高度経済成長を遂げていた昭和の中頃は、”豊かになりたい”という日本人共通の目標がありました。その努力のせいもあり、日本はかなり豊かになりました。GDPは一時期、アメリカに次ぐ2位となり、”Japan as No.1”などと世界中で持て囃されたこともありました。しかし、それも遠い昔の話で、いまやGDPは世界3位で、この順位をそのまま維持できるかどうかもわかりません。
”金持ちになりたい”という目標は、その良し悪しは別として、明確な目標です。高度経済成長のピークを迎えたバブル期には、多くの人たちがその目標を達成しました。しかし、そのような時期は長続きしませんでした。私が大学生だった頃、いずれ親の収入を超えることは既定の事実でした。というのも、親世代の大部分は中卒・高卒だったからです。ただし、いまは必ずしもそうとは限りません。親世代が子供世代より高学歴であることも珍しくありません。
2018年1月に学術誌『Nature Human Behavior』で発表された研究では、年収と幸福感の関係を調べています。幸福感の定義は、一般的にお金が少なすぎると衣食住が満たされていたとしても生活満足度が低くなり、”幸福度”が下がってしまうという前提に基づいています。この研究では、幸福は所得と比例しないことを明らかにしました。幸福度は、所得が増え続けたとしても頭打ちになってしまい、その後はむしろ下がってしまうことがあると結論付けています。つまり、お金で買える幸福には、飽和値が存在するらしいのです。ちなみに、感情的安定が得られる所得は60,000~75,000ドル、人生の満足感が得られる所得は95,000ドルだそうです。
私が生まれた頃の日本は、まだまだ貧乏でした。東海道新幹線が開業したのが1964年10月1日ですから、私が生まれた時には新幹線すらありませんでした。その後、新幹線はどんどん整備され、今や北海道や九州まで来ています。新幹線だけではありません、本州と四国の間には大きな橋もでき、高速道路も至る所で延伸しました。このように、日本中でインフラ整備が進んだ結果、目標が次々とクリアされていきました。そのため、新たな”大きな目標”が立てにくくなっています。
昔の工学部の大学生の夢は、「長いトンネルを掘りたい」、「でっかい船を作りたい」、「大きな橋を作りたい」、「高いビルを建てたい」などでしたが、このような目標は殆ど達成されてしまいました。そのため、新しい夢(目標)が持てない環境になっています。何もない時代は夢がありましたが、何でも揃った現代では夢を語ることができません。便利で豊かな時代になったのに、そのせいで夢が持てないというのは、何とも皮肉な話です。
現在の日本は、多くの目標を達成した”バーンアウト(燃え尽きた)”状態です。現時点で1ドルは144円となり、急速な円安が進行中です。このままでは、さらに夢が見れなくなってしまいます。いま日本に必要なのは、お金ではなく、明確な夢(目標)だと思います。
日本も関係していますが、アメリカのNASAでは有人月飛行・アルテミス計画が進行しています。月面基地も一つの夢ですが、その手前の宇宙空間はまだまだ利用価値がありそうです。日本は独自路線で、『軌道エレベータ』または『宇宙エレベータ』と呼ばれる夢に挑戦したら良いのになぁと、妄想を膨らませています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?