【近鉄】大阪の街へ魚を運ぶ鮮魚列車
早朝、三重県の宇治山田駅には出発を待つ赤い列車が。行先表示には駅名ではなく、「鮮魚」の文字…?
今回は、2020年まで近鉄で走っていた「鮮魚列車」の紹介です。
■56年間走り続けた「行商専用列車」
「鮮魚列車」は、近鉄がかつて運行していた、「伊勢志摩魚行商組合連合会」の団体専用列車です。伊勢の漁港で朝揚がった新鮮な魚を奈良や大阪に運ぶ行商人のために、1963年に運行を開始。2020年の3月に廃止されました。
高度経済成長期には全国で走っていた行商専用列車ですが、令和の時代まで走り続けたのはこの鮮魚列車のみです。しかし、最近はコロナ影響により利用が減少しているJR東日本・JR西日本などが、定時性や高速輸送といった鉄道の強みを活かし、新幹線による生鮮食品輸送を始めました。鮮魚列車は、こうした時代を先取りした例だったといえるかもしれません。
■出会えるのは早朝のみ
朝揚がった鮮魚を届ける専用の列車なので、当たり前ですが出会えるのは早朝のみ。月~土曜日の朝に、宇治山田駅(三重県)から大阪上本町駅を1往復するダイヤが基本でした。
2017年、仕事の平日休みが重なった同僚とお伊勢参りに行く機会があったので、ついでに鮮魚列車の様子を見に行きました。
始発駅である宇治山田駅は泊まった宿から徒歩圏内だったので、朝6時前に同僚を起こさないよう部屋を出発(笑)
もちろん時刻表には記載がありません。また、調べたところ月~土曜であっても運行しない日があるとの噂だったので、本当に見られるか心配でした。
しかし、入場券を買いホームに上がるとちゃんと停まっていました。本当に行先表示に「鮮魚」と書かれており感動。笑
駅の発車標には「貸切」と表示されていました。
車両は2680系という形式。近鉄で初めて冷房機能がついた車両です。
行先表示は「団体」などいくらでも書きようがあったのに、「鮮魚」とダイレクトに表示しているのが斬新すぎます(笑)
隣の特急を後に、6:10頃大阪へ向けて出発していきました。私が見た日には、宇治山田で乗り込む行商人の方はいらっしゃいませんでした。途中駅から乗ったのか、あるいはすでに利用が低迷していたのか…。
■現在は鮮魚「車両」に
2020年に引退した鮮魚列車ですが、現在は一般の旅客列車に連結して運行される「鮮魚車両」が活躍しています。専用列車を設定するのは近鉄としてもコストが大きいものの、鮮魚輸送自体は一定の需要があるとの判断のようです。平日のみ、松阪6:44発、大阪上本町8:46着の列車に連結されます。
車両にも伊勢の魚介類がポップに描かれ、より親しみやすいデザインになっています。また、特別に乗車体験ができるツアーや、車内で海産物を売るイベントなども検討中とのこと。鉄道輸送の可能性が見直される昨今、全国でも鮮魚車両のような列車が再び現れるかもしれませんね。