見出し画像

ワ―ママ社労士が法人化について本気出して考えてみた

個人事業主としてお仕事をしていた人が、一度は考えることかもしれません。
個人事業主のまま仕事をするか。法人化したほうがいいのか。

特に法人を持つことにこだわりがなかったり、個人事業で仕事を受ける形で特段の支障がないような場合は
どのタイミングで法人化するのがいいのかという検討がついつい先延ばしになってしまいがちだと思います。



私の場合も、法人化するには法人の税金の知識と社労士法をある程度調べなければならず、仕事の忙しさにかまけてついつい何となく個人事業のまま来てしまいました。

ちなみにネットの情報では、「だいたい所得が〇円くらいを超えてくれば法人化のメリットがあることが多い」などという情報がすぐに確認できますが、それには社会保険料や税理士費用等が検証に入っていなかったり、社労士会費の違いなどが当然考慮されていないので、もう少し具体的に検証してみたいと考えていました。

そしてついに先日、重い腰を上げてフリーで公開されている試算ツールや管轄の行政機関等を駆使しながら、法人化に伴う情報を収集してみました。
備忘録という意味において内容を書き記しておきたいと思います。

今回、各種税金の見込額を掲載していますが、この数値は仮定の数字を用いて、公開されているフリーツールを参考にするなどしてざっくりと試算したものに過ぎず、税額を確定するものではありません。個別の税務については必ず税理士さんや税務署にご相談ください。


法人化することによるメリットとは

一般的にはある程度の売上がある個人事業主が法人化することによって、以下のようなメリットがあると言われています。

①法人格を得ることにより一定の信頼性が得られる効果
②国民健康保険料から社保に代わることによる保険料の削減効果
③個人の事業所得から法人所得に移転させることによる節税効果
④福利厚生を導入することによる従業員満足の向上と節税効果
⑤インボイス登録事業者の2割特例の延長効果

果たして実際にどのような効果がありそうなのか。
先延ばしにしていた作業に取り掛かります。



法人化を検討するために収集した情報

検証する内容があまりにも多すぎて、どのように記事に整理していけばいいのか迷っていますが、とりあえず、私が検証の際に集めた情報をまとめておきます。

1.売上、経費の見込額
2.社会保険労務士法上の制約
3.法人税各種(法人所得税、法人住民税、法人事業税)の計算ツール
4.年金保険制度、健康保険制度の各保険料の計算方法
5.法人化することでプラスでかかる経費抽出(法人設立費用、社労士会への登録費用、登記のためのバーチャルオフィス契約料、税務代行費用など)
6.個人として行っている節税対策(青色申告、iDeco、小規模企業共済)


1.売上、経費の見込額

売上と経費の見込額はフィクションです。
具体的にイメージするために、仮の数字で検証方法をご紹介していきます。

売上見込:2000万円
経費見込:1000万円(社員2名分600万円の給与含む、役員報酬や社保料含まない)


2.社会保険労務士法上の制約

法人化するには、大元の社労士法もしっかり必ず押さえておかなければならないポイントとなりますが、今回記事が長くなりそうなので次回の記事にまとめ、今回は割愛をしたいと思います。


3.法人にかかる税金と保険料

まずは法人化した場合の負担する費用について検証します。
下記はあくまでもシュミレーション上の数値で、法人の所在地や法人規模、設立年、従業員数などによって税率等が異なりますのでご注意ください。


3-1.社会保険料(厚生年金・健康保険料)


法人を設立して役員報酬を決めると、その役員報酬額に対して社会保険料が発生します。

社会保険料は令和6年東京都で計算すると以下のようになります。ちなみに私はまだ30代で介護保険料はかかりませんが、ここは介護保険料も含めて試算しました。

また、従業員の社会保険料の会社負担分も考慮に入れなければなりませんね。

〇役員報酬月額25万円(年間300万円)の場合
・健康保険料 12,974円
・介護保険料 2,080円
・厚生年金保険料 23,790円

年間 約46万円(別途、同額の法人負担分が発生)

