イギリス科学界の重鎮であるケルビン卿は、フーリエの熱伝導理論を駆使して、地球の年齢を2000万年~4億年の間と計算し、おそらく1億年程度だろうと見積もりました。この値は、当時の地質学者としては、短すぎて到底受け入れられる数値ではありませんでした。地質学者は、生物の進化に要する時間や、岩石の侵食作用から堆積岩ができるまでの時間などを考えると、とても数億年では足りないと考えていたからです。当時、進化論を唱えたダーウィンにとっても、ケルビンが計算した地球年齢は、複雑な生物が進化するには余りにも短すぎる時間でした。
では何故、地質学の見地からは程遠い見積りになったのでしょうか。それは、まだウランやトリウムなどの天然の放射能の存在が未発見だったからです。ケルビンは、地球年齢の推定に、地球の冷却だけを考慮していました。しかし実際には、地殻中の放射性物質からの発熱(崩壊熱)があるので、冷却だけを考慮したケルビンの計算とは大きな食い違いが生じたわけです。ただし、ケルビンが悪いのではなく、放射性物質による崩壊熱は、その当時まだ見つかっていない未知の物理現象だったのです。
しかし、20世紀直前にフランスのベクレルによってウランの放射能が発見され、暫らくたったのちに放射性元素量の分析による地球の年齢測定法が考案されます。これはウランやラジウムなどの半減期が長い放射性物質を含む岩石の放射性崩壊量から、岩石の絶対年齢が逆算できるというものです。イギリスの地質学者であるホームズは、ウランを含む岩石の放射性崩壊量から逆算して、地球の誕生を16億年前であると計算しました。その後、放射性同位体の発見により、ホームズの年代推定はより精度を増します。さらに、1955年にパターソンが、キャニオン・ディアブロ隕石の年齢を測定して、地球の年齢を間接的に算出しました。パターソンが出した算出結果は45億5000万年であり、現在ではこの数字が標準的な地球の年齢とされています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?