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猫の糖尿病と新しい薬『センベルゴ』 『猫さん好き必見』
『day1』
猫って糖尿多いよね。
だから猫飼ってる方は一応知っておいてほしいな。
まずはつまらない話から。
(新薬の話は下の方だから飛ばし読みしてください)
インスリンは血糖値の上昇に反応して
膵臓のランゲルハンス島β細胞から放出される。
インスリンは筋肉や脂肪に作用すると
細胞にあるGLUT4を細胞膜まで移動させる。
これにより細胞の外にある糖は効率的に細胞の中に取り込まれて
エネルギーとして利用できる。
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じゃあさインスリンでない時にどうなるのって
血液の中を流れてる糖は細胞に取り込まれなくなっちゃうよね。
そうすると高血糖と呼ばれる状態になるし
糖がいろんな組織で利用できなくなっちゃうよね。
糖はエネルギー源なのに利用できないなんて最悪よね。
米備蓄してるのに米不足の今の日本みたいなね。
じゃあさじゃあさなんでインスリンでないの?
ってそらβ細胞がダメになってたり機能不全になってたりすることもあるし
インスリンはでてるのに
組織のインスリン反応性が低下しちゃってるということもあるわけ。
どっちかというと猫はインスリン反応性が悪くなってるだけの場合が多くて
これってインスリン自体はあるわけだから
早期発見さえできれば
猫ならもしかしたら寛解できる場合もあるってこと。
なんだかよくわからんけど治ったぞということにたまに遭遇する理由。
そういうことも相まって寛解率の報告は15~100%とまちまちなのよね。
だから治るかもしんないし治んないかもしんない。
猫の糖尿病のリスク要因は肥満。
次点で膵炎や感染症、歯科疾患、妊娠や発情、先端巨大症。
あとはステロイド使われすぎって場合も。
あとはバーミーズもリスクが高いとされてるよ。
好発年齢は7歳以上。
男の子または去勢避妊されている猫で高いとされてるよ。
『day2』
根本的な病院に関係なく
たくさん飲んでたくさん尿をする、やたら食べる、体重減少などの
典型的な臨床症状は長期にわたる高血糖で糖尿は起こります。
糖が十分に使えないため
脂肪動員が増化して
痩せ痩せ、脂肪肝、肝臓の腫大、高脂血症など
異化亢進に関連した検査所見が見られます。
慢性経過により末梢神経障害や白内障を起こします。
特に末梢神経障害はジャンプできなくなったり
後ろ足ペタンみたいな感じで出てきます。
糖尿の治療でこれらは改善することが多いです。
栄養管理や治療を受けないと
ケトーシスと呼ばれる状態になり、これは緊急性の高い状態に簡単に移行します。
だから早く発見して、然るべき治療を受けるべきです。
day1でも書きましたが
猫の典型的な糖尿病は多くの場合は基礎疾患があります。
これがインスリン抵抗性の原因になり
治療開始後のコントロール不良に直結します。
肥満、心臓の病気、肺炎や喘息、肝障害、胆管炎、膵炎、腸炎、泌尿器疾患
なんかで糖尿が起こる時には
そっちの治療も必要です。
診断自体は簡単なんです。
血液検査で持続的な高血糖(300を越すような)
尿検査で尿糖
加えて臨床徴候でばっちし診断できます。
たまに健診で200くらいの血糖値で一発で糖尿にされてることありますが
最悪な誤診なので要注意です。
猫は病院内とかだと簡単に高血糖になります。
必ず尿検査で尿蛋白クレアチニン比(UPC)と血圧、甲状腺ホルモンなんかも見てもらって下さい。
ステロイドを使用してる場合は必ず受診する時にその旨を伝えて下さい。
血清フルクトサミンや糖化アルブミンの値は診断に必須ではないですが
血糖管理の指標として便利です。
これらの値は直近2週間くらいの血糖値を反映してくれるので誤診防止にも役立ちます。
ついでにいうと基礎疾患の評価もしてもらいましょう。
『day3』
糖尿病の初期治療は寛解目標です。
寛解が無理でも最低限の治療で生活の質が担保されることを目指します。
怖い合併症(ケトアシドーシスのような)を回避すること
インスリン効かせすぎで低血糖にしてしまうことは勿論回避です。
これさえできてれば、糖尿だとしても寿命の全うは可能です。
血糖管理の一般的な目標は次のとおりです。
血糖値を300未満にできる時間をできるだけ長く。
250以下ならあんまり症状出ません。
β細胞がほとんど残っている状態でこれができれば
β細胞のインスリン分泌能力を回復し
インスリン投薬から離脱できます。
つまり治すことができるということです。
(正確には寛解なのですが)
肥満猫さんや高齢猫さんは定期的に血液検査を受けて下さい。
早期発見が肝心です。
食事療法や生活環境の改善は特に肥満猫においてやるべきです。
計画的にダイエットすることは糖尿病の管理には重要です。
食欲があるという前提で
糖質制限食、高繊維食は有効です。
ちなみにガイドラインで炭水化物の制限推奨量は決められていません。
目安としてフード中の炭水化物が代謝エネルギーの12パーセント以下
または3g/100kcalが提案されています。
まあ普通に市販されている糖尿病用療法食はこんくらいで制作されています。
ウェットフードはドライに比べて嵩増しになるので有効だなんて話もあります。
まあ僕はウェットの利点は水分摂取量を多くすることにあると思います。
何回も言いますが、食べることが前提です。
食べることが最優先。
ちなみに給与タイミングに推奨されているものはありません。
その子が食べたい時でいいと思います。
10年前までは糖尿の初期治療といえば
