【フードバンク取材】「もったいない」を「分かち合い」~「ありがとう」へ~ フードバンクかながわの取り組み
公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美
研究員 船井 隆
弊所では、農林水産省と連携して大規模・先進的フードバンクの活動支援事業を実施しています。今回はその支援先の1つである公益社団法人フードバンクかながわの活動についてご紹介します。事務局長の藤田 誠さんにオンラインでお話をうかがいました。
■団体概要:「もったいない」を「分かち合い」~「ありがとう」へ~
――団体の設立経緯について教えてください。
藤田さん:
フードバンクかながわは全国でも珍しい公益社団法人のフードバンクです。2016年に現在の正会員である12団体が集まり、神奈川県内の貧困問題に対して何かできないかという検討会がなされた結果、フードバンク事業を行うことになりました。2年間の設立準備期間を得て、2018年4月に事業を開始し、同年10月にフードバンクとして全国初となる公益社団法人の認定を受けました。2024年10月時点では、240の団体と325名の方が賛助会員として入会しています。
団体の活動目的として、【もったいないを分かち合い~ありがとうへ】というモットーを掲げています。「分かち合い」を入れた理由は、食品ロスがたくさんあって、食に困っている人もたくさんいるのに、その「もったいない」と「ありがとう」をつなぐ手段が非常に弱いということから来ています。
例えば、子ども食堂など、困っている方を直接支援する団体はまだまだ足りていません。活動も毎日ではなく月に1~2回のところも多くなっています。食事は毎日のことですから、それでは十分ではありません。我々は中間支援をするフードバンクとして、もっと分かち合いの活動を広げたいという想いを込めてこの言葉をキャッチフレーズにしています。
――具体的には、どのような形で食品の提供者とそれが必要な方々をつないでいるのですか。
藤田さん:
下記の図を見てください。左側から右側に食品の寄付がなされる流れを図式してあります。
昨年でいうと、全体で約350トンの食品の寄付がありました。重量ベースでいうと、その50%が食品メーカー等からの寄付です。また、その他企業・行政等の災害用備蓄品の寄付が20%ほどで、残りの30%は、一般の方からの食品寄付(フードドライブ)です。数としては、食品の譲渡に関する合意書を交わしている団体が305社、フードドライブ回収拠点は神奈川と東京に355か所あります。
そうして我々のところにいただいた食品を、図の右側にある社協・市役所や福祉施設、子ども食堂などの支援団体に適宜提供し、そこで食品が必要な方々への支援がなされるという仕組みになっています。
食品の配送に関しては、まず企業やフードドライブからの寄付が神奈川の端に位置する金沢の倉庫に集められます。そこから、正会員3団体の物流網を利用する形で県内9か所の中継拠点まで運ばれます。それらの拠点と金沢の倉庫から各種支援団体の方への食品受け渡しがされています。
また、責任をもって食品を扱うため、どこから受け取った食品をどこに届けたかを日付ごとにデータ化して管理し、トレーサビリティを確保する取り組みに力を入れています。これは2018年に農林水産省から受けた助成金を使って導入した仕組みです。
■企業/自治体との連携と食品取扱量を増やすための取り組み
――非常にシステマティックな仕組を構築されていると感じたのですが、企業と連携して食品取扱量を増やすためにどのような取り組みをされてきたのでしょうか。
藤田さん:
フードバンクかながわは代表理事が二人いて、一人は労働組合の連合神奈川の会長で、もう一人が神奈川県生協連合会の会長が務めています。生協は多くの食品企業等と取引をしているので、その関係から他のフードバンクと比べるとネットワークは広げやすかったかと思います。設立当初から、代表と一緒に味の素・マルハニチロ・三菱食品など、生協の取引先である大手企業を訪問し、寄付や食品の提供を依頼することができました。
特徴的なこととして、冷凍食品の取扱いがあります。最初にマルハニチロを訪問したのが2017年で、寄付の依頼をしたのですが、そのときに冷凍食品は結構ロスがあるんだというお話を伺いました。もともと冷凍保管設備が必要になる冷凍食品を取扱うことは想定していなかったのですが、数年間の検討の末、たまたまいろいろな条件が整って2022年から冷凍食品が扱えるようになりました。受け入れができる団体は限られると思うのですが、冷凍食品は野菜・魚介・肉類など様々な種類があり、栄養バランスの改善につながる点、電子レンジで調理できる点、長期保存が可能な点など、様々な利点があります。昨年の取扱い実績は50トンほどなので、そのように今までにないジャンルを扱うことで食品取扱いの総量を増やしてきました。
また、食品を直接扱う企業でなくとも、店舗や事業所にフードドライブ拠点を設置してくれるところが増えています。自治体や学校なども協力してくれています。様々な事業所や自治体、学校の方がフードバンク活動の視察に来てくれることもあり、認知度向上にもつながっています。食品ロスの実態や支援活動の現場を知ってもらうことは非常に大きな意味があります。
一方で、取扱いが減っているものもあります。今はお米の減りが顕著です。お米の寄付量は、ピーク時には年間130トンの寄付がありました。コロナ禍においては外食産業での消費が少なかったため、産地でお米が余り寄付量が増えましたが、コロナが五類に変わってからは外食での需要が高まってお米が余らない状況になり、去年は100トン弱まで減りました。さらに今年は一般の消費者向けのお米も足りないということでさらに厳しく、寄付金や助成金などを使って毎月4トン購入しています。
