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海の見える小さな駅
息子のところに行ってきました。
朝早くに最寄り駅に着きました。迎えに来てくれることになっていたので、駅舎の外のベンチに座って待っていました。
駅は小さくて、昔は駅員さんがいたようですが、今は無人駅です。
切符や運賃は、備え付けの箱に入れます。
電車は1時間に1本。
単線で、二両のワンマンカーで、のんびりした風景の中を走ります。
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息子が以前住んでいたところは、ふた駅ほど先でした。
6年前、そこを訪れたときのことです。
そこも小さな駅でした。
息子と別れて、電車に乗ろうと駅に行くと、
ある一人の高齢の女性が歩いてきました。
近所の人らしく、電車に乗るのではなさそうでした。
散歩に出てきた、そんな感じでした。
「さっきの人は弟さん?」と聞かれたので、
「いえいえ、息子です」と答えました。(ここは強調)
電車が来るまで、少し時間がありました。
そのまま私たちは駅の待合室のベンチに腰かけました。
座りましょうかとも言わずに、ごく自然に。
その駅はドアもなく、電車がきたら、ヒョイと乗れそうです。
ベンチから青い海が見えました。
他に誰もいません。
風が吹き抜けていきます。
そのお年寄りは、聞かれるともなく、自分のことを話し始めました。
夫と暮らしていること。
その昔、自動車の免許を取ったけど、
運転するのを家族に反対されたこと、
でも、兄が熱心に説得してくれたこと。
この辺りは飛行機が飛ぶのが見えたこと。
運転免許を取ったというところを
何回も何回も繰り返し話されました。
毎日着ていると思われるエプロンをして
足はサンダルを履いていて
足の爪は伸びていて、
あまりきれいに洗えているとは言えなかったです。
お年寄りですからね。
「免許取ったのって、すごいですね」
私たちは楽しく話をしました。
やがて電車が来て、
さようならと言って、私は電車に乗りました。
その人は見送ってくれました。
それだけのことなのです。
でも、後から「あの時間は何だったのだろう」と思うのです。
実際にあったことだったのだろうか。
あのお年寄りは誰だったのだろうか。
夢ではなかったか。
そんな気がするのです。
それは、あの駅と海のせいかもわかりません。
小さくて海の見える駅。
ゆっくりと心地よい時間が流れていました。
あの時のことを思う時、
私の心に、いつもほわっと風が吹きます。
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