【フードバンク取材】信頼される組織づくりで10周年:フードバンクふじのくにの取り組み
公益財団法人 流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美
研究員 船井 隆
弊所では、農林水産省と連携して大規模・先進的フードバンクの活動支援事業を実施しています。今回はその団体の1つである特定NPO法人フードバンクふじのくにの活動についてご紹介します。オンラインにて、望月さんと鈴木さんにお話を伺いました。
■団体概要
――まずは団体の活動状況について教えてください。
望月さん:
フードバンクふじのくには、静岡県に拠点を置く特定非営利活動法人です。フードバンクを地域の仕組みとして定着させ、食を通じて人の縁を結び、お互いが助け合う、「困った時はお互い様」な社会作りを目指して活動しており、今年で設立から10年目になります。
活動においては、食品ロス削減への取り組みという側面ももちろんありますが、生活困窮者支援をより重視しています。そのため、寄付された食品などは、まずは第一に生活に困っている方に届くようにします。
具体的に言うと、社協などの相談窓口に来た方に対して、その窓口団体を経由して食品をお渡ししています。経済的に困窮して食べるものがない方は、ただ食べ物がないのではなく、その裏に失業や債務などの根本的な問題があります。その根っこの部分を解決するためのアプローチがまずあって、そこに食料が足りないというときに私たちが支援する形ですね。困窮から抜け出すためのプロセスの中での一時的なつなぎのような位置づけで食品の提供をしています。
そのほかには、子ども食堂への食品提供や災害時の支援などもしています。
体制として少し特徴的なところは、多様な団体から人員が集まる理事会を設けて運営していることです。労働者福祉協議会や労働組合、生協などの県内の組織や大学、NPOなどのメンバーで理事会を構成し、あるべき姿を議論しながら活動しています。
そういった理事会に名を連ねる団体を通して、フードバンク事業への協力について広く呼び掛けることにより、それぞれの組織の構成員一人ひとりがネットワークを広げる役割を果たしてくれることも少なくありません。例えば、労働組合に所属している組合員さんが私たちの活動に賛同してくれたことから、その方が勤めている企業と支援の議論が始まったこともあります。
――色々な組織の力を結集させて活動されているんですね。
望月さん:
はい。もともと私は別の団体でも活動をしていたのですが、小さなフードバンク単体では、なかなか信頼される組織になれません。さらに、複数の組織がバラバラに林立している状態だと、支援してくれる企業の取り合いのような事態が起きる可能性がありますし、行政や自治体がどこを支援すればいいかも判断しにくくなります。そういった背景から、労働組合や生協などの信頼されている大きな団体とタッグを組みつつ、みんなで一緒にやりましょう、と活動するようになりました。
現在、県内のフードバンク事業の1つの大きな箱としてふじのくにがあることにより、不必要な競争や分散が起きず、支援が一元化されています。そこからトリクルダウン的に関係団体への支援の波及がなされる構図になっているのではないかと考えています。
■特徴的な取り組み
――多様な方が集まる組織では調整の難しさなどがあると思いますが、いかがでしょうか。
鈴木さん:
みなさん色々な思いがあるので、そういった側面もあるかもしれませんが、多様な方がしっかりと議論することで、結果的に非常にガバナンスが効く体制になっています。
例えば、現場で中心となって活動している人がそのまま理事長まで担うような体制だと、良いか悪いかはさておき、その人が全てを決めることになりますよね。
一方で、われわれの理事会体制だと、地域の関係者全員の組織のようになっています。みんなでじっくりと協議しながら進めるということにもどかしいところもありますが、個人が好き勝手やるのではなく、多くの方に納得してもらえる企画を立てなければならないというハードルがあることによって、色々な人の立場を尊重した活動につながっているんじゃないかと思います。
――なるほど、ガバナンスがすごく効いているんですね。
鈴木さん:
効いてますね。財務面でもしっかり管理が徹底されていますから。例えば、私も望月も、全国を飛び回ることが多いのですが、切符一枚買うにも、どこに何の用件で行っているのかきちんと報告をして、その会計も別法人でしっかりとチェックして、という体制です。出張報告も細かく書かないと厳しく指摘されます。これだけ管理をしっかりしているのは全国のフードバンクの中でもうちだけじゃないかと思います。そのおかげで、お金の透明性や助成金の適正使用については、胸を張って公開できます。そういったところは、企業や行政からの信頼にもつながっていると感じます。
――他のフードバンク団体では、認定取得や企業との関係性構築のために組織体制を整えることが課題と挙げているところも少なくないので、そのガバナンスの話はぜひ紹介させていただきたいと思います。
鈴木さん:
はい。この件に限らず、どこかの団体で取り組んでいる事例を流通経済研究所のような立場の方がヒアリングして、他県でもどんどん展開していくというのは非常に重要なことだと思います。自分たちのところでは普通にやっていることが、違う場所では課題解決につながる手法だったりすることがありますから。私たちも他の団体さんの取り組みを知りたいですし、そういう連携の促進を期待しているのでどんどん事例を集めて発信してください。
――頑張ります!ちなみに、最近フードバンクふじのくにで取り組まれていて、他の団体さんにも参考になるかもしれない事例はどんなことがありますか。
鈴木さん:
ふるさと納税はみなさん取り組む価値があるのではないかと思います。まだ私たち自身もそこまでやりきれていないのですが、ふるさと納税でNPOを指定して税金を納めることができる仕組みがあります。
佐賀のNPO団体さんが自治体と一緒にその制度をやり始めたということを聞いて、私たちのほうでも静岡市の担当者と現地まで見に行った上で、2020年から静岡市でNPO支援型のふるさと納税を始めました。現在、返礼品なしでやっていますが、市民、県民、もしくは静岡に縁がある人などがフードバンクふじのくにの活動を自分の税金の行き先として指定できるようになっています。
