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一羽のツバメが飛んでいった。
飛べなかったはずのツバメが飛び立ってしまった。1994年のデビューから32年めのシーズンを迎える直前に。プロ野球マスコット界の歴史を築いた男、もとい鳥。腹黒という言葉が微笑みをもって語られる唯一の芸人、ではなくて芸鳥。どの球団の選手・OB、ファンにも愛され、さらには野球のやの字も知らない人にもその名を知られたメタボな鳥。落合博満にも愛される名球会特別表彰マスコット。
まだ腹黒の称号を与えられていない頃、「東京フレンドパーク」という番組に野村監督が「中の人」として出てきたことを今でも憶えている。当時年1回千葉マリンスタジアムで組まれていたカードでは、いつも試合前に場外で愛想をふりまいていて、求めに応じて一緒に写真に納まってもらうことも余裕でできた。妻と私を両脇にかかえてほほえむ(?)つば九郎の写真が3枚、今も壁にピン止めされている。
あれから幾年月、彼はブラックな素顔(?)を前面に出し、あげくはフリップ芸というともすれば炎上もしかねない危ない技を身につけて人気を不動のものにしていった。非難の的にならなかったのは、決してビーンボールを投げなかったことだ。その「わきまえ」は見事だった。
優勝を決めて場内一周の先頭に立つつば九郎、相手ベンチに乱入するつば九郎、審判団の打ち合わせにも割って入り笑いをとるつば九郎。空中くるりんぱは、解説者がみんな「解説」をしてくれた。その姿が神宮球場から消えるのは、誰の引退よりも「ぽっかり穴があいたような」気になるに違いない。
お疲れ様でした。そしてありがとう、つば九郎。