足利市・栗田美術館
足利市の栗田美術館へ行った。というのはいささか正しくない。陽気に誘われてあしかがフラワーパークを訪れたら、小高い山の上に見つけた建物が美術館というので立ち寄ってみたら思わず長居をしてしまった。世界最大級の陶磁美術館というが、この方面はとんと寡聞にして無知蒙昧で、実は存在すら知らなかった。三万坪という敷地の中にいくつもの重厚な建物が点在し約1万点あまりが収蔵されていて、ざっと見て回るだけでも相当な時間がかかる(建物すべてが観覧可能ではない)。しかも展示されているのは江戸時代に肥前鍋島藩で生産された伊萬里、鍋島焼のみという徹底ぶりで、それらはみな無名の陶工によるものばかりというから驚かされる。地元足利市出身の栗田英男氏が蒐集したコレクションを氏自らが心血を注ぎこんで創立したとのこと。
陶芸鑑賞の審美眼などこれっぽっちも持ち合わせていないくせに、輸出品としても珍重された伊萬里、献上・贈答品として多用された鍋島焼の大小さまざまな作品の数々を見て歩くのは思いのほか楽しく、その移動距離も相まって時間がどんどんと過ぎていく。素人目には、有名な赤絵の素晴らしさもさることながら、絵柄のモチーフを見るのが面白い。マントを羽織った阿蘭陀人を描いたものも多い。双六風の東海道五十三次や日本地図(八丈島の南方に女護国、北方に小人国あり)を描いた皿もある。
作品はどれもていねいでかつ遊び心を失わない。いわゆる名工による「これでどうだ」という威圧感のあるオーラはないものの、地に足をつけた真摯な創作への意欲を感じさせる。よくテレビでお見かけする欲だか美だかわからなくなっているお方は、こういう名もなき方たちの「仕事」を見ることから始めてみたらどうかと思う。我が身を振り返っても、名前で眼を曇らせていなかったか。敷地には「無名陶工祈念聖堂」というのも建てられているが、その路の状態が悪いらしくこの日は立ち入り禁止になっていた。残念。
たっぷり2時間以上を費やして、閉館近くに併設の喫茶室でコーヒーとケーキをいただき帰途につく。
フレディ・マーキュリーも来館。記念したコーナーが設けられている。
数少ない撮影可能な大壺の展示室。海外への輸出品という。
庭の松も見事な枝ぶり。食事処でもあった山荘は今は休業中で入れない。
歴史館(見出しの写真)というところの展望室にのぼると、栗田英男氏のこんな書が。
朝夕に 庭の地蔵に額づけば
石にてあれど 微笑にけり