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【フードバンク取材】北海道に食のセーフティネットを~フードバンクイコロさっぽろの取り組み~

公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美   
研究員        船井 隆

 弊所では、農林水産省と連携して大規模・先進的フードバンクの活動支援事業を実施しています。今回はその連携先の1つである特定非営利活動法人フードバンクイコロさっぽろの活動についてご紹介します。オンラインにて、理事長の片岡 有喜子様にお話を伺いました。

理事長 片岡 有喜子様
(HPより転載)

■団体概要

――今日はフードバンクイコロさっぽろの活動のお話とあわせて、イコロさっぽろが呼び掛けて設立された北海度フードバンクネットワークの活動についても聞かせてください。

片岡さん:
 はい。もともと私たちは札幌市を拠点とする単独のフードバンクとして活動していました。同じように北海道全域に複数のフードバンクがあります。一つひとつの団体はそれぞれの地域で頑張っていますが、北海道は非常に広域であることから、なかなか連携が生まれにくく、ノウハウや情報の共有・食品在庫のシェアなどをする関係はあまり築けていませんでした。それにより、同じ北海道の中でも地域によって支援状況のばらつきや非効率な取り組みが生まれるという状況でした。そのため、2022年度に農林水産省の支援を受けながら各団体にネットワーク化を呼び掛け、翌2023年に道内15団体が集まり北海道フードバンクネットワークが設立されました。

(HPより転載)

――ネットワーク化されて変わったことについて教えてください。

片岡さん:
 まずは企業や自治体との連携が取りやすくなったという点ですね。個々の小規模な団体だと声が小さく、企業との大きな取り組みの話をすることが難しかったのですが、ネットワーク化して北海道全域を支援する組織になったことで、今までよりも大きな枠組みでのお話ができるようになりました。
 例えば、ローソンとの連携では、フードバンク支援のための寄付つき商品を販売していただくことになりました。これは、北海道の牛乳を使った対象商品を買うと、北海道フードバンクネットワークの活動費として寄付がなされ、それを原資として道内の食に困っている方への支援がなされる、という仕組みです。

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 それから、地域の特性をふまえた食品の融通ができるようになったことも大きいです。北海道の端から端の距離は、東京から神戸ほどの距離があるので、多様な地域・都市特性があります。農業が盛んな地域もあれば、漁業が中心の町、それらを加工する地域、そして消費地になる都市などです。地域の産業によって寄付を受けやすい食品が変わるので、それらをフードバンク同士で融通しあうことにより、食の平準化ができるようになりました。例えば、札幌は加工食品の取扱量が多いのですが、それを富良野に送って、逆に富良野からは農産物を送ってもらうような形で地域ごとの偏りを減らせるようにしています。
 将来的に目指しているのは、「北海道のどこで困っても食品が受け取ることができる」食のセーフティネットの構築です。そのために、フードバンク活動の空白地帯になっている地域において、新しい団体の立ち上げや大学の学生さんたちの活動の支援などもしています。農業が盛んな十勝地方は規格外野菜などのロスが多いようなのですが、まだフードバンクがありません。そういったところに拠点ができて、ネットワークが強固になっていくのが望ましいですね。

■食品寄贈企業との連携

 ――ネットワーク化したことによって、規模のメリットなどが出せるようになったんですね。物流など、企業からの食品の受け取り面ではいかがでしょうか。

片岡さん:
 
やはり北海道は広いので、物流面は重要な点ですね。基本的には企業からフードバンクへの食品寄贈の際には先方に配送料を負担していただくようお願いしています。すると、各フードバンクに配送をするのは費用的に厳しいけれど、一か所にだったら届けられるという案件が一定数出てきます。そういうときに、まずフードバンクイコロさっぽろが借りている物流倉庫に先方負担でまとめて配送してもらうことができます。そこからネットワーク内の団体への配送は我々の負担なのですが、現在はここに農水省の助成金などを使ってカバーしています。また、食品寄贈にかかる合意書を一本化することができるメリットもあります。15団体それぞれと書類締結するのは企業側からも大変な作業ですから効率化につながります。ただ、この仕組みは助成金がないと配送料の負担が大きくなってしまうので、可能な限り、企業から各団体への直送などの送料のかからない仕組みを議論して構築していきたいとは考えています。
 また、寄贈される食品の取扱いに関しては、ネットワーク内で適切に管理できるように衛生意識の底上げを図っています。今年は4回のワークショップを行い、外部講師を招いて勉強会をしました。今後、フードバンクの認証制度ができるような動きもありますし、その基準を満たせるように準備しておくことが重要だと考えています。なにより、食品をちゃんと保管して食中毒などの事故を起こさないことが企業からの継続的な信頼につながります。

