31.初恋① 跳び蹴りするぐらいがちょうどいい

 女性陣にお聞きします。

 この中に、
「ムカついた男子の背中にりしたことあるよー」
 という方はいらっしゃいますか?

 そんな初恋相手・Dちゃん。

 その事件が起きたのは中学1年のときでした。
 実際にその現場を目撃したわけではないので、人づてに聞いた話で、ちょっとした騒ぎにもなっていたので我々かいわいでは有名な話、もはや逸話とも言えるような出来事でした――。


 ある日の昼休