「妄想」とのギャップが力になる
直感と論理には常にギャップがある。
そのギャップを埋める思考法があれば、直感的に感じた「妄想」を現実にすることができる。
そんな力強い思考法について、クックパッドや日本サッカー協会等の幅広いイノベーション支援を行う著者が『VISION DRIVEN』に纏めている。
本書では、まず「他人モード」から「自分モード」になることが重要であると述べている。「自分モード」とは、周りがどう思うかを気にしすぎるのではなく、じぶんがやりたいことを軸に物事に取り組む姿勢のことである。
そもそもその姿勢からしか、直感は生まれない。下記の4つが足りていない人は、「自分モード」が阻害されているという。
①妄想=内発的動機が足りない
②知覚=インプットが足りない
③組替=独自性が足りない
④表現=アウトプットが足りない
③の組換は少し分かりにくいが、要はインプットした情報を解釈・加工することを表している。SNSでも油断すると自分の意見を言っているようで、ニュースなどの情報を基に誰かが言ってそうなことを書いている人も多い。
この「自分モード」のスイッチを皮切りに、直感と論理をつなげる具体的なアクションがいくつも記されている。
その中でも最も印象に残ったのが、「創造的緊張(Creative Tention)」という概念である。MITのダニエル・キム教授が提唱した、「人がなにかしらの創造性を発揮する際には、『妄想と現実とのギャップ』を認識することが欠かせない」という考え方だ。
もう少しかみ砕くと、自分の関心のあるビジョンを明確にして、さらにそのビジョンと現状の間にある「ギャップ」を認識し受入れたときに、はじめてその「ギャップ」を埋めようとするモチベーションが生まれる、ということだ。
キム教授だとこのように表現される。
人間の好奇心や情報への探求心が生まれるには、「情報ギャップ」を感じることが不可欠だ。つまり、まず探求する心があって、そこから情報の収集に向かうのではなく、「情報が欠けている」という認識があって初めて、「何かを知りたい」という好奇心が発動する。
つまり、直感と論理をつなぐ思考法をするには、まず情報を集めたりロジックを固めたりするのではなく、「妄想」することが重要ということだ。
「妄想」をすることで、はじめてそこに「情報ギャップ」が生まれる。
一方で、「妄想」をした後、論理的に考えれば考えるほどその「妄想」を達成するための「情報ギャップ」がくっくりと輪郭を表してくる。
この「情報ギャップ」が浮き彫りになり、やばい!と思っている状態が「創造的緊張(Creative Tention)」である。
世界には最も有名な創造的緊張の事例がある。
それは、ケネディ大統領が1961年に行った演説に含まれている。
今後10年以内に、人間を月に着陸させる
アポロ計画の支援を表明したときのメッセージだ。当時誰もが無謀なチャレンジという捉え方をした。
当時、アメリカは宇宙開発においてソビエト連邦に大きく後れを取っていた。
それがこのケネディ大統領の「妄想」から、そこに緊張状態が生まれ、1969年には人類初の月面着陸が実現してしまう。
このような高すぎる目標を掲げることで、非連続のイノベーションを生み出す発想をムーンショットというが、VISION DRIVENのスタートラインで必要な「妄想」を表す事例としてとても分かりやすい。
しかし、現代において、がん、感染症、気候変動等、人間が取り組まなければならない課題はより複雑化しており、単純にシンプルな目標を掲げるだけでは解決が難しいという論もある。
『VISION DRIVEN』では、ただ「妄想」を掲げなさい、という部分だけではもちろん終わらない。世界を複雑なまま直感で知覚し、それをアイデアに昇華し、周囲に分かりやすく伝えて実行していく、その一連の方法を整理することにトライしている。
その中でも、直感から得たなかなか伝えるのが難しい発想を、周囲に共感してもらう表現方法、ということで紹介されていたストーリーフレームという考え方もとても面白かった。「ET」「タイタニック」「バック・トゥー・ザフューチャー」等の名だたる映画でも使われている物語構造だという。
それは下記のような7つの質問に答えることで出来上がる。
①現実:主人公は現状どんな課題に直面しているか?
②冒険への誘い:主人公はどうやって新たな世界の存在を知るか?
③迷いとメンターの支援:主人公は旅立ちの前に、何を感じるか?メンターはどのように後押しするか?
④一線を超える:主人公はどうやって旅立ちの覚悟を決めるのか?
⑤試練:新たな世界でどんな試練と直面するか?メンターはどうやって支援するか?
⑥克服と報酬:主人公はどのように試練を克服し、どんな宝物を得るか?
⑦宝を得て帰還:宝物を得た主人公は、元の世界の仲間に何を思うか?
ビジネスでいえば、この主人公は、プロジェクトメンバーだ。それは会社の時もあれば、2-3人のプロジェクトの場合もあるだろう。
プロジェクトメンバーに「妄想」への道筋を伝え共感するためのストーリーは、この7つの質問に答えることでできあがるという。
「タイタニック」は最も好きな映画の一つなので、そのストーリーの作り方を自分が取り入れられるなんて、個人的にとても嬉しい学びだった。
他にも色々な具体的思考法が示されて本書、お勧めです。