能勢広 その映画世界(4)
自身の祖父であるカメラマン・鈴木喜代治氏が原爆投下後の広島に入り、当時の状況を記録したフィルム映像とメモをもとに短編記録映画「広島原爆・魂の撮影メモ」を作り上げた映像カメラマンの能勢広氏。同作へのこだわり、自身が主催するドキュメンタリー映画祭「さがみ人間未来フィルムフェスティバル」への思いなど、その映像世界を全4回で語ってもらった。
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「自分たちの作品を見てもらいたい」と相模原で映画祭を開催
田下:今度は、2016年から能勢さんが開催されている「さがみ人間未来フィルムフェスティバル」についてお聞きしたいと思います。
※「さがみ人間未来フィルムフェスティバル」とは
2016年から、能勢広氏、カメラマンの秋葉清功氏、映画監督の村上浩康氏らが発起人となり開催しているアニメーション・短編記録映画・長編ドキュメンタリーを中心とした映画祭。
https://www.sanifufilmfestival.info/
田下:サニフ(さがみ人間未来フィルムフェスティバル)は、そもそもどういうことで始められたんですか?
能勢:もともと、僕は相模原に住んでいて、ちょうど、友人の秋葉カメラマンも相模原市内に住んでいるんですが、本格的な映画祭というのは、あそこはないんですね。
そして、いつも僕と一緒に動いている村上監督が作品を作っていて、ちょうど僕も作っていて、それを御見せするという時期に入ってきたんですね。ただ、作品を上映してもらうためには、何かとお金や手続きがかかる。そういう手間をなくして作品をいろいろな方に見てもらえないかと思いました。
以前、村上監督の「流 ながれ」ができあがったとき、愛川町で上映会をして非常に大盛況だったことがあったんですね。それをヒントに、自分たちの個展じゃないけど、作品を見せる上映会を開いてできるんだなと考えた。相模原では本格的な映画祭をやっていない。見せるための作品もある。仲間も増えてきているということで、それで、相模原で映画祭をしてみないかと。
田下:じゃ、もう機が熟してきていたんですね。作品をどこかで上映してもらうんじゃなくて、自分たちの映画を自分たちの手で上映しようと表現としての場を確保する機が熟してきて、親方三人が集まったっていうことで。
能勢:そうですね。「流 ながれ」も賞を取った後の1年間はいろいろなところで上映するお話の声をかけてもらったんですけれど、以降は各地で上映するってこともなかった。だから、作ったものを人に見てもらいたいっていうのがあったんですね。
田下:本当に、いい映画なのに、そこがなかなか難しいところですよね。
能勢:作品の存在を人々に知らせたり、上映活動をしたりするのは、すごく大変ですね。
田下:それは本当に残念だけど、だからどうやって宣伝して広めていくかってことで、私たちもサニフを応援したいと思っているんだけど。
能勢:年に一回だけれど、自分たちの作品を持ち寄ってみていただく場があると、作るほうのモチベーションも違いますし。
田下:サニフの場合は、出展しているのはプロの方がほとんどですよね。だから、それだけの見ごたえのある映画祭になっていて、そういう映画祭をなるたけ若い人に見ていただきたいと思うんですけど。私は1回目はうかがえず、2回目に行ったときやっぱり高齢者の方が多くて、「これは…」と思ったんですけれど、マスコットのサニフちゃんの存在がすごく大きくて。
「第二回さがみ人間未来フィルムフェスティバル」に登場した同映画祭マスコットのサニフちゃん
サニフちゃんのイメージイラスト。
能勢:サニフちゃんは、「何かオリジナルのキャラクターないかなー」と言っていたら、うちの娘が描いてくれたんです。たまごのような形をした黄色のもので、映画の卵じゃないですけれど、なにかがその中から生まれてくるっていうニュアンスだったり、思考的なものが働いて、卵型になったみたいですね。
田下:サニフちゃんの存在はすごい大きいですよ。今の若者たちが飛びつくのはサニフちゃんだと思いますね。
能勢:「さがみ人間未来フィルムフェスティバル」という名前は秋葉カメラマンがつけたんですが、人間賛歌の映画祭にしようというのが最初の目標だったので、今はものすごく閉塞感が世の中にあるので、映画を観るときぐらいは閉塞感を感じないような、家に帰って明日から頑張ろうねと気持ちになるような作品を上映する趣旨だったんですね。
田下:今回、映画祭ができて、なんでもそうだけれど、1年1年試行錯誤しながらしかできないから、一つ一つみなさんで工夫なさっていって、質の高い映画を見せていただいてね。何か型にはまったものをうちやぶって、自分たちでもっといいものはリクエストしてね。
突き破るような作品をいつか作りたい
田下:今後、映像作家として作りたいものはありますか? やはり、心が向いていくものですかね。
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