――自治体との連携についてはいかがですか。
藤田さん:
設立準備をしていた2017年から、県内のほぼ全ての自治体を訪問しました。フードバンクで集まる食品を使って支援の輪を広げてほしい、というお話をしたんですが、当時対応していただいた職員さんにはフードバンクを知らない方も多かったです。それで、返答としては「わかりました」といただくものの、実際にはそのあとの展開に進まないということが多かったのですが、相模原市に訪問したときは、最初から市長が対応してくださって、各局長も一緒にいらっしゃったので非常にスムーズにお話が進みました。
また、神奈川県庁では、環境農政局の局長が関連する全部の部局の局長に声をかけて集めってくださったので、そこでみなさんにまとめてフードバンクの活動についてご説明ができました。
――やはり影響力のある方に理解をしてもらうというのがポイントなんでしょうか。
藤田さん:
それも一つの重要な要素かもしれませんね。(笑)
また、現在でも毎年、神奈川県議会で活動状況や要望を伝える場を持つことができています。最近では冷凍食品をもっと取り扱えるようにフォローしてほしいと伝えて、県知事に「頑張ります」というような答弁をいただきました。
そのほかには、企業にフードドライブ回収ボックス設置の依頼をするときに、神奈川県庁政策局の方や横浜市資源循環局の方が一緒に来て呼びかけてくれることもありました。こういった協力体制により、地域に回収拠点を増やしてより多くの食品を集めることが可能になっています。県で実施しているSDGsの取り組みに参加し、広く食品の寄付を呼びかけることもできました。
■今後の課題
――企業・自治体など様々なステークホルダーと非常によい関係性を構築されているんですね。うまくいっている部分が多いかと思うのですが、一方で今後の取り組みにおいて課題になることはなにかありますか。
藤田さん:
まずはキャパシティの問題ですね。現在の食品取扱い量が年間で300‐350トンです。生協の倉庫を安く借りられたり、仮置き場の無償提供などもありますが、これ以上増やそうとなると、もう保管場所がありません。400トン程度が限界だと考えています。それでも、神奈川の食品ロス全体からすると微々たる量です。
対応として、各地のフードバンクと連携して保管能力を向上すれば取扱量を倍くらいにできるかもしれません。例えば、藤沢市では市民団体が行政や社協と連携してフードバンクふじさわを設立、市は卸売市場の一角を倉庫・事務所として提供しています。同じようなことを県内の複数の自治体などでやっていき、配布先が増えれば取扱量が増やせるでしょう。
また、長期的には世代交代がうまくできるかも重要となります。今のフードバンク運営の担い手は60歳以上が中心です。ボランティアとして大学生などが参加してくれますが、そこに就職するということはほとんどありません。例えば、アメリカは日本に比べて若者がフードバンクに従事していることが多いようですが、その背景には支援のための財源規模や制度の違いがあると思います。予算規模では何十倍も差があります。国が主導して基金を作るなど大きな変化がない限り、今の日本の枠組みではどこのフードバンクもいっぱいいっぱいになってきているのではないでしょうか。
これまでの様々なステークホルダーの取り組みで、家庭から出される食品ロスは減っています。神奈川では2019年度に21万トンのロスが発生していましたが、2022年度には17万トンまで減少しています。それに伴い、焼却処理の費用が単純推計で約15億円削減できています。一方でまだまだロスは多く、食品を必要としている方も増えているような状況なので、その15億円を食品ロス削減のための再投資に回すような考え方で、フードバンク関連団体を支援することを検討してもよいと思います。
■まとめ
お話を伺って印象的だったのは、その規模の大きさでした。350トンもの食品を取り扱い、神奈川の広い地域をカバーして県内各地の食品を必要とする方々への支援ネットワークを構築されている点は、仕組みづくりやオペレーションの面で素晴らしい運営です。
また、常温の食品だけでなく、冷凍食品を取り扱えるインフラを企業・行政と連携して構築されたことにより、より食品ロスの削減と困窮者支援を促進できている点も、トレーサビリティの確保とともに先進的です。それを様々なチャンネルでしっかりと発信しているところが、食品提供者である企業や個人への安心感を醸成し、良い関係性の構築にもつながっているのでしょう。すばらしい好循環です。企業からの視察依頼が常にあるということも伺いましたが、それも、そういった信頼感から来ているのだと感じます。
そんな状況でも、今後の継続性や発展性を考えるとキャパシティ不足や世代交代の難しさという問題があるということは非常に重要な側面で、多様なステークホルダーが知恵をしぼって解決に取り組まねばならない課題です。我々としても、引き続き活動支援につながる調査研究などを続けていかなければならないと改めて考えました。
最後に、フードバンクかながわに寄せられた「ありがとうの声」を1つ紹介します。
こちらのご家庭に支援が届いて、本当に良かったと思います。これからも、フードバンクかながわをはじめとする全国の支援団体の活動が一人でも多くの困っている人のところに届くことを強く願っています。
藤田さん、貴重なお話をありがとうございました。
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