〇従業員給与月額25万×2人(年間600万円)の場合
・健康保険料 12,974円×2人
・介護保険料 2,080円×2人
・厚生年金保険料 23,790円×2人

年間 約46万円×2人=約92万円

役員報酬や給与額は完全にフィクションですが、
計算を前に進めるために上記の額で計算してみましょう。


3-2.労働保険料の算出方法

労働保険料については、法人化しようが個人事業であろうが、従業員を雇用すれば必ずかかる費用なので、ここでは検証に入れないことにします。

参考程度に労働保険料の計算方法(会社負担分のみ)をご紹介しておきますと、以下のようになります。

4月から翌3月までの給与総額×12.5%(社労士業の場合)



3-3.法人税・法人事業税・法人住民税

法人となった場合の税金の種類(以下「法人税等」)です。種類が多いですね。
◯法人税
◯法人事業税
〇法人特別事業税
◯法人県民税、法人市民税
〇地方法人税

今回、フリーで公開されているツールを参考にしたりして、これらの税金をざっくり試算してみました。あくまでも試算となりますので、税金を確定するものではありません。

【計算条件:売上2000万、経費1000万(従業員給与含む)、役員報酬300万とした場合】

社会保険料(役員負担分含む)と法人税等=約314万円


〇役員報酬にかかる役員本人の所得税・住民税
役員報酬300万円は、基礎控除や給与所得控除、社会保険料控除や小規模企業掛金控除などを差し引くと課税所得がゼロとなります(小規模企業共済等掛金控除の効果が大きい)。

それを考えると、役員報酬はもう少し高めの設定をしてもいいかもしれません(300万円というのは、あくまでも仮の数字です)。



4.法人化に伴う周辺費用

法人にすると、さらにもっと色々な費用がかかってきます。
あまり直視したくない気もしますが、順番に見ていきましょう。


4-1.社会保険労務士会会費

社会保険労務士法人とした場合は、個人の会費+法人としての会費がかかります。
社労士会によって異なるかと思いますが、入会金10万円と、年間10万円程度の会費負担が発生します。

ただ、社労士法人ではなく株式会社を設立した場合は、社労士業務とは関係がないので当然会費は個人としての会費のみです。


4-2.法人設立費用


株式会社設立の場合は、かかる費用は以下のとおりです。
◯定款認証費用として3~5万円(資本金の額等による)
◯収入印紙代4万円(電子認証の場合は不要)
◯登録免許税として最低15万円


社会保険労務士法人の場合は、次回の記事でも詳しくご紹介しますが以下のとおりです。
登載費用2万円
〇定款認証費用5万円程度


4-3.バーチャルオフィス契約料

社会保険労務士法人の場合は、私が常駐している自宅で登記するしかないのでバーチャルオフィス契約料は不要です。

株式会社の場合は、バーチャルオフィスを登記上の本社として登録をするので月額5,000円〜〜15,000円程度(年間6万~18万円)が維持費用としてかかってきます。

バーチャルオフィスによっては、郵便物転送サービスや電話代行サービスも付属していることもあるようですので、必要なサービスに合わせて利用を検討しましょう。


4-4.税務代行費用

法人化すると税務処理が難しくなると聞きます。
これを機に税理士さんにお願いした場合、代行費用を見積もる必要があります。
売上規模にもよるのでしょうが、年間40~50万円程度でしょうか。


【法人化した場合の税金・社会保険料と、法人化に伴う費用の合計額は】

法人を設立した場合、法人税等と新たに負担することになる社会保険料や法人化に伴う費用を含めると、こういった試算になりました。

①社会保険料負担(役員負担分含む)と法人税等=年間約314万円
②その他法人化に伴う経費=年間64~85万円(一時金含む)

