北上市へ(2)ぶらりみちのく民俗村。
利根山光人記念美術館を出て県道を南へ歩く。右手には並行して北上川が流れ、河岸の展勝地は桜の名所だ。春にはさぞかし美しいだろうと思う。すれ違うのは車ばかりの道をのんびり約10分、左手に「みちのく民俗村」の巨大な看板が見える。
山あい約7ヘクタールの敷地に近隣の茅葺の古民家などを移築復元した東北有数の野外テーマパークというふれこみ。ぶらぶら歩きにはもってこいだ。これだけの規模で入場料はなし。入場しようとすると受付を兼ねた旧今野家住宅の建物からおばさんが出てきて「パンフレットどうぞ」と手渡される。四つ折りの立派な作り。晩秋の東北とは思えない暑さに携帯していたペットボトルを飲み干してしまったので「どこかに自動販売機はありますか」と聞くとこの広い敷地に一切そんなものはないとのこと。はたと目をやると小さなガラスケースの冷蔵庫に入れてお茶と水を売っていた。「それではお茶を」というと売り切れ。「私の缶コーヒーを一緒に冷やしてあるのでそれでよければ無料でいいです」という。丁重にお断りして水を購入。あとから入ってきたおばあさんが「パンフレットはいらないよ。いつも散歩にきているんだから」と言って入っていった。なるほど無料ということはそういう事でもある。
それにしても3連休でこの好天にしては人が少ない。散歩にはもってこいなのだが、売り込みからすると「閑散」というのがふさわしそうだ。時間はたっぷりあるのでパンフレットに従って一棟一棟見て回ることにする。
どこまで入り込んでいいのかいささかわかりにくい。人がいないのでどうにも躊躇してしまう。実はけっこう内部も自由に見られたようなのだが、時折見かける子供連れもそんな気配はまったくない。もったいないなあと思う。
民族資料館として市内にあった黒沢尻実科高等女学校旧校舎が移築されている(国登録有形文化財)。当時の女学生たちはこういう洋風建築の校舎に気持ちも華やいだのだろうか。母校にもこうした大正期の建築が文化財として残っているのだがその趣を理解するのは卒業後ずっとあとのことなのだ。在校時は「なーにが伝統だ、へっ」と思っていた愚か者だ。
面白いのはこの敷地が旧伊達領と旧南部領の藩境にあることで、この境が国の指定史跡になっている。妻の両親が同じ北上市でありながら出身地がこの両藩に分かれていたため、結婚のとき些細なぎくしゃくがあったらしい。吉田拓郎に「土地に柵する馬鹿がいる」というのがあるが、いやはや人間というやつは何ともくだらない生き物だ。
茶屋があると聞いていたので、昼はそこで蕎麦でもと思っていたが祭日というのにまさかの休み。仕方がないので北上川岸のレストハウスまで引き返す。行楽日和でこの閑古鳥といい、「どーだ」感が先に立つ何かと残念な「テーマパーク」だ。地元らしきおばあさんのいうように散歩にはもってこいで確かに気分よく歩けたのだが、無料であるとはどういうことかをよく考えないといずれ立ち行かなくなる気がする。