■特徴的な取り組み

 ――食品の取扱量を拡大するために取り組まれていることを教えてください。

片岡さん:
 
広報に力を入れています。休眠預金を活用した助成事業で、広報活動を充実させることができました。SNSでの発信やニュースレターの発行、企業を 訪問して感謝状をお渡しするなどの活動に取り組んでいます。
 その一環で、ネットワークの活動を広報するシンポジウムを実施したのですが、非常に多くの方の参加がありました。また、その後の半年で9回もメディアからの取材があり、そのたびに寄付・寄贈をしたいというお問い合わせが増えるという大きな効果がありました。情報発信の重要性を感じています。

シンポジウムの様子
(HPより転載)

 それでもフードバンクの認知度はまだまだ十分ではありません。なので、今はより多くの人に知ってもらうために、普段、自分たちの活動範囲と重なりあわない場所に発信していくことに取り組んでいます。例えば、Jリーグの試合があるときにスタジアムでフードドライブを開催したり、中小企業同友会に所属して異なる業界で事業をしている企業の方と交流を持つなどです。

■今後の課題

 ――ネットワークが設立されて二年目で、非常に多くのことを実現されていると感じたのですが、今後の発展に向けた課題はありますか。

 今後も、私たちがモットーとしている「北海道のどこで困っても同じように食品が届く」という状況を目指して活動していきます。北海道は、生活保護の受給率が全国2位ですし、離婚率も全国5位といういうことで困窮者の多い地域です。そして、道の広さが彼らへの支援を難しくしている部分があります。なので、ネットワークの更なる強化をして、今、支援が届いていない空白地域への活動拡大は非常に重要です。
 北海道フードバンクネットワーク設立の時には、ちょうど同時期に北海道内の困窮者支援に携わる者同士をつなげてネットワーク化する動きがありました。なので、我々を含む様々な支援現場の方々が全道をまわって、いろいろな関係者の方と議論をしながら一緒にやりましょうと結束できたことが、ここまでのよいスタートにつながったと思います。行政機関のバックアップは、設立のときから現在の官庁フードドライブ実施も含めて非常に大きなものなので、今後も空白地域の自治体や社会福祉協議会含め、各所との連携を続けていきたいです。
 また、認定NPOになれれば、寄付金控除や税制優遇がありメリットが大きく、企業からの信頼度も向上するので、認定を受けるための取り組みをしていかなければなりません。ただ、その点に関しては、現在の運営を続けていければ大丈夫だと考えています。

■まとめ

 今回お話をうかがって非常に印象的だったのは、地域の特性にあわせた運営をされていることです。他の都府県のフードバンク活動を取材した際にも、それぞれの団体が地域に根差した(地域に合わせた)取り組みをされていると感じていたのですが、北海道はその広さや多様な気候・産業構造などから、各地に等しく支援の手を届けるのは非常に難しいことなのだとわかりました。
 それでも、ネットワーク化してフードバンク間の連携を図り、そして自治体や社会福祉協議会など多様な困窮者支援に関わるステークホルダーの結束を強めながら、空白地帯を生まない支援を目指す取り組みはすばらしいことだと思います。
 お話の中に「情報発信の重要性」についての言及がありましたので、弊所のこの記事が少しでも活動への貢献につながることを願いつつ、それに加えて、北海道フードバンクネットワークの更なる強化に資するような研究調査・情報提供に努めたいと考えております。
 片岡さん、貴重なお話をありがとうございました。


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