合計 年間約378万円~約399万円

上記には一時的に発生する法人設立費用が17万~18万程度計上されているので、翌年以降はそれを除いてコストを計算することになります。




5.個人にかかる税金と保険料

次に、個人事業主で売上2000万(経費1000万)だった場合の負担について検証してみます。

ちなみに、個人としては青色申告や、iDeco、小規模企業共済などの節税対策はすでに満額で加入済みなので、それも検証要件に入れていきます。


5-1.国民健康保険

個人事業主の場合は、国民健康保険に加入することになります。
国民健康保険も、所得額や税率や均等部分に地域差がありますのでご注意ください。
東京都千代田区で計算してみたところ国民健康保険料は上限が適用されて約106万円となりました。


5-2.国民年金保険料

国民年金の金額は一律で決まっています。令和6年度は1カ月あたり16,980円、年間約20万円です。


5-3.所得税

所得税率は累進課税となっており、所得に応じて段階的に負担が増していきます。

5-4.個人住民税

住民税も、住んでいる地域によって税額が異なります。
今回は東京都千代田区で計算した住民税額を試算してみました。

5-5.個人事業税

個人事業税は、税率は業種によって異なりますが事業主控除が290万円あるので、事業所得が290万円を超えないうちは個人事業税はかからない仕組みになっているようです。


【個人事業の場合の税金・社会保険料の合計額は】

フリーツールを用いて算出した各種税金や社会保険料を試算しますと、以下のような数字が試算されました。

【計算条件:売上2000万、経費1000万(従業員給与含む)、その他各種控除】

①国民健康保険料=約106万円
②国民年金保険料=約20万円
④所得税・住民税・事業税=約174万円

合計 年間約300万円



結果としては、法人化に伴う周辺費用(税理士費用等)が意外とかかるのと、社員の社会保険料の負担が重くなるということを踏まえれば、法人化で必ずしもお得になるわけではないことが分かりました。

ただし、社員がパートであって社会保険に加入しない場合や、税理士に頼まないという場合には、これらの経費(年間130万~140万程度)が削減されることにより、法人化のメリットが出てくる可能性もあります。

ちなみにですが、5人以上の従業員を雇用している士業事業所は、健康保険および厚生年金保険の強制適用事業所となります。
ですので個人事業の社労士事務所であっても従業員数が5人以上であれば、社会保険に加入することになり、従業員の社会保険料の会社負担分が発生しますので、その点も含み置く必要があります。



6.個人から法人化した時インボイスはどうなる?

私はすでに個人事業主としてインボイス登録事業者になっていますが、今後新たに法人を設立した場合は令和8年まで「2割特例」が使えるそうです(インボイスコールセンターに相談しました)。

2割特例については詳しくはこちらをご覧ください。

インボイスの2割特例が使える期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間です。

すなわち、例えば令和7年9月1日を期初とする新たな法人を設立した場合、設立後すぐにインボイス登録事業者となり売上が1000万円を超えたとしても、令和8年9月1日から令和9年8月31日の課税期間までは、インボイスの2割特例が適用される、ということなのだそうです。

令和7年〜令和9年の間、消費税を通常計算(私の場合は簡易課税制度ですが)するのか、2割特例を使って計算するのかでは試算上は百万円単位で差が出てきそうです。

これは意外にも大きな法人化のメリットではないかと思いました。



7.法人化するかどうかは、これらの試算も含め総合的に判断

今回収集をした情報により、ようやく具体的にイメージできるものになりました。

やはり一般論を当てはめるのではなく、自分のケースに当てはめて検証しないと中々腹落ちしないものですね。
まだまだ素人考えではあるものの、考え方の方針が何となく定まりスッキリです。

簡単にまとめると、こんな感じです。

〇社員にかかる社会保険料負担や、税理士さんへの委託費用を含めると、必ずしも法人化することにより負担額が減るとも言えない。社員の雇用方針や、税務の内製化の可否についても合わせて検討が必要。

〇法人化することによってインボイス特例の影響で申告消費税額に差が生じるため、この点も考慮に入れる必要がある。

〇法人化した際には、節税対策の一環として福利厚生制度の導入など、法人としてのメリットの最大化を検討する余地がある。


なお、これらは他の方にも必ずしも当てはまるものではありませんので、必ず個別の内容は税理士さんなどにご相談ください。

以上、ご参考いただければ幸いです。



いいなと思ったら応援しよう!