【フードバンク取材】『もったいない』をなくし、『おすそわけ』を当たり前に~フードバンク福岡の取り組み~
公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美
研究員 船井 隆
弊所では、農林水産省と連携して大規模・先進的フードバンクの活動支援事業を実施しています。今回はその団体の1つである特定非営利活動法人フードバンク福岡の活動についてご紹介します。オンラインにて、事務局長の岩﨑 幹明さんにお話を伺いました。
■団体概要
――団体の活動や現在の運営状況について教えてください。
岩崎さん:
フードバンク福岡は、2017年度から本格的な活動を開始した団体です。企業や個人から使用しない食品を無償で提供いただく食品ロス削減の取り組みと、食べ物の必要な方へ無償で食品を提供する福祉活動の両面で社会課題解決に取り組んでいます。
フードバンクは食のセーフティネットの中で「食品を提供したい人」と「食品を必要としている人」をつなぐ役割を持ちますが、それには『信頼関係』がかかせません。知らない人や信頼できない人から食品を渡されても、誰も口にしないでしょう。私たちは、食をつなぐ最小単位は「信頼できるご近所付き合い」であると考えています。地域の地産地消を促進しながら食のセーフティネットワークを構築し、お互いの名前がわかる生活圏での共助・循環がなされる社会づくりを目指して活動しています。
――全国的に見てもかなり大規模なフードバンク活動をされていると思いますが、食品取扱量の状況について教えてください。
岩崎さん:
団体の特徴として、一般的なフードバンクと比べると食品保管のキャパシティが大きいということがあります。20トン、40トンと入る倉庫があるので、福岡において、企業からの食品提供の大きな受け皿になっていると思います。低温保管設備もあり、冷凍品・冷蔵品も取り扱うことができます。2023年度は263社の企業と個人のみなさんから約336トンの食品提供を受けました。
食品が必要な団体のみなさんには、基本的に倉庫まで受け取りにきていただく形でお渡ししています。本部の倉庫のほかには大学や商業施設などの一角で受け取りをすることもできます。また、市内自治体の生活支援課や社会福祉協議会の窓口などに生活セットのようなものを置いてます。そのような形で、2023年度は子ども食堂や福祉施設など284団体に食品の支援ができました。毎年、提供料も受取量も拡大しています。
■特徴的な取り組み
――団体のHPを拝見すると、戦隊ヒーローとコラボされていたり、企業と連携した取り組みを多くされていると感じました。
岩崎さん:
あれは福岡を盛り上げているドゲンジャーズというヒーローですね。地元のケーブルテレビや協賛のメーカーさんたちがイベントをすることになったんですが、そのイベント企画の一環で、一緒にフードドライブをやりましょう、というお声がけをいただいたんです。
他には、PayPayドームで実施された食品関係の方が集まる展示会があって、そこでブースを出させてもらったりもしました。ドームの巨大スクリーンにフードドライブの案内を映してもらったこともあり、多くの方に関心を寄せていただきました。
認知度向上のために一件一件訪問して回るのは大変なので、そういったイベントや展示会、シンポジウムなどで広報できるのはありがたいですね。そこで興味を持ってくれたところと具体的な寄贈に関するご相談をしていけますので。
――企業の方とのよい関係を築いていくために、どのようなコミュニケーションをされているか教えてください。
岩崎さん:
特別なことをしているわけではなく、普通のことを普通にお話しているだけですよ。あれをやってください、これをやってください、という一方的にお願いをするコミュニケーションの取り方ではなく、Win-Winというか、相手側のメリットなどもちゃんと考えながら、お互い対等な関係で一緒にやれることをやりましょう、というスタンスでお話しています。
ただ、実際に提供を受けることが多い食品メーカーのみなさんとの関係という点では、私自身が以前、生協で食品を扱う仕事をしていたこともプラスに働いていると思います。九州のメーカーの多くとお付き合いがありましたし、食品の衛生管理についてもしっかり企業のみなさんとお話することができます。
食品の寄贈に関してフードバンク団体との調整窓口になるのは、総務や広報などのCSR担当の方などが中心で、普段の業務で食品を直接扱っていないことも多いようです。食品の配送や管理などに慣れていないケースもあるので、そんなときに、私たちが責任をもって食品を管理できる運営体制なんだとお伝えできると安心して提供してもらえます。HP上には、フードディフェンスなど食品業界で重要な観点も盛り込んだ品質管理基準や事故発生時の対応マニュアルなどを公開しているので、それを企業の方に見ていただくのは、やはり信頼につながっているようです。
▼参考:公開されている食品の品質管理基準や事故発生対応マニュアル👇
例えば、乳製品などは品質管理が重要ですが、先日はメーカーの方が倉庫の現場での温度管理状況までちゃんと確認した上で、これなら大丈夫、と寄贈してもらえることになりました。
――受け取った食品の品質をしっかり管理できる体制があることが、食品取扱量が年々増加できていることにもつながっているんですね。
■今後の課題
――団体設立から毎年、食品ロスの削減と困窮者支援の範囲を拡大されていますが、今後の課題はなにかありますか。
岩崎さん:
自分たちの団体単独の課題というわけではないのですが、現状としてフードバンクは大きなところから小さなところまでいろいろあり、運営状況は本当に様々です。設立したけれど食品を適切に管理できていないところがあるのも実情です。ちゃんとした実態のないフードバンクで事故があって報道されたりすると、フードバンクという活動全体が後退してしまう可能性もあります。単に集めた食品をばらまくようなことはあってはならず、食品を大量に扱うということは命にかかわることなんだと自覚しなければならないと考えています。
フードバンクの取り組みが拡大していくと、今後色々な事例が発生するかもしれませんが、それでも、社会的に安定した運営ができて、若い方がちゃんと生活できる仕事になるところまでもっていかなければならないと思います。
――世代交代を課題とするフードバンクは多いですが、経済的な理由での言及が中心だと感じます。それに加えて、ちゃんと社会の中で信頼される組織であることも長期的には非常に重要ですね。そんな組織作りを支援する枠組みが必要だと感じまし。本日は貴重なお話をありがとうございました。
■まとめ
お話をお聞きして特に印象的だったのは、食品の品質管理体制です。衛生管理に課題意識を持ち、向上に向けた取り組みをしているフードバンク団体が多い中、意識に高い基準で運営されているフードバンク福岡の取り組みは素晴らしいモデルケースになると思います。
倉庫の写真などを拝見すると、非常に整理整頓された環境で、低温保管の設備まで備えています。また、「しっかり管理する」というところにとどまらず、それを企業とのコミュニケーションの中で適切に伝えて、信頼関係の構築につなげている部分も、ぜひ他の団体にも取り入れていただきたい点です。棚やパレットなどの什器関係や空調・冷蔵庫などを揃えることは資金面でのハードルが高いものだと思いますが、食品取扱量を増やす一つのポイントになるかもしれません。
また、フードバンクという活動の全体を俯瞰的に見据えながら、食の安全について考えてらっしゃる点にも、食品を扱うことへの責任感の強さを感じました。食のセーフティネットに関わる全ての人が持たなければならない視点だと思います。
なお、お話をお聞きした岩崎さんは、他フードバンク団体に対して食品衛生管理について伝える講師として登壇して、ノウハウの共有もされています。弊所としても同じように、引き続き研究調査をしていき、フードバンクの活動支援に資する情報提供などができるよう努めてまります。
岩崎さん、お忙しい中で取材のお時間をいただき、ありがとうございました。
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