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【フードバンク取材】~お互いさまでつづく未来へ~ フードバンク湘南の取り組み

公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員  寺田 奈津美   
研究員    船井 隆

 弊所では、農林水産省と連携して大規模・先進的フードバンクの活動支援事業を実施しています。今回はその団体の1つである認定NPO法人「フードバンク湘南」の活動についてご紹介します。オンラインにて、理事長の大関めぐみさんにお話を伺いました。

(HPより転載)

■活動の概要

――まずは団体の活動状況について教えてください。

大関さん:
 私たちは、神奈川県平塚市を拠点とするNPO団体で、ひとり親家庭を中心とした生活困窮世帯を支援する活動をしています。
 フードバンクとして、食品メーカーなどの企業から、問題なく食べられるけれどパッケージの印字ミスや破損があった規格外製品や、売り場に出すには賞味期限が短くなってしまったものなどを寄贈していただき、それらの食品を支援が必要な家庭、児童福祉施設、子ども食堂などへ無償提供しています。また、商業施設や庁舎でのフードドライブなどの取組みを通じて、家庭内で使い切れない未使用食品を寄付していただき、支援が必要な方へお届けすることもあります。食品ロスの削減と、貧困をなくすという2つの社会課題の解決を目指して活動しています。

写真:市内の商業施設ラスカ平塚店で行われたフードドライブの様子(HPより転載)
写真:フードドライブで寄贈された食品
(HPより転載)

――ひとり親家庭への支援に特に注力されているとお聞きしましたが、どのような取り組みをされているのでしょうか。

大関さん:
 特徴的なのは、個別の配達かもしれません。基本的には、私たち団体から福祉施設などに食品をお渡しする際は、拠点まで受け取りに来ていただく形をとっているのですが、ひとり親家庭の世帯には直接配達することもあります。
 ひとり親家庭の親御さんは、お子さんとの生活を支えるために仕事を2つ3つと掛け持ちされている方も少なくありません。それでも経済的にはまだ十分ではないという状況で、食の支援を必要としているけれど、私たちの拠点まで受け取りに来ることができないというときがあります。
 個別に配達するのは大変な作業なのですが、団体でボランティアとして活動していただいているみなさんも、そのような家庭こそ支援が必要だという想いで、ご自宅までお届けする役割を担ってくださっています。もちろん、状況によっては難しいときもあるのですが、市内であればお届けし、また、他の地域、例えば横浜や小田原からでも、受け取りに来られるようであれば、食品をお渡ししています。
 もともと、こどもたちのために何かできることをしたい、という気持ちがこのフードバンクの取り組みを始めた背景の一つでもあったので、こども食堂などもありますが、より切実に支援を必要とされているひとり親家庭、そしてそのお子さんたちに食べ物を届けたいと考えています。

写真:お子さんと一緒に食品を受け取られた親御さん
(HPより転載)

■自治体や企業との連携

――提供できる食品取扱量を増やすために、どのようなことに取り組んでいますか。

大関さん:
 平塚市内には、食品を扱っている企業がそれほど多くあるわけではないので、食品を寄贈していただく方々とのつながりを作ることは大きな課題です。
 フードバンク湘南の設立当初から色々アドバイスをいただいているのが平塚市の環境部の方なのですが、その関係から食品関係企業の紹介を受けることがあります。もともと、環境部のほうでは市内で出る食品ロスが廃棄物として多く処分されていることに課題意識を持たれていて、食べられるものが捨てられてしまうのはおかしい、ということでフードバンク活動を後押ししてもらっている背景があります。やはり市内でどのような形で食品ロスが廃棄処分されているか、という情報をお持ちで、改善のために動こうとされているので、引き続き連携していきたいと考えています。

――環境部ということは、部署として困窮者支援を直接的に担うところではないと思うのですが、食品ロスは焼却時のCO₂排出などで環境問題とも大きく関わる部分ですから、そういった面で連携できるのはすばらしいですね。

大関さん:
 はい。その環境部との連携の中で、企業と私たちフードバンク団体がどのようなつながり方ができるか検討した結果、共同事業として、平塚市とともにSDGsの達成を目指す「SDGsパートナー」という枠組みで、活動を支援してくれる企業を募集できるようになりました。

SDSsパートナー企業のロゴとそこで掲げられる目標
(HPより転載)

 ダイレクトメールにて、団体の活動などを紹介しながら、社会貢献の観点で活動を支援してくださいというメッセージを送ったところ、かなりの反響がありました。一般的にダイレクトメールの反応率はよくて3%と言われているようですが、それを超えるご返信をいただきました。自治体と一緒に取り組んでいるところが、信頼感につながったのだと思います。
 意外だったのは、食品業界以外の企業のみなさんから支援をいただけた点です。「平塚市で地域に貢献するために何かしたい」、「自分たちにはできないけれどかわりに頑張ってください」という応援の声と活動資金の寄付などをいただきました。(SDGsパートナー企業のご案内はこちら