行政からしても、しっかりやれば自治体の税収が増えるので、メリットが大きいと思います。実例として、数千万単位で納税された自治体もあります。色々な調整が必要になりますが、決してできないことではないので、ぜひ他の団体さんにも取り組んでみてほしいです。
▼フードバンクふじのくに支援のふるさと納税サイトは👇
その他には、Syncableという、非営利団体向けに寄付集めのサポートをしてくれるオンラインサービスも使っています。団体として登録すると、活動を支援してくれる方がクレジットカードやAmazon Payなどで寄付金を送れたり、年会費を自動的に決済できるようになります。
――寄付金は銀行振込のみで受け付けている団体もあると思いますが、決済方法が増えると、若い世代を中心に寄付のハードルが下がりそうですね。
▼参考:Syncableのサポート内容👇
■今後の展望
――今後の活動において、課題となることはなんでしょうか。
鈴木さん:
ありがたい話なのですが、現在の状況として、フードバンクふじのくにが静岡県内のフードバンク事業の一つの箱として認知されていることや、理事会メンバーが所属する団体との連携などがあることから、食品の提供については企業の方からアプローチをいただいて「困っている人のために使ってください」という申し出をある程度いただける状況です。自治体からも色々な機会を紹介してもらっています。
ただ、支援してもらえることを当たり前のこととして捉えずに、感謝をしっかりと伝える。また、そこから先の発展につなげていくよう努めていくことが大事だと感じています。例えば、食品のご提供をいただいた企業さんの中に、ものすごく我々の活動に共感してくれる企業があったとして、そこからしっかりと議論すれば一段上の発展につながるかもしれませんが、現状では、そこに至るほど十分な働きかけはできていません。
信頼されているのはとてもいいことですが、それにあぐらをかいて殿様商売のような姿勢になるのはあってはならないことです。なので、今回の農林水産省の補助事業などの機会を活用し、それをきっかけとして企業へのはたらきかけを強化していきたいと考えています。補助金の申請をして採択されたからには、もうやるしかないですからね。「こういう補助事業をやってるんです」と企業や自治体の方にどんどん会いに行かざるをえない理由ができてよかったです。
――信頼につながっている部分を継続しつつ、発展のために新しい取り組みも拡大していくことが重要なんですね。ぜひ、補助事業の枠組みを最大限に活用してください。
望月さん:
発展を考えると、拠点の問題も今後重要ですね。今わたしたちの拠点は県の中部にあたる静岡市にあるのですが、静岡県は東西に長いので、どうしてもカバーするのが大変な地域が出てきます。なにか相談事があって会いに行くのも大変ですし、食品の受け渡しにかかる送料も高くなります。近くに住んでいる人が食品を受け取りやすいのに対して、遠い地域の人が受け取りにくくなってしまうのは、公平な状況とは言えません。
そのため、現段階での実現は難しいものの、東部・中部・西部のそれぞれに拠点を持ちたいと考えています。やはり、寄付をいただく企業の方は、地域への貢献という想いをお持ちのことが多いです。例えば、ある地域で寄付された食品が、なるべくそこに近いエリアで困っている方に届くようになれば、地域支援が充実するということになり、その企業にとっても結びつきが強まって良いことだと思います。
また、静岡県西部にある企業の中には、お隣の愛知県に工場や倉庫を持っているケースがあるのですが、西部に拠点があれば、そういったところからの食品受入れも拡大できるかもしれません。
ただ、やはりコストの面では厳しいです。そのため、現状としては、無理をして運営が立ち行かなくなるリスクは取らず、これまで静岡市を中心として支援のインフラ的に機能している部分を、今後も着実に続けていくことが多くの人のためになるのではないか、という意見が強いです。
それでも、食品取扱量拡大に向けて、常温食品だけではなく冷凍食品も扱えるように、低温保管設備などの導入は検討する必要があると考えています。
鈴木さん:
あとは、長期的に考えると世代交代のことも意識します。地方には、フードバンクをやりたいという担い手が少ないんですが、東京や関東には、より多くいるのではないかと思います。そういう人が地方に来てくれたら、団体のほうで家探しなどの生活立ち上げをサポートすることもできます。同じように思っているフードバンクはけっこうあるはずなので、流通経済研究所さんのほうでなにかマッチング等のいい方法を考えてください!
――支援の方向性として検討していきます!!
■まとめ
今回取材をして印象的だったのは、フードバンクふじのくにが地域で非常に頼られる存在になっていることでした。その背景には、社会福祉の専門的な知見を持つ鈴木さん・望月さんらが10年間走り続けた現場での活動の積み重ねに加え、幅広い団体が協力しあって理事会を結成し、しっかりとしたガバナンスのある組織運営をされていることがあるのではないかと感じます。
そうして得られた団体の信用性が寄付や支援につながり、困窮者支援・食品ロス削減という社会課題の解決に向けた推進力になっているのだと思いますが、それでも、ご本人達が「信頼されていることに胡坐をかいて殿様商売のようになってはいけない。もっとできることがある」という課題意識を持たれているのが非常に頼もしい点です。
また、取材の中で、全国のフードバンク事業の向上のために必要な取り組みを弊所へのリクエストや課題として積極的に提起いただきましたが、その点からも、社会全体の未来を広い視野で考えていらっしゃることがうかがえました。
今後も、拠点拡大の構想など含め、地域の中核的団体として更なる発展をされていかれると思いますが、我々のほうでもその発展を支援できるような取り組みを実行することに努めてまいります。
鈴木さん、望月さん、貴重なお話をありがとうございました。
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