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本棚の中身・大宅壮一ノンフィクション賞

「値上げ、困りますね」「ウチにも同じくらいの子どもがいるので怖いですね」「今年は近場ですまそうかと・・・」テレビが拾う街の声は言論統制がしかれた国としか考えられない位凡庸で多様性がない。仕込みかどうか以前にあのチョイスで一体何を伝えたい(伝えたくない)んだろう。そして誰も考えなくなった、と。

大宅壮一は「無思想人」を宣言して、イデオロギッシュな表現を嫌った。頑なになった思想は当然、思考の柔軟さを奪う。20歳の頃この「無思想人」という言葉を知ってえらく気に入ってしまい、おかげでどうにもいまだ自分の軸がどこにあるのかわからない(人のせいにするんじゃない)。

ノンフィクションやルポルタージュの世界は、決して右から左のニュースでは語られない事実の深層を知ることができる。そこでは思いもよらぬ人・事・モノが繋がっていて、なるほど世の中は複雑怪奇。「こんなに知らない事がある」という事を知るのは楽しい。タイパ礼賛の人には決してオススメできない。

今年決行した本の整理でもこのジャンルはほとんど減っていない。思い入れのある本は数々ある中で、今回は蔵書の中から大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した作品を。もちろん受賞作品の中にも「いや、これはちょっと」と手を出さなかった作品はかなりある。そういう事も含めて「無思想人」の名を冠した賞なのかも知れない。

第6回(1975年)吉野せい「洟をたらした神」(文春文庫)/第8回(1977年)上前淳一郎「太平洋の生還者」(文春文庫)/第10回(1979年)沢木耕太郎「テロルの決算」(文春文庫)/第10回(1979年)近藤紘一「サイゴンから来た妻と娘」(文春文庫)/第17回(1986年)杉山隆男「メディアの興亡」(文藝春秋)/第18回(1987年)猪瀬直樹「ミカドの肖像」(小学館)/第33回(2002年)米原万里「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」(角川文庫)/第35回(2004年)渡辺一史「こんな夜更けにバナナかよ」(文春文庫)/第41回(2010年)上原善広「日本の路地を旅する」(文春文庫)/第53回(2022年)樋田毅「彼は早稲田で死んだ-大学構内リンチ殺人事件の永遠」(文春文庫)/第1回(1970年)石牟礼道子「苦海浄土-わが水俣病」=辞退

見出しのイラストは「駄弁駄文渓谷世迷之滝」さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。謎に近づく鍵は頁の中にある?


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