ワーママ社労士が遭遇した「無意識の偏見」?
社労士業界は、平均年齢が高めです。
先日ご紹介した社労士事務所の実態調査では、50歳以上の社労士が約7割を占めていることがわかります。
一方で女性開業社労士は、全体の17%ほど。
そんな社労士業界に、30代前半、子育て中の身で開業登録をした私ですが、振り返ると同業社労士には随分「軽く扱われていたんだなあ」と今更ながら気づくことも色々あります。
その中で、「きっとこういうことは、男性の同業者には言わないだろうな」という言葉の数々が思い出されます。
おそらくですが、こうした発言の背後には、私の属性を捉えて「どうせ旦那に食わせてもらってるから、稼ぐつもりもない(稼がなくてもいい)んでしょう?」という無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)があるのだろうと思います。
確かに、夫は正社員で働いていますので、私がものすごい稼ぎを得る必要はありません。どちらかというと、私は子育てをおろそかにしないように柔軟に働く担当であることは確かです。
ただ、ちょっと自分をフォローするつもりで書いてみると、
私は出産・開業した以降も含めこれまで一度も夫の扶養に入ったことはなく、開業したのだって「自分に胸を張れる稼ぎを作りたい」という思いもあってのことです。
最初から夫の扶養に入る範囲の働き方は全く目指していませんでしたし、税金や社会保険料も毎年漏れなく納めてきました。
だからと言って特に腹が立っているとか、業界のこんな体質を変えたいとか、そういう意図は全くないのですが、私が遭遇した無意識の偏見について少し思い出しながら書いてみようと思います。
「無償で動いてくれそうだったので声をかけた」とのたまう
唯一私が腹が立ったと感じているのは、同年代の男性社労士に言われたこの言葉です。
この男性社労士は、自身が抱えている顧客の助成金部分だけをスポット業務として私に紹介してきたり、自身の事業に「一緒にやれそうだから」と巻き込んで来ようとしました。
当時は開業して間もなかったので、ホイホイ話を聞きに行っていましたが、結局私自身の利益になる仕事には何一つ繋がりませんでした。
それでも「きっと協力し合える同業者を探しているのだな」くらいに好意的に捉えていたのですが、ある時ふと冒頭のセリフを漏らしたため、私も「ああ良いように使われていたんだな」とようやく気づき、距離をとることができました。
数年の間に私も顧客を増やし、自信もついた頃、再びこの男性社労士から連絡がありました。
「自分の顧客の助成金部分だけ担当してもらえないか?」
ラインが来て10秒後には「すみませんが今は多忙につき顧問先しか助成金は担当できません」と断りを入れ、今はそれきりです。
「社労士が成功する一つの大きな要素は、ご主人がいること」
こちらは、私がすでに数十社の顧問先とスタッフを抱えて仕事にも少し自信をつけていた頃、ある社労士に言われたセリフです。
最初聞いたときはピンとこず、「はあ・・」という感じだったのですが、
後にこの社労士から仕事を受けることになり、その意味するところがようやく分かった気がします。
その社労士から提示された仕事の報酬は、実働に比してあまりにも低く、中には無報酬というものもありました。経験を積ませてもらい、新たな案件を紹介してもらい、私もそういった利益を得た側ではありますが、後に提示された報酬の低さに驚きを隠せませんでした。
仕方がないので仕事をそのまま受け、その社労士のやり方をしばらく見ていると、
私と同じような属性の女性社労士に声をかけ、おそらく同じような額の報酬でご自身の仕事を外注しているようでした。
もちろん、自分が納得していればいいんです。
経験が積めれば、報酬なんて二の次でよいという考えも納得の上なら、全く問題ないと思います。その経験を糧に大器晩成出来たら万々歳。
ただ、そういう大らかな気持ちを持てるのは、おそらく私と同じような、稼ぎにこだわらなくても良い既婚の女性社労士であるという前提を持っているからこそ、この社労士から冒頭のセリフが出たのではないかと、今では思えてしまいます。
これでも私は一生懸命自分で顧客開拓をし、お客様との関係性を大事にし、コツコツと売り上げを積み重ね、ようやく人並みを随分超える稼ぎを得て、スタッフを雇用するまでに成長してきたのにな・・と分かってほしい気持ちもありますが、それを直接伝えたことは残念ながらありません。
「それほど一生懸命働かなくていいんでしょう?」
社労士会に入会した時、数名の社労士から「うちの事務所で働かないか」と声をかけてもらいました。
時給はその時の最低賃金に毛が生えた程度の1000円くらい。
開業したてで仕事のない私は、少し迷いました。
でも、開業したのは自由な働き方を実現するためだったので、
もう雇われという働き方は考えられず、結局どれもお断りをしました。
中でも熱心に声をかけてくれた先生がいました。
その先生は、自分の事務所に私を連れて行き、その事務所で働くスタッフさんや事務所内を隈なく紹介してくれました。
そこで一言「ご主人もいるしそれほど一生懸命働かなくてもいいんでしょう?」
きっと、先生としては「時間の融通はつけるから、短い時間でもいいから働いてよ」という意味でおっしゃったのでしょう。
先生に悪意があるわけではありませんし嫌な気持ちにもなりませんでしたので、普通に「いえいえ、とんでもない」と笑って応えていたと思います。
ただ振り返ると、いくら私が「開業登録」していてやる気のある若い社労士でも、既婚・子持ち・女性のフィルターがかかると見られ方が全く変わってくるんだなあ、、としみじみと感じたものです。
以上、私が遭遇した無意識の偏見でした。
実際、夫がいたおかげで経済的な不安をさほど感じずに済んだ事は否めません。
ですがだからと言って自分の時間を安く切り売りしたり、売れない自分に甘んじるという考えも持ってはいませんでした。しっかり仕事をして、それに見合う報酬をきっちりいただいていくことを目標に開業に踏み切りました。
もちろん、私はご家族の扶養に入りながら仕事をすることを否定するつもりは全くありません。ご自身のリソースを使って、ライフステージによって働き方を変えることは、戦略的であるとすら思います。
違和感を感じた原因は、私はこれまで一言も「扶養内で働きたい」と周りに対して発言したことはないにも関わらず、一方的に「どうせ旦那に食わせてもらってるから、稼ぐつもりもない(稼がなくてもいい)んでしょう?」と悪意もなく見られてしまうことでした。
ちなみに繰り返しますが、私はこのような発言や意識に対して、正直個人的な感情以外は何も考えを持っておらず、偏見をなくすべき、女性がこうなるべき、男性がこうなるべき、という具体的な思想があるわけではありません。
これらは実際に私が経験した、一つの事実と捉えてもらえれば幸いです。