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【フードバンク取材】~架け橋となり人権のまちづくりを~ ふーどばんくOSAKAの取り組み

公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員  寺田 奈津美   
研究員    船井 隆

 弊所では、農林水産省と連携して大規模・先進的フードバンクの活動支援事業を実施しています。今回はその団体の1つである認定NPO法人「ふーどばんくOSAKA」の活動についてご紹介します。オンラインにて、流通総務担当の東 憲一さんにお話を伺いました。

(HPより転載)

■活動の概要

――まずは、団体の概要について教えてください。

東さん:
 私たちは大阪府内にて、食品を提供する企業や個人と、食品を必要とする団体や施設を結びつけるフードバンク事業に取り組んでいます。
 日本では、年間500万トン近い食品ロスが発生している一方で、経済的な問題や家庭問題で十分な食事を摂れない人々が多く存在しています。また、児童養護施設や障がい者施設、母子シェルターなどの社会福祉法人も十分な食材を確保できない状況です。
 その食品ロスにつながる余剰食品を食に困っている方たちに届ける架け橋となって、人権のまちづくり、地域福祉を増進させることを目指して活動しています。

参考:活動の概要図
(HPより転載)

――寄贈された食品などは、具体的にはどのように食に困っている方のところへ届けられるのでしょうか。

協力企業のフードドライブより寄贈された食品
(HPより転載)

東さん:
 いくつかのルートがあります。我々が連携している企業等から寄贈された食品を、府内でフードパントリーを実施している団体や子ども食堂・福祉施設にお渡しして、そこで食に困っている方に食品が提供されることもあれば、自治体の支援窓口に相談に来た方に対し、その支援窓口を通じて食品をお渡しすることもあります。
 フードバンクとして、フードロス削減への取組みというのは一つの要素ではありますが、大事にしているのは、食に困らない社会作りです。困窮者に少しでも手厚い支援が届けられる社会を目指して、自治体とタッグを組んで活動しています。

参考:食支援の流れ
(HPより転載)

東さん:
 
また、私たちのホームページ上には、食に困っている方から直接ご相談を受ける問合せフォームもあります。そこでは、お名前やご連絡先、どのような状況でお困りになっているのかという背景などをお聞きするのですが、そこからご連絡いただいた方には、自治体のケースワーカーなどと連携しつつ、直接食品を届ける支援をすることもあります。

――個別に対応しようとすると、相当の人手が必要になりませんか。一般的には、フードバンク団体は人手が足りないところが多く、個別対応をする余裕がない、あるいは、それを避けた運営をしている面もあると思うのですが。

東さん:
 
そうですね。やはり個別に配送するのは時間も経費もかかるので大変です。それでも、どうしても食べ物が必要な方を放っておくことはできません。例えば、私たちは土日活動していないので、月曜日にまとめて電話やメールを受けるのですが、そのとき連絡してきてくれた人は、もしかしたら昨日も一昨日もご飯を食べられなかった方かもしれません。そんなときに私たちが食べ物を持っていって、一週間分くらいだとしても、そこでちょっと立ち直って自治体の窓口に改めて相談していただくような形の支援ができれば、と考えて取り組んでいます。

■特徴的な取り組み

――年間の食品取扱量はどのくらいですか。

東さん:
 昨年2023年は約285トンほどでした。食品の寄贈などは年々増えているのですが、人手や車両などのキャパシティを考慮すると最大でも300トンくらいが上限になるかという状況です。それ以上に増やしていくためには、また別の形を作らないと難しいかと思っています。
 受取に関しては、私たちの拠点まで運んできてくれる企業さんなどが多いのですが、それを仕分けして倉庫に入れたり、出荷するときには先に入ってきたものを先に出せるように整理しながら発送したり、という作業に対応する人員確保は課題の一つです。
 最近は、賞味期限が長く使い勝手がよい冷凍食品の提供を企業さんに相談しています。現状としては冷凍食品は食品取扱量のうち、約2割くらいなのですが、その割合を増やせる体制を整えていきたいですね。

――他の団体さんからも、冷凍食品は保存期間の長さや多様な食材バラエティがあるなどの利点が多いので取扱いを増やしていきたいという声をよく聞きますが、低温保管の設備や輸送体制に課題があるところが多いです。

東さん:
 
ふーどばんくOSAKAは大阪食品流通センターというところに事務所を設けているのですが、そのセンターにある冷蔵・冷凍の保管設備を借りることができますので、問題なく取扱いができます。
 冷凍食品は賞味期限が半年近く残った状態で提供いただけるものが多いので、それを私たちのところから色々な施設にお渡しする段階で、余裕をもって配分していけます。なので、冷凍設備が使えること、また他にも食品の在庫が多くなったときには大阪食品流通センター内のストッカーを追加契約して増やすこともできますので、そういった対応ができるのは大きな利点ですね。

参考:大阪食品流通センターにおける大型トラックでの入出庫の様子
(Google Mapより)