――それは大きな成果ですね。他の団体へのインタビューでは、期ごとの活動報告や協力への感謝をしっかりと伝えることが関係者からの支援拡大につながるというお話もよく聞くので、ぜひ継続してください。

大関さん:
 現在、休眠預金活用事業(※)の枠組みで資金補助を受けて、パートナー企業を増やすことに力を入れており、その一環で、「フードバンク湘南便り」という活動報告を作っています。活動方針や既存のパートナー企業との取り組みなどを記載した資料で、それを持って各方面を訪問していくことを増やしていこうと計画しています。ただ、一時的に頑張って企業回りをするというよりは、定期的な訪問とご協力の依頼などを継続してできる進め方が大事だと考えています。
 また、一方的に支援をお願いするのではなく、Win-Winの関係でなければいけないと思います。企業のみなさんからは、さきほどのSDGsパートナー企業認定制度や、ホームページ、広報などで紹介されることは会社にとって意義のあることだとお話をいただくので、それは感謝を伝えるという意味でしっかりと続けていきます。

(※休眠預金活用事業:2018年1月1日から施行された休眠預金等活用法の制度。10年間口座取引がない銀行預金は休眠預金となり、社会課題の解決のために活用される。なお、預金者は休眠預金となったあとも金融機関で引き出すことが可能。詳細は👇)

――ホームページを拝見すると、定期的に企業とのパートナーシップの締結を紹介されていますね。

大関さん:
 2024年11月の段階で、30社近くのパートナー企業がいらっしゃるのですが、規模も業種も様々です。平塚で開業されている医院や信用金庫など地域密着の企業もいらっしゃいますし、先日は、アマゾンジャパンさんがパートナーになってくださいました。同じ平塚市にアマゾンジャパンの物流拠点があることでご縁があったのですが、驚いたことに、アメリカ本国から地域社会貢献チームの方が私たちの拠点に視察に来られて、寄付金贈呈式も開催されました。その機会を通じて、アメリカと日本のフードバンク関連法律の違いや、今後の課題などを議論することができました。

――アマゾンのビジネスは世界の経済に与える影響が非常に大きいので、社会貢献活動に力を入れていると聞きます。そういった観点から、先ほどお話されていたWin-Winの関係を築きやすいのかもしれません。社会貢献活動への更なる注力は、様々な企業で広がっていってほしいですね。

贈呈式の様子
(HPより転載)

■今後の展望

――今後の活動の方針について教えてください。

大関さん:
 近年の物価高の影響もあり、食の支援を求める方は増えています。一方で、企業が生産を抑えたり、家庭での節約などもあるでしょうから、余剰の食品として寄贈していただける量は減ってきています。そのような状況で、どうやって支援を継続していくかを考えていかなければなりません。
 一つのポイントとなるのは、より活動を周知していくことです。例えば、今までやっていなかった新しい場所でフードドライブを実施したときに、1回目より2回目、2回目より3回目という形で寄付される食品の量が増えたということがあります。これは、活動を知ってもらい、理解してもらえたから協力していただける方が増えたのだと考えられます。なので、同じように、イベントをするときには毎回しっかりと周知をしていくことが大事だと思います。
 また、企業として直接の寄付や寄贈はできないけれど、オフィスの中で従業員に呼び掛けてフードドライブを実施するという形で協力してくれている企業があります。そういった事例を他の企業にもお伝えすると、「そんな協力の仕方もあるのか、じゃあうちも」と言っていただけることがあるので、イベントの告知と同様に、広く伝える努力をしていきたいです。

地域の小学校でのイベントの様子。
フードドライブを実施するとともに、
ボランティアの学生のみなさんの協力で
フードバンクについてのクイズなどを実施した。
(HPより転載)

 とにかく、支援を求める方に「できません」ということは言いたくないと思っています。食品を寄贈いただける量が減ってきたとしても、困っている方には少しでもお渡しできるように、これからも自治体やパートナー企業のみなさんと色々な方法を話しながら頑張っていきます。

■取材を終えて

 今回、取材記事の本編部分では、フードバンク湘南の自治体や企業との連携を中心にご紹介しました。そこには入らなかった部分のお話として、団体のスローガンにもなっている「お互いさま」という言葉の背景が印象的でした。

「長い人生の中ではだれでも周りの支えが必要になる場面がある。そのときに、支援のできる人が支援をしていく。別のときには、支援をした側が支援を受ける側になることだってある。だから、お互いさまの気持ちを忘れずに、できる人ができることをしていくことが大事。今、自分たちはできることがあるからやっている」

 フードバンクなど、社会課題に取り組む団体にはみなそれぞれの想いや理念があって、それが出発点となって活動されていると思います。その活動を後押しするために調査・研究をするのが、弊所のすべきことだと改めて感じ、身の引き締まる思いでした。
 大関さん、貴重なお話をありがとうございました!

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