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【フードバンク取材】~誰もが食を分かち合える社会へ~フードバンク山梨の取り組み
公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美
研究員 船井 隆
弊所では、農林水産省と連携して大規模・先進的フードバンクの活動支援事業を実施しています。今回はその団体の1つである認定NPO法人フードバンク山梨の活動についてご紹介します。オンラインにて、副理事長の城野 仁志さんにお話を伺いました。
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■多様な取り組み
――フードバンク山梨の事業内容について教えてください。
城野さん:
フードバンク山梨は2008年に設立されましたが、最初に取り組んだのは行政機関や社会福祉協議会との連携による食料支援活動です。生活困窮者世帯の相談窓口になっている行政機関等から食料支援の要請を受け、それらの世帯に月2回、宅配便で食品と手紙を配送するという形です。これを食のセーフティーネット事業と呼び、設立時から現在まで続いています。昨年度はこの事業単体で延べ5,327世帯へ約51トンの食品をお届けしました。
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(提供資料より転載)
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(提供資料より転載)
城野さん:
「フードバンク子ども支援プロジェクト」という全国で初めて着手した取り組みも行っています。これも行政との連携で進めているものですが、山梨県に27の市町村がある中で、現在までに11の市町村と「子供の貧困対策連携協定」というものを締結しました。
行政や学校が、一定の所得以下の世帯(準要保護世帯)の小中学生の就学に掛かる経費を補助する仕組みがあるのですが、毎年6月くらいに市町村が教育委員会を通じて補助の交付決定通知を出すことになっています。その際、協定を結んだ自治体においては、その通知の封書の中にフードバンク山梨からの食料提供の案内を同封します。その案内を見て私たちに直接申請をいただいた世帯に対して食料の支援をする、という仕組みです。
――その仕組みがあれば、生活に困っているけれど声を上げにくい状況にある方にも支援が届けられるようになりますね。困窮者を孤立させないセーフティーネットとしてすばらしい形だと感じました。
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(提供資料より転載)
城野さん:
申請をいただいた家庭には、年に3回、夏休みに入る7月と8月、冬休みのクリスマス前にそれぞれお米やお菓子など15キロくらいを箱に詰めて宅配便で送っています。今年は一回当たり約900世帯を支援することができました。
この箱詰め作業はかなり人手がいるものなのですが、県下の高校生など多くのボランティアの方にお手伝いいただいています。また、学校関係では、幼稚園や保育園から大学に至るまで様々な教育機関等でスクールフードドライブも実施していて、PTAや生徒が主体となって年間で合計93校から食品の寄付を受けました。
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(提供資料より転載)
その他に、食料提供だけではなく「フードバンク未来アカデミー」という枠組みで、支援を受けている家庭の子どもたちへの学習支援、居場所支援などの取り組みを行っております。具体的には、「トゥウィンクル・スターズ・アカデミー」という、小中学生が英会話やプログラミングを学べる講座を県内のIT企業や英会話教室の協力で開催したり、「ももっ子クラブ」では、ボランティアの大学生たちがこどもたちと一緒に遊んだり、学習支援をしたりする場を作っています。
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――食料の支援から、もう一歩先の部分である相談支援や学習支援まで取り組まれているんですね。
城野さん:
そうですね。私たちが食料を提供するときには、一緒に手紙や支援の案内をお送りしています。返信用のはがきも同封して、何か困ったことがあれば相談してくださいという働きかけをしています。そのはがきの内容を読んで、これはしっかり話を聞いたほうがよさそうだと感じた家庭には、直接訪問をして支援機関につなぐこともしています。
また、当事者の生活実態についてのアンケート調査も年1‐2回行っています。これまでに行った調査の集計結果は、その都度メディア向けに記者発表をして、新聞やテレビで報道してもらいました。それにより、県内の生活困窮家庭がどういう状況で暮らしてるのかということを多くの方に知っていただき、寄付とボランティア参加が増えることにつながっていると思います。
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(提供資料より引用)
■今後の展望
――今後の活動において、課題となることはなんでしょうか。
城野さん:
提供できる食品の量を確保することですね。数年前に比べて、食品ロスはかなり減ってきています。それに、子ども食堂などの支援団体の数が増えたので、一団体あたりの取扱量は相対的に減りました。ただ、当たり前ですが食品ロスが減るのはよいことです。なので、フードバンクはロスが出て声がかかるのを待っているようなスタンスでいるのではなく、新しい方法で支援のための食品を確保することが必要になってきます。
私たちがこれから取り組みたいと思っているのは、①潜在的な食品ロスの掘り起こし、②バージン商品の提供依頼、③消費者に対し購入型の寄付を呼び掛ける、などの方法です。