入院管理させてもらい
数時間おきに採血して血糖曲線を作り
最適なインスリン用量を探ってました。
2017年くらいから
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(超大御所の松木先生の病院のHPから画像を拝借しました。)
こういうフリースタイルリブレなるもんが登場し
血糖のモニタリングはやりやすくなりました。
インスリンの開始用量については
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上記のようなインスリン製剤で0.25U/kg程度で食事後12時間ごとがいいとされています。
初回はあまり無理しない傾向があります。
高血糖でめちゃ危ないことはケトーシスにならない限りはあまりないので。
2回目以降の投与については初日の効果に基づいて決めていきます。
インスリンの効果は初回より
それ以降の投薬の方が効きやすいです。
前回のインスリン作用の持続や
血糖値改善やインスリン作用で酸塩基平衡や電解質が改善したり
内因性インスリン分泌が改善したりするおかげです。
インスリンバイアルは泡立つような混ぜ方をせずに
慎重に取り扱い
冷蔵保存すれば3ヶ月くらいは安全に使用できます。
(製造元は開封後4〜6週間で廃棄しろと書いてありますのでご理解を)
うまく維持できるなら1〜2ヶ月ごとくらいの通院で
モニタリングさせてもらいながら様子見してきます。
低血糖になるなら
インスリンの用量を半分にするか
0.5もしくは1U減らします。
糖尿病治療中の血清フルクトサミンや糖化アルブミンは
基準範囲まで改善させる必要はありません。
で、今日の最後ですが、人では飲み薬で血糖降下薬がありますよね。
人の糖尿治療にはインスリンだけじゃなくて
いろんな経口血糖降下薬が使用されています。
SGLT2阻害薬は人の方で2014年に認可されて2型糖尿に使用されています。
1型糖尿でも使われますが、そもそもインスリン分泌能力がないのが1型なので
インスリン投与も不可欠です。
猫は2型が多いんでしたよね。
SGLT2阻害薬を簡潔にいうと
尿中にたくさんのブドウ糖を出して、血糖値を低下させる薬です。
今までの経口血糖降下薬とは作用機序が異なるために
使用する前に作用機序理解と
副作用の可能性考慮は重要です。
今月こんな薬が発売されます。
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センベルゴというお薬です。
薬剤名はベラグリフロジンと言います。
これについて詳しく書いてみましょう。
SGLTとはナトリウムーグルコース共輸送体のことです。
濾過された尿中のグルコースを再吸収する役割があります。
グルコースの再吸収量はSGLT2が90%、SGLT1が10%であり
SGLT2を阻害するセンベルゴは大部分のグルコース再吸収を阻害することになります。
糖尿病に罹患した猫252頭(糖尿治療歴あり38頭、なし214頭)に
ベラグリフロジン1mg/kgを1日1回投与することで
血糖降下作用がありましたよとする報告があります。
ここでは副作用も報告されています。
特に下痢軟便嘔吐といった消化器症状が多く注意が必要です。
10%が糖尿病性ケトアシドーシスという最悪な感じになってるので
獣医がセンベルゴを使用するときに
適応不適応を見極めることはめちゃくちゃ大切です。
薬品会社や仲介が
これ腎臓病に効きますよーと持ってきて
腎臓病の薬ね
という情報だけで適応不適応考えずに出す獣医多すぎます。
ちなみに低血糖を起こすことは報告されていないので
血糖降下という意味では非常に優秀だと思います。
タチが悪そうだなと思うのは
SGLT2阻害薬投与中は
血糖値が正常でも糖尿病性ケトアシドーシスが起こりうる可能性があるということです。
一見すると血糖値が正常なので
例えばうちなら金曜日に休みの時に他所に行かれたら
多分発見できずに死亡するということだと思います。
飼い主さんに説明してもらうように
事前にしっかり説明できるかということです。
しかもケトアシだーとなってもインスリンを静脈から流すような
一般的な治療すると低血糖になる可能性があるということです。
そのためケトアシに介入するときに初めから
ブドウ糖やカリウムやリンを添加しながら治療する必要があるということです。
んー厄介。
10パーじゃなくて1パーとかなら無条件に使うんだけどなー。
で、どんな症例がセンベルゴの対応になるかというところ。
ある雑誌には投与対象は「ハッピー糖尿病」と書かれていました。
元気あり、食欲あり、水をよく飲む、脱水なし、ケトン尿なし、膵炎なし、消化器症状なし、併発疾患なし。
こういう子が対象だと述べられていました。
健康診断とかでたまたま糖尿病だと診断できた子ということなので
かなり絞られますね。
そもそも猫さんはあまり病院に来ない傾向にありますし
(まあうちは違うかもだけど)
どうしても来なきゃいけない時は症状がある場合が多いです。
センベルゴを使用する時の治療モニタリングは体重だということです。
糖尿病の猫では体重は減りますが
ベラグリフロジンを投与することで
8割の猫は体重は維持もしくは増加します。
これは高血糖を是正することで
糖毒性(酸化ストレス)が解除されて
インスリン分泌が再開することが示唆されます。
逆にいえば、ベラグリフロジン投与したのに体重が減るならあまり意味がないと言えるでしょう。
いかがでしたでしょうか。
使える時にはすごくハッピーな薬が出てきましたね。
ただし以上のようなことをぜひ使われる方は知っておいてください。