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昆虫食について考えてみた

一時期はコオロギを中心とする昆虫食がやたらともてはやされていたが、最近はその話題も下火になってきたようだ。給食にコオロギが入れられた事が児童への昆虫食強要であるとして炎上したり、コオロギ食を提供する企業が売り上げ低迷で経営難になっているとも聞く。

ここで改めて有効で実現可能っぽい昆虫食を夢想してみよう。

コオロギ食の課題

昆虫は次世代のたんぱく源であると謳われているが、実はコオロギを含む多くの昆虫はタンパク質の合成能力を持たないという。植物性たんぱく質や動物の死骸を食べる事でタンパク質を確保しているのだ。したがってコオロギを養殖するためにはタンパク質が豊富な飼料を用意する必要がある。

また、家畜や家禽と違ってコオロギは身体が小さく、1匹1匹解体して内臓などを除去するというのは困難だ。身体を丸ごと、つまり消化管の内容物ごと食べる事になる。となると、飼料についても人間用の野菜と同レベルの衛生基準が求められることになるだろう。使用できる農薬の種類や残留農薬の量を厳しく管理する必要が出てくる。
こうなってくると、以前の記事でも書いた事だが、「大豆を食べればいいじゃない」という話になりそうだ。出荷前にしばらく餌をやらずに排出させるというアイデアもありそうだが、共食いの習性を持つコオロギの場合は個々に隔離する必要があり、現実的ではない。

タンパク質合成能力を持つ昆虫

ごく一部ではあるが、腸内細菌との共生によって体内でタンパク質を合成できる昆虫もいる。植物でも家畜でも無く、敢えて昆虫をたんぱく源として利用するのならそちらを採用すべきだろう。
具体的には、アブラムシ、シロアリ、そしてゴキブリである。

・ゴキブリ
街中を徘徊しているゴキブリはどんな薬品、病原体、寄生虫を持っているか分からない。ゲテモノ食いのYouTuberたちでさえ避けて通る存在だ。

最初から食用として清潔な環境で飼育された個体であればそういったリスクは少ない。彼らの強靭な生命力と旺盛な食欲と繁殖力は、飼育の難易度を大きく引き下げてくれることだろう。
しかし、私を含めておそらくは大多数の人間は、それらのメリットを消し飛ばすほどの強い生理的嫌悪感を抱いている。食用として流通させるのは困難だろう。

・シロアリ
一般家庭から出る木製の廃棄物を飼料とする場合は収集コストも高いだろうし供給が安定しない。また、防腐剤・防虫剤・塗料など様々な不純物の混入が予想されるので健康リスクが懸念される。
しかし、山林管理に関わる分野と連携すれば飼料はけっこうまとまった量が安定して手に入るのではないだろうか?例えば林業で枝打ちされた枝や、製材所で出た端材などの多くは廃棄され焼却処分されていると思われる。それはそれで火力発電の一助となっているし、バイオ燃料を抽出する構想もあるようだが、シロアリを昆虫食として採用するなら飼料という使い道も出てくる。

課題として容易に予想できるのは、収穫時に木くずとシロアリをいかに効率的に分離するかという部分だ。
これについては家禽を使う方法を提案したい。木くずとシロアリを分離するという面倒な作業は鳥に任せて、人間はその鳥を食べるというわけだ。分離にかかる人件費や燃料費はかなり軽減できるし、人間が直接口にするのが鳥であれば消費者の忌避感に関する懸念はほぼ無いと言えるだろう。

それは昆虫食と呼べるのか、という声もありそうだ。尤もな指摘なのでその点は反論できないが、人間が口にするまでの過程のどこかにタンパク質合成能力を持つ生物が必要であるという事実は変えようが無い。シロアリを使う事で畜産の効率化や廃棄される木片の有効活用ができるとしたら一考の価値はあるのではないだろうか?

・アブラムシ
アブラムシは捕食圧に対してそれを上回る繁殖力で対抗するという生存戦略をとっており、逃げたり隠れたりという防衛行動をほとんど取らない。逃げない上に繁殖力が極めて高いので養殖はしやすいだろう。

既存の農業にとっては害虫であるので、どのように共存するかが課題になりそうだ。日本在来種のアブラムシも多いので、農家さんは周辺環境にアブラムシがいるという前提で対策をしているだろうから極端に神経質になる必要は無いかもしれない。それでも積極的にアブラムシを飼育するなら距離を置いたり隔離壁を設けたりといった配慮は必要だろう。

アブラムシは非常に小さいので収穫はシロアリ以上に大変そうだ。
私が考えた対策は、アブラナなど食べられる植物を餌として養殖し、そのアブラナごと収穫して粉末に加工するというやり方だ。普通の虫ならアブラナを収穫しようとする機械に反応して逃げて行ってしまうだろうが、アブラムシならその心配はほとんどない。
製品に含まれるたんぱく質含有率は低くなるが、ビタミンや食物繊維も一緒に摂れる栄養食として売り出せばよいのではないだろうか?

まとめ

シロアリの部分でも触れたが、人間がたんぱく源として利用できる食材ができる過程では必ずタンパク質の合成能力を持つ生物が必要である。それはマメ科に代表されるような植物であったり、上記の様な一部の虫であったり、牛や羊の様な反芻動物だったりする。

環境負荷を最小にするというのであれば、たんぱく源を食物連鎖の階層のできるだけ下の方から選ぶのが好ましい。その意味では、くどいようだが特に好ましいのは大豆と言えるだろう。とはいえ、世界中で大豆が育てられるわけでもないし、肉も食べたい。
昆虫は食物連鎖の階層の比較的下の方に位置しており環境負荷が低めかもしれない。しかし、多くの場合、昆虫自身もたんぱく源を食料に求めているうえ、食べる事に強い忌避感を覚える人も多い。それならタンパク質が豊富な植物を昆虫を経由させずに人間が直接食べた方がいい、となるのが自然だ。

たんぱく源として昆虫を活用するならば、上記で触れた様な、タンパク質の乏しい飼料からでもタンパク質を合成できる生物が適切だろう。
虫を食べる文化がある事は承知しているしそれを貶めるつもりは決して無いが、個人的にはやはり虫はできる事なら食べたくは無いので、昆虫をたんぱく源として使う手法としてはシロアリを使った家禽養殖という準昆虫食を推したいと思う。



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夜代一奇
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