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リハビリとしての読書
それにしても読むのが遅くなった。昔のように斜めに読むなどという芸当はもう出来ない。律儀に一行一行追って行く。長時間読み続ける事が出来ない。そもそも読解力が落ちている気がする。還暦あたりに来た人は多かれ少なかれ思い当たる節があるはずだ(と信じたい)。もとより速読や読書量を競う気はないものの、かなり淋しい。仕方がないので「野球狂の詩」の岩田鉄五郎のようによろけながら完投を目指す。
50歳を前に会社が空中分解し、編集・広告・企画しかしたことのないオヤジが勤めたのは、営業事務とはいえ半分は個人客相手のコール業務。セールスではないものの、糊口をしのぐためだけの乾ききった毎日。いきおい読書は癒やしや解放を求める、つまりは「あまり深く考えないようにする」ためのものとなり、ゆるい小説やエッセイが多くなった。おまんまは食べていたものの、心は痩せていくばかり。
その間に生死を彷徨う大病もし、これ以上は身も心も持たないと勤めを辞めたのが昨年の秋。この「損なわれた10年」を少しでも修復しようというのが今年だった。小説は少し抑えよう、愉しみつつ自分なりの時代へのコミットメントを探ろう、というのが大まかな読書の方針。年末にあたって、その中から20冊だけをチョイス(小説を除く)してみると・・・。
遺言未満、(椎名誠著/集英社)
旅をする木(星野道夫著/文春文庫)
たちどまって考える(ヤマザキマリ著/中公新書ラクレ)
美しいものを見に行くツアーひとり参加(益田ミリ著/幻冬舎文庫)
京都ぎらい(井上章一著/朝日新書)
愛と性と存在のはなし(赤坂真理著/NHK出版新書)
小福ときどき災難(群ようこ著/集英社)
表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬(若林正恭著/文春文庫)
ゲンロン戦記(東浩紀著/中公新書ラクレ)
コロナ時代のパンセ(辺見庸著/毎日新聞出版)
「一人で生きる」が当たり前になる社会(荒川和久・中野信子著/ディスカバリー新書)
「国境なき医師団」を見に行く(いとうせいこう著/講談社文庫)
日本軍兵士(吉田裕著/中公新書)
古くて素敵なクラシックレコードたち(村上春樹著/文藝春秋)
自粛バカ(池田清彦著/宝島社新書)
他者の靴を履く(ブレイディみかこ著/文藝春秋)
総員玉砕せよ!(水木しげる著/講談社文庫)
無理ゲー社会(橘玲著/小学館新書)
新型格差社会(山田昌弘著/朝日新書)
ポップス歌手の耐えられない軽さ(桑田佳祐著/文藝春秋)
それぞれに面白く考えるところも多々あったのだが、やはり自分としてはリハビリ臭がある。もう一度世の中を引き寄せるための道具というか。来年はルポをもっと読みたい、小説は第三の新人の頃のものに遡るのもいいかなど考えるのだが、如何せん冒頭のような状態なのだ。
見出しのイラストは「くらし」さんの作品をお借りしました。昔流行った動物占いによると、自分はどうも「ゾウ」とのこと。当たっている所が多々あると複数の証言があった(苦笑)。「大きい耳に念仏」らしいので気をつけます。