――様々なところから大量の食品を入荷して、また色々な団体に配分されていると思うのですが、受け渡しをスムーズに行うために工夫されていることはありますか。

東さん:
 先ほども触れましたが、倉庫の中の作業が増えるとかなり大変になります。なので、ここ1-2年やっている工夫として、企業などから大量の食品の提供があるときには、それが搬入されるときにフードパントリーを実施している団体などに声をかけて、荷受け作業の手伝いをしてもらい、そのまま必要な分を持ち帰ってもらうという形式をとっています。
 例えば、1日に10トンや20トンの食品、ケースでいうと2000‐3000ケースくらいの搬入があるときに、センターにトラックが入ってきたときの荷受けをフードパントリー団体のみなさんに協力してもらい、そちらにお渡しすることが決まっている分は最初から倉庫に入れることなくその場でお渡します。そうすれば、私たちのほうで大量のケースを搬入して中で整理する作業、後日発送する作業というのが省けますし、さらに限られた保管スペースも有効活用することがでいます。

参考:搬入作業の様子
(HPより転載)

――倉庫にしまう前に持っていってもらうんですか。一石二鳥のすばらしい協力体制ですね。他の団体にもぜひ紹介したいと思います。

東さん:
 
企業からの食品の入出荷の調整と団体との連携は大変かもしれませんが、取り組んでもらうと効率化できる部分があるかと思います。
 重要なポイントは、事前に、提供元企業から何月何日にどのくらいの量のどんな食品が入ってくるか、提供先の団体はどのくらいの食品の受け取りを希望しているのか、どのくらいの人員でサポートしてくれるか、ということを切れ目なく調整していくことです。
 また、流通に関しては、他にも現在試験的にやっている試みがあります。大阪に2店舗あるコストコさんから定期的にパンを提供していただいていて、そのうち1店舗は私たちが取りに行っているのですが、もう一つの店舗のほうには前述した各団体の方に直接受け取りに行ってもらっています。そこからセンターの倉庫に搬入していただきつつ、その団体で必要な分はそのまま帰りの足で持って帰ってもらうという形です。
 私たちのほうは、コーディネートというか、つながりを作る部分を担って提供元企業と提供先団体とのやりとりを調整する、そして流通面では個々の団体さんの力をお借りして効率化できる仕組みを構築していきたいですね。
 それがフードバンク事業の持続可能性につながると考えています。

■今後の展望

――持続可能性という観点も出ましたが、今後の活動において、課題となることはなんでしょうか。

東さん:
 
一つは資金面ですね。食品の寄贈も、それを必要としている方も増えているので、流通をはじめとして様々なコストが増加しています。
 行政からの助成金などが活動原資の3割ほどになりますが、それは年度ごとのものだったり、継続的に発生するものとは限らないので、他の方面での資金確保もしていかなければなりません。寄付も減少傾向にあるので、クラウドファンディングなども検討しています。
 また、拠点拡大についても考えています。今は拠点が堺市にあり、地理的には大阪府の中心部よりちょっと南側にあたるのですが、できれば府の北側にサテライト的な拠点をもって、流通面での効率化などを図りたいと思っています。
 一方で、最初にも触れましたが、効率を別としても、困窮者個人への直接支援の取り組みは続けていきたいところです。何日もご飯が食べられず、支援を必要としている方を放っておくことはできません。たとえ1週間分の短い食品支援であっても、そこから持ち直して次の一歩につながることもありますから。

■まとめ

 今回お話をお聞きして印象的だったのは、年間で300トン近い食品を扱う大規模な運営における工夫です。ふーどばんくOSAKAは2023年に活動10周年を迎え、現在は次の10年の道を歩まれている、地域のフードバンク事業の中核的な組織です。これまでの活動の中で果たしてきた役割と責任が大阪の自治体や企業、個人からの信頼として積み重なり、それが現在の大規模な食の支援体制につながっていると感じます。

参考:昨年実施された10周年シンポジウムの様子(登壇者は赤井理事長)
(HPより転載)

 大阪食品流通センターという大きな施設に拠点を構え、日々関係者と緊密なコミュニケーションをとりながら、大量の食品の入出荷をされている点、そしてさらなる効率化のための仕組み構築に取り組まれている点などは、地域のセーフティネットの一形態として、フードバンク事業のロールモデル的存在です。
 一方で、大規模運営をしながらも、赤井理事長の大事にする「食は人権」という合言葉を掲げて一人ひとりからの助けを求める声をできる限り拾い、そこに個別に対応することを続けています。東さんにインタビューをした際にも、その前後に配送に行かなければならないという忙しさの中で合間を縫ってご対応いただきました。なので、この記事をご覧になったみなさんに少しでも地域の食の支援の意識を高めていただければ嬉しく思います。
 下の画像は、2020年に作られたふーどばんくOSAKAのユニフォームの写真です。団体HPでも紹介されていますが、スタッフのみなさん、ボランティアのみなさんがこちらを着て日夜活動されています。大阪でこのユニフォームを目にされた際は、「がんばれー!」とぜひ心の支援をしましょう!
 東さん、貴重なお話をありがとうございました。

団体ユニフォーム
(HPより転載)

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