」ということでした。これについては送っていただくようお伝えしました。
数日後、箱が届きました。30cmx50cmx60cmくらいの箱が4つで、着払いで全部で6000円でした。中を開けるとそれぞれに雑巾が5枚ずつ入っていました。これはあんまりなので、その旨お伝えすると、「年寄りが一生懸命包装したのに。寄贈を受けるといっておいてなんだ」と逆切れされました。
また、お会いしたホテルで受付をされていた男性が「あなたのことを礼儀をわきまえないひどい態度だったと言っています」と、本案件に関係のない発言もありました。数分しかお話ししていないので、これはⅠさんご自身の感想であったようです。
返却を決める
本法人の理事2名と協議した結果、この方の寄贈品はお返しすることにしました。そして、筆者は話し合いのためにそのホテルに向かいました。驚いたことに、本人の他にその親戚の男性と、Ⅰさんの着物で研究をする予定だった立命館大学の学生2名も呼ばれていました。
返却にも宅配便の代金がかかります。また寄贈品をチェックする人件費もかかるので、見積もりをお持ちしました。Ⅰさんは最初渋っておられましたが、親戚の男性が「これだけ払えば返って来るのだから、支払いなさい」と言い、支払いをされることになりました。
数日後振り込みがありましたが、なぜかその2名の学生の人件費は差し引かれていました。気の毒でしたが無償で返却の立ち合いと確認をしていただきました。その後、子供服に関してはどこかの大学の先生が研究対象にされたと聞いていますが、着物の行方は分かりません。
この案件から得られる教訓
Ⅰさんは源氏物語の講義などもされているので、部分的にはしっかりした方だと思いますが、やはりご高齢なのですべてのことを記憶されている訳ではないことが判りました。また、京都にお越しのとき、身の回りのお世話やお手伝いをする方がなく、ご本人の発言についての確認ができませんでした。こうした方のいる・いないで、問題の進み具合も大きく変わることを実感しました。
また金額についても同意された金額の振り込みがなかったので、それもお伝えしようと思いましたが、揉める可能性があったので、迅速な返却を優先しました。
もちろん段階的に、寄贈への同意などの書類は頂いていますが、その後に目録の良しあしについて言及されたところを見ると、「寄贈という行為についても法律上の正しい理解(民法上の所有権の絶対性)などがなかった」と思われます。
本法人については、いろいろ人手や時間のかかった案件でしたが、良い教訓になったと思います。更に、一番目的とした聞き取り調査については、それぞれの着物にご記憶がなかったのか、言及されることがありませんでした。この点も早く返却を決めた理由のひとつです。
今、日本中で「手持ちの着物を何とかしたい」という声が上がっています。売却でもなんでもいいから片付けたいという方は、比較的簡単に身軽になれますが、「自分のコレクションは価値があるもので、これでもうひと花咲かせたい」という方は何かと難しいと思います。それは、「寄贈する」といいながら執着があるからです。そうした方々を相手にされるNPO法人の方や学芸員の方に、少しでも参考になればとこのシリーズを掲載しております。
似内惠子(特定非営利活動法人京都古布保存会 代表理事)
(この文章の著作権はNPO法人京都古布保存会に属します。無断転載・引用を禁じます)
その3も掲載しております。その2からお読みの方はその1も御覧ください。
https://note.com/denshoubunka/n/n6a6425a1a0a6
【関連サイト】
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http://www.kyoto-tsubomi.sakura.ne.jp/
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