「クワイエット・プレイス」本当に怖いのは家族の絆
観てきましたのであれこれ書きますね。
ネタバレありです。
メキシコに落ちた隕石にくっついてた謎の宇宙生物が次々と人間を捕食?しております。奴らは目を持たず、音に反応して襲ってくる。音を立てずにサバイバルする家族に、いろいろとふりかかる! さてさてどうなる?!
というお話ですね。でんぷん的にけっこうおススメのSF映画でした。ホラーを期待するとちょっと違う。あとクリーチャーはまあ普通な感じです。
極限状況の家族=?
極限状況の中で、ヌルい家族愛とかとは別次元の家族の姿を描いてるように感じました。
まず、この世界ではちょっとしたミスで死にます。それは自分のミスだったり、相手のミスだったり、その両方だったりするわけです。
冒頭で、お姉ちゃんの優しさが仇になって、末っ子が死んでしまいます。家族全員がその死を背負って生活を続ける。共同生活は支え合うからこその強さもありながら、一方で足の引っ張り合いでもあるわけ。とくに子どもはね。ましてや、みんなが心の中でツッコんだとおり、妊娠出産なんてこの状況下では文字通りの自殺行為なのです。
それでもいっしょに行動して、魚の捕り方を教えたり、綱渡りな出産計画を実行したりするのは、一言でいうと野生動物としての家族のあり方。個体ではなく種、あるいは遺伝子を存続させるための決死の選択なんだよね、ひとつひとつが。そこでは男女の役割もハッキリしていて、父が姉ちゃんを食料調達に連れて行かないのは、聴覚障害のせいよりも女だから=子孫を残す貴重な存在だからという側面が多分ある。(あくまでひとつの極限状況のもとでの解釈ね。現実社会における性差や家族関係の固定化を肯定するものではない。だからこそこの映画はSFなわけで。この注釈必要?)
ヒトが野生動物同様のサバイバル状況になったときに、家族とはまず第一に生殖のための集団である。だからこそ、集団の利益のために各個体が互いにリスク背負いこむという一見無謀な決断が必要になる。(そして実はこの構造こそが、現実に家族関係をある種の呪縛たらしめている根本にある、かもしれない。)
このあたり、SF的にとてもよく出来てると思いました。
その視点で見ると、新生児が「男の子よ」「男か…」というシーンは含みがあるように思うし、なによりお母さんがお父さんを追い詰めるシーン、本当に怖いよね。「今度は何があっても子どもを守って(あなたの命と引き換えにでも!)」
お姉ちゃんはなぜ聴覚障害だったのか
なぜって経緯は映画の中では触れられてなかったと思うんですが、、、
まず、お姉ちゃんのお陰であの家族の生存可能性が底上げされてたのは確かでしょう。家族に聴覚障害者がいたことで、もともと音声を使わないコミュニケーション手段を持ってたのは格段に有利だった。そして、音のない世界で生きるというときに、すでにそれを実践しているお姉ちゃんは家族の精神的支柱ですらあったはず(もちろん、音を立ててしまうリスクについてはお姉ちゃんも同じですが)。平時では庇護を受ける側だったかもしれないお姉ちゃんが、音をたててはいけない世界では健常者と同等以上のポテンシャルを発揮してました。
映画的には、目の見えない敵と耳の聞こえないお姉ちゃんはある種パラレルな関係で、それぞれが認知する世界の重層性に説得力を持たせてるようでした。お姉ちゃんの「聞こえない」描写があるからこそ、間接的にクリーチャーの「目が見えない」設定にも説得力が出る。そして、無音のシーンがあるからこそ、それ以外のシーンの環境音が引き立つ。
このへんも何気ないけどうまい設定だと思いました。補聴器が切り札というクダリは…ちょっとしつこいし、まあご都合主義ね、という気もしたけど、そんなことは些細な問題です。
ミリセントちゃんを覚えて帰ってください
本作でひときわ存在感を放っていたお姉ちゃん。ミリセント・シモンズを覚えて帰ってください。彼女、役と同じく聴覚障害をもっている俳優で、映画出演は「ワンダーストラック」に次いで2作目(でんぷん調べ)。前作でも聴覚障害をもつ少女役(主役級!)でした。
なんかね、障害の当事者が演じるからどうとか、ミリセントちゃんが画期的とかと殊更に言いたいわけじゃないけど、でもでも、「主役級の自立したマイノリティ役(あ、この書き方もキモいわ、ゆるして)」2作連続で出演ってなかなかすごいことだと思うし、両作ともジャンルは正反対だけどマイノリティに対してフラットで好感持てる作品と感じたし、彼女の活躍が絶対次の誰かの何かの作品に影響を与えると思う。
だからミリセントちゃんを覚えて帰って、ワンダーストラック 未見の方は是非観ていただいて、今後の活躍にご期待ください。
弟役のノア・ジュプ君は「ワンダー 君は太陽」で主人公の友達役(ある意味主役)を演じていて、マジ天使だったのでこちらも是非。
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