①潜在的な食品ロスに関していうと、現状では廃棄しか選択肢がないような食品を提供してもらうために積極的に動くことが重要です。例えば、中小企業では、食品を寄付しようと思ったとしても、手間や費用がかけられないからできないというケースがあります。そこで、私たちのほうから、身近な場所で効率的に回収できるような仕組みを提案することができれば、食品を気軽に提供してもらうことができます。他には、DXでリアルタイムに需給をつなぐなどすれば、これまでになかったルートで提供側と需要側をマッチングできるかもしれません。こういった潜在ロスの掘り起こしを進めていくには、各地域のロスをその地域内の団体で回収して配れるような体制が求められます。そこで出る余剰や不足の調整をフードバンク山梨で行うような形ができれば望ましいと考えています。
②バージン商品の提供というのは、食品メーカーなどの在庫でロスになりそうなものを提供してもらうのではなく、製造してから時間がたっておらず十分に販売できるような商品でも、社会貢献のために提供していただくという考え方です。
例として、現在、山梨県内の代表的な食品企業の「はくばく」では、私たちが取り組んでいる子ども支援プロジェクトのために毎年3トンほど乾麺を製造して寄贈いただいています。それは「山梨の企業が、山梨で育つ子供たちのために」という想いで実施されているものです。同様の社会貢献の取り組みがもっと広げられるように呼びかけていきたいですね。
③購入型の寄付は、欧米で広まってきている仕組みの一つです。スーパーの一角に、フードバンクが必要としている商品を組み合わせたパッケージを置いて、それをお客さんが買って寄付するというやり方です。これは、スーパー側としても普通の買い物と同じように売り上げになるのでメリットがありますし、消費者側も、寄付をしようと思ったときにわざわざ回収拠点まで運ばなくても普段の買い物のついでに寄付できるという利点があります。また、フードバンクにとっても、不足しがちな種類の食品を直接指定して寄付してもらえるので、非常に効率的です。アメリカやフランスではかなり普及してきているそうなのですが、国内ではあまり事例がないので、日本の環境にあったやり方で導入できないかと検討しているところです。
――確かに、ここ数年の社会的な取り組みで、食品ロスはかなり減ってきています(※)。それ自体はよいことですが、困窮者支援の観点からは支援団体に新たな取り組みが必要かもしれません。余ったから寄付、というだけでなく、社会貢献としての積極的な寄付を呼びかけていくことも重要ですね。
(※)消費者庁のデータでは2000年度時点に980万トンだったものが2022年度で472万トンに半減)
【参考】食品ロスの現状についてはこちら👇
城野さん:
「子どもたちがご飯を食べられず成長や健康が損なわれてしまうことをなくそう」というコンセンサスを強めていくことが非常に大事だと思っています。
子どもの10人に1人は食に困っている状況だと感じますが、世間にその認識は十分に伝わっていません。私たちは、困窮世帯の生活の実情を、プライバシーを守りながら代弁していき、それを支える社会をつくっていくのが役割だと考えています。社会・行政の最優先課題の一つとして取り組んでいきましょう、と幅広い層でのコンセンサスを形成できるかが重要ですね。
我が国で食の支援を必要とする世帯がどれくらいあるかについて正確な統計データはありませんが、仮に生活保護世帯数の約3倍とすると約5百万世帯(全世帯数の約9%)になります。それらの世帯に例えば年6回(各回8kg)ずつ食料支援する場合、約23万トン(食品ロス全体(472万トン)の約5%)の食料が必要となります。これは、現在の国内フードバンク全体の取扱総量1.3万トンの約18倍となります。
フードバンク先進国のアメリカでは、全国各地のフードバンクを通じて年間739万トン(我が国フードバンク提供量の約570倍)の食料を生活困窮世帯に提供しています。
我が国のフードバンクは、アメリカ等と比べてインフラ設備や運営費などが不足しており、今後の提供機能の拡大に向けた組織基盤の強化が課題とされています。
このため、全国フードバンク推進協議会では、国に向けた提言として「基金の造成を行い、活動現場のニーズに沿った公的支援を拡充すること」等を要望しています。そうした取組を契機に、わが国で食の支援を必要とする人にあまねく食料がいきわたる社会が早期に実現するよう願っています。
■まとめ
今回お話を伺って印象的だったのは、生活困窮者への食の支援だけではなく、彼ら彼女らが苦しい状況を切り抜けるための幅広い支援をされていることです。貧困の世代間連鎖といわれるように、家庭が経済的に苦しいと、子どもが多様な体験・学習をすることができず学力等が十分に身につかないために、その子が大きくなっても同じように経済的に苦しい状況になってしまう循環があります。
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その連鎖を断ち切るために、子どもたちが生きる術を学ぶ場所や色々な人とつながる居場所を作っているのはとても意義深いことだと感じます。その理念に共感して、それをボランティアとして支える人たちが集まるつながりを構築されているのも素晴らしい活動です。
一人でも多くの子どもたちが「フードバンク未来アカデミー」で身につけたことを糧として成長していくことを願っています。
また、潜在的なロスの掘り起こしや、海外事例の導入など、新しい展開に取り組まれている点については、弊所としても幅広い事例などを調査研究し、有用な情報提供などの支援ができるよう努めていきたいと考えています。
城野さん、貴重なお話をありがとうございました。
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