Vanityを笑え!
わざわざ遠い地に足を運び、ただブツブツ言いながらほっつき歩いてさもない人と会いさもない会話をして、そのへんのさもない食堂に入りさもない飯を食う。そんな番組のどこが面白いのだと聞かれても困る。(冒頭完全に山下洋輔の名エッセイ「ピアニストを笑え!」のパクリです)手持無沙汰な夜、思い出したように観るともなく観る番組の一つがヒロシの「迷宮グルメ・異郷の駅前食堂」。基本的に旅の途上で彼が呟く文句や愚痴をカットしないというが、そんな事はないだろう。生憎そこに100%のドキュメンタリズムを求めるようなピュアリティは持ち合わせていない。
ヒロシの基本低空飛行なテンションがいい。時折見せるあくまでもメゾフォルテ止まりの高揚が、視聴者を意識したほどよい「あざとさ」になって好感が持てる。旅はそもそもそんなものだ。ワーキャーかまびすしい旅番組など見ようものなら、千年の古刹も千円の大ざる以下の価値にしか見えなくなる。この番組は、だから何も考えずにヒロシのあとをとりあえずついて行こうかと、そんな気分になれる貴重な癒しなのだ。
彼のジェットコースターのような過去が、どう作用しているのかはわからない。ただ思うにヒロシという人は自分をちゃんと相対化して見られる人なのだろう。「ヒロシです・・・」から始まるあの自虐ネタは、見栄も欲望もある自分という人間を遠くから見られないと生まれてはこない。「諧謔」とはそういうことで、これがない笑いは品がないと考えている。
しかしながら、自分を嗤うのは案外と難しい。そもそも自分自身の虚栄心や劣等感(あるいは優越感)と向き合いながら、それを叱咤したり赦したりしながらうまくいなさなければならない。行き過ぎればただ卑下するばかりになり、コースを間違えば傲慢の再生産にもなりかねない。涙はぬるめの燗で止めたい。
自分を高めることに躍起になっている人は、まず自分を落とす術を見につけることから始めた方がいいと思う。
見出しの画像は「Tome館長」さんの作品をお借りしました。