子供心のビートルズ

ビートルズ世代ではない。彼らが来日した時は小学校にあがったばかり、ビートルといえばウルトラマンと相場が決まっていた。幼稚園の時に通っていたヤマハ音楽教室はlesson2で早々と脱落し、小学生になってからというもの個人的音楽史は長い氷河期に入っていた。

小学5年生の頃、音楽センスのある子にとって鼓笛隊というのが檜舞台の一つになった。花形は指揮棒、太鼓、鉄琴など。氷河期の深い眠りについていた鈍な少年は列の後ろの方で「吹いているいる格好だけ」のリコーダーを口に当てて、足並みを乱さぬよう、ただそれだけに必死だった。

楽しさのカケラもない時間だったが、鼓笛隊で初めて出会った演奏曲があった。「Ob-La-Di,Ob-La-Da」いかにもな行進曲の中にあって、それはどこかとぼけていて、でも心が軽くなるような。もちろんその頃はスカとか知る由もない。発表が1968年だから、2年後にはもう学校で取り入れられていた。

ある日の音楽の授業前の休み時間、女の先生(何歳くらいだったのだろう、30代か40代だったか)がたわむれに「Let  It  Be」をピアノで弾き始めた。
そのイントロには音楽氷河期だった少年も「かっこいい!」と心の中で叫んだ。聞くとビートルズの新曲だという。

来日からほんの数年後、この頃「ビートルズは不良」なんてどれだけの人が騒いでいたのだろう。小学生のアンテナではそこんところのセンシティブな感覚はわからない。すでに世界保健機構の定義上でも高齢者となった方々に聞くしかない。

ともあれ、音楽氷河期の氷を溶かし始めたのはビートルズだったかも知れない。やがて深夜放送を聴くようになり、目覚めた原人が道具(ギター)を使い始めるのはそれから3年後のことだ。

見出しのイラストは「ひらのこうすけ」さんの作品をお借りしました。本屋に行くと相変わらずこれでもかという数の「ビートルズ本」があります。多くは似たり寄ったり、粗製乱造とはこの事かと思わなくもないのですが、さして詳しくもなくウンチクもない自分でさえ詩集やムックを含め10冊近い関連本があります。ビートルズ、いくら聴いてもぜんぜん飽きないんです。


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