第二十夜 陰陽師・安倍晴明 後編

 ハンムラビ法典は、紀元前一七九二年から一七五〇年の間、バビロニア(現在のイラク南部)を統治した、ハンムラビ王の制定した、(現在のところ)世界で二番目に古い法典である。
「目には目を、歯には歯を」
 の条文で知られることから、「復讐を合法化した法律」と取られることが多いが、実際には、当時横行していた、際限のない復讐を禁止するものであった。「奪われた財産を回復したり、相手に自分と同じだけの損害を与えたら、そこで復讐を終わりにせよ」
 現在も、一部の途上国では、際限のない復讐により、終わらない内乱が続いている。それに対する解決法が、四千年近くも前に発見されていたというのは、驚くべき先進性である。
 逆に言えば、我々は四千年の間、さして進歩していないとも言える。


 晴明さまは、袖から小さな人形(ひとがた)を取りだした。
「本来なら、拾どのが自分で復讐をなさるべきなのでしょうが……男でも女でもないあなたにはその資格がない」
 晴明さまは妙なことをおっしゃる。拾は、私のそばにいるために女装しているだけなのに。
 それとも、何か、拾にはまだ秘密があるとでもいうのだろうか。
「蔦葛さま。あなたに、拾どのに代わって復讐を遂げるつもりがございますか?」
「はい」
 私はためらいなく答えた。
「忘れてはいけませんよ。『目には目を、歯には歯を』」
 晴明さまが、私の前に人形をかざすと、私は、ふっ、と意識を失った。


 目を覚ますと、私は見知らぬ館にいた。
「ここは……」
(道長さまのお屋敷です。それよりご自分の体をご覧なさい)
 言われて驚いた。この装束は……いや、装束だけではない。手も足も違うし、何より股間に違和感がある。
(あなたの魂を、式神に乗り移らせたのです。さあ、その肉体が、確かに男かどうか、確かめてご覧なさい)
 私は恐る恐る、股間に手を伸ばした。
 間違いない。陽物が生えている。
 いじり回していると、私は、今まで感じたことのない感覚に襲われた。
「あっ……」
 陽物は、見る間に隆々といきり立った。
 ふと、私はいたずら心を覚えた。男の絶頂がいかなるものか、試してみたくなったのだ。
 やり方は知っている。以前、拾に目の前でやってもらった。
 私は陽物を握り、前後に激しくしごいた。時々、手のひらで亀頭をさする動きも加える。
 それは、唐突に訪れた。
「あっ……ああっ……!」
 潮を噴くのとも違う、命そのものが飛び出して行くような、それでいて満たされる感覚が私を襲い、私は激しく射精した。

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