右手と左手で値段が違う [0731日記]
午前中に行ったスーパーで、濡れた髪の毛の子どもたちが駆けた後に塩素の匂いがした。夏休みが始まっていることに気がついた。日本対イスラエルのサッカー試合の告知をSNSで見た。オリンピックが開幕していることに気がついた。近くも遠くも、良くも悪くも加速して季節が回っている。タトゥーが入っているから区民プールには行けないな、虐殺を続けている国でも出場できるんだ。青果売り場で桃を眺めながら、心は違う場所にいた。
酷い暑さで自炊をしたくなくて、松本第一高校食物科で検索した。Instagramに調理実習の様子を投稿していて、技術を磨く学生の姿を見ていると手を動かしたくなってくる。さて今日は何を料理したんですかいと、アカウントを覗く。
「中国料理特別講習会 フカヒレと熊の手の仕込み」
勝てない。餅は餅屋、食は食物科に託す。
非常食としてシンク下にしまってあったレトルトパスタをずるずる食べた。押し寄せた自炊スランプと空腹を満たすためだけの食事に気落ちしそうになって、オーストラリアのホストマザーを心に召喚した。彼女は一切料理をしなかった。嫌いだからしない、私が家に着いた日にキッパリ言っていた。ダンプカーくらいある冷蔵庫から、あらゆるインスタント食品を取り出して「家族のために愛をもって選んだからええねん。今って何でも冷凍食品になっていて素晴らしいで」とずらり見せてくれた。17歳の私には、その自信と切り替えが強く優しくて、彼女のことが好きになった。
食後にピースを吸って、深く深く息を吐いた。熊の手はどんな味がするんだろう。
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