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黄八丈という織物

昔のテレビの時代劇を見ると 町娘に扮した女優さんがよく 黄色に赤と黒の格子縞の着物を着ているのに気づかれると思います。
大抵はその着物に黒い布地で襟をかけています 。これが黄八丈という 着物です。 全てがそうということではありませんが 江戸時代に八丈島で生産されていた織物で黄色い 地色が特徴です。

「黄八丈」という名のいわれ

本場黄八丈は東京都の伝統工芸品に指定されています。年貢の代わりに貢納布として幕府に納められていた他、江戸時代後期には「恋娘昔八丈」という人形浄瑠璃で「黄八丈」の衣装が採用され、後に歌舞伎として上演されて爆発的な人気を誇ったと伝えらています。
八丈とは本来、一疋(二反)を八丈(一丈は曲尺で3.03m)の長さに織り上げた 絹織物の呼び方です。古くは11世紀の「新猿楽記」にに「美濃八丈」、15世紀初めの「庭訓往来」に「尾張八丈」の語が見られます。 しかし八丈が八丈島の特産品として 江戸で珍重されるうちに、 八丈島の絹織物が八丈と呼ばれるようになったものと考えられます。
茶色を主としたものを「鳶八丈」黒を主としとしたものは 「黒八丈」 と呼びます。

黄八丈の色見本
黄八丈の色見本

黄八丈の染色

黄八丈の特徴は、八丈固有の風土の中から生まれた「染め」と「織り」にあるといわれています。黄・樺・黒の三色が主体で、すべて八丈島で自生する草木を原料とする天然染料です。黄色は八丈刈安(学名コブナグサ)、樺色は、マダミ(学名タブノキ)の皮黒色は椎の木の皮と泥染めによる島独自の染色法によってつくられるのです。三色を組合わせた竪縞、格子縞などの織物は手織りで作られます。

八丈島歴史民俗資料館展示より


八丈島歴史民俗資料館


また、その絹にも特色があります。気候が濕暖で桑の木が山野に自生し、この野生の桑で育つ蚕からとった繭(まゆ)は「またむかし」「こいしまる」「しらたま」などと呼ばれる小粒のごく良質のもので、ここから引き出される糸は、独特の撚りの技法とあいまって、美しいつやと風合いを生みます。 八丈には、おやり糸という手つむぎ糸で織られる鳶八の雅味のあるおもしろさ、黒八のきりっとしたいきな味など、黄八におとらぬ味をもったものも多くあります。八丈島の絹織物は黄色・樺色・ 黒色の縞や格子だけではなく 白生地や生糸で織った生絹(すずし) 菊田(きくた)摺りという変わった製品もありました 。江戸時代 黄色は不浄を除くというこ魔除けの色とされ 、無地 や黄 つむぎは医者が好んできたようで す。他は下級 武士や 比較的身分の低御殿女中の晴れ着であったと言われます。

黄八丈と歌舞伎

今日黄八丈で思い出されるのは『恋娘片八丈』とその演題にまで八丈をうたった歌舞伎狂言に登場する 城木屋お駒、そして八百屋お七など、市井の若い娘の姿でしょう。
1927年 (享保12年 )江戸 新材木町の材木 表 白子屋 庄三郎の養子又四郎の妻 お熊が世代の忠七と密通し、又四郎のの殺害の未遂事件を引き起こしました、 大岡越前の神の裁きにより2人が町内引き回しの上 獄門にかけられることになった時、 お熊が黄八丈を着ていたことから一時 女性に嫌われましたが、 1775年 (安永 4年 )、 お熊の事件が「恋娘 昔八丈」という 浄瑠璃 となって大当たりとなりました。
また翌年 中村座で狂言 (歌舞伎 芝居)として 上演された時、 お駒の役の瀬川菊之丞が黄八丈着て舞台に出たところから再び八丈がもてはやされることになりました。

秋田八丈について

ここでは詳しく触れませんが、秋田にも「八丈」と呼ばれる織物があります。秋田八丈は、やや太めの絹糸を用いて織られ、シャリシャリとした手触りが特徴です。また、秋田八丈は秋田県の無形文化財に指定されており、その歴史は230年以上にわたります。秋田の黄八丈生産は、秋田県内で唯一「ことむ工房」で行われています。ここでは、伝統的な技法を守りつつ、現代のニーズに合わせた染色や織りを行っています。秋田八丈は、ハマナスの根を染料として茶色、カリヤスやレンゲツツジの若葉を使った黄色や赤味の黄色、黒色を基調とする格子柄や縞柄の絹織物です。

【著者と所属】似内惠子 日本伝承文化保存会(無断転載を禁じます)

【参照その1】

〇産地組合名黄八丈織物協同組合
〒100-1621 八丈島八丈町樫立346-1 電話番号04996-7-0516
〇八丈島観光協会HP
〇東京都産業労働局HP

〇黄八丈めゆ工房: ここでは、島に自生する草木を使った染色や手織りが体験できます。染色シーズン(8月~11月)には、釜場で草木を煮て「フシ(煮汁)」を作る光景も見られます。

〇八丈民芸やました: こちらも黄八丈の染色や手織り体験ができる場所です。また、島内の伝統工芸品や土産品も販売されています。

【参照その2】
Tokyo Museum Collection(ToMuCo)より、「恋娘昔八丈 お駒才三」黄八丈を着た役者の錦絵
https://museumcollection.tokyo/works/6479081/
(Tokyo Museum Collection(ToMuCo)は、6つの都立ミュージアム(江戸東京博物館、東京都写真美術館、東京都現代美術館、東京都庭園美術館、東京都美術館、江戸東京たてもの園)が収蔵する資料・作品を、横断的に検索できるデータベースです。)

【参照その3】
筆者は2016年に取材・調査のため八丈島二わたりました。帰宅時に悪天候のため飛行機が飛ばず、最終的にフェリーで帰宅する結果となりました。その間、島内をあちこち回りました。島の絶景に加え、素晴らしい立ち寄り湯などがあってあまり退屈しませんでした。

【謝辞】

資料検索につきご協力いただきました、八丈町立図書館にお礼申し上げます。

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