批判を歓迎するカルチャー
Netflixがロサンジェルスのエジプシャン・シアターを買収したことが報じられた。昨年にニューヨークの老舗映画館パリス・シアターとも契約を締結しているNetflixは、東西を代表する映画館を所有することになる。
これにより、Netflixの作品の多くが「映画館での上映1週間以上」というアカデミー賞受賞基準を満たすことになり、さらなる成長が見込まれている。
話題にに事欠かない同社の時価総額は約20兆円となり、今年の4月には、ついにディスニーをわずかに上回った。
そんなNetflixは、20年かけて映画のストリーミング配信・オリジナルコンテンツ制作へとビジネスモデルを転換することで成功したわけだが、その成功の秘訣の一つに、「型破りな人事制度に支えられたカルチャー」がある。
その刺激的な戦略を、同社の最高人事責任者が語っている本がある。
書籍の中には、評価制度や人材配置についてはもちろんのこと、解雇の方法といったなかなかセンシティブな内容も含まれている。
そんな中で、一番印象に残った文章がここだった。
ネットフリックスでの最も重要な約束事の一つは、「問題が起こったら当事者同士でオープンに話し合うことだ」これは、部下、同僚、上司のすべてにあてはまる。会社中どこでも、上下を問わず誰に対しても、ありのままを話してほしい。
(※パワハラ、セクハラに当たるような内容はこの限りではない、と後述されている)
この内容の意味するところは、消して「雑談を増やしてお互いのことを知り、仲良くやりましょう」という方向性ではない。
むしろ逆で、「不満がある場合、当人同士で、直接顔を合わせて話をする」ということを文化の柱にしているという。
転職組は、働き始めてすぐに、社員から言われる率直な物言いに驚くそうだ。あまりに自分が「強い批判を受けた」と感じて人事に相談が来るケースもあるようだ。
そんな時に人事は「面と向かって言ってください」と返すそうだ。笑
確かにこのスタンスは、急成長を遂げる企業の方針として的を射ている。
ネットフリックは、新しいビジネスモデルを、とてつもない勢いで構築し、成功した。その中で働く人たちに、「社内政治」などしている暇はない。何よりすべきは、「改善すべきことをお互いが指摘し、悩む間もなく改善すること」だ。
どこまで真実かは分からないが、お互いにオープンに言い合うことを続けると、人は批判を受け入れるだけでなく、歓迎するようになる、という。
むしろ、周囲に適切な批判をできていない社員は評価が下げられてしまう。
たしかに理にかなっているし、「好き嫌い」ではなく、お互いや会社の成長のために言いあっていると思えば、それが成長への近道、ということもありそうだ。
一方で、この方針は、諸刃の剣でもあると思う。
なにより、経営陣自体も批判を受け入れる姿勢を率先して見せる必要がある。それができる企業は、素直で誠実なやりとりが増えて望ましい方向に進むだろう。
しかし、多くの日本企業では、意外に批判を素直に受け入れる精神的な準備ができていないように思う。日本企業の多くで360度評価の導入が失敗しているのもいい例だろう。
ネットフリックスは社員7,000名の会社でありながら、この「言いたいことは陰口ではなく、面と向かっていいなさい」という超シンプルな正論を浸透させられているところがすごいと感じた。
ネットフリックスの創業者であり会長のリード・ヘイスティングスも、「率直にものを言ってくる仲間」を信頼する姿勢が明確だそうだ。
以外にも特別なテクニック論はなく、人事全般に向き合う上での心持を教えてくれる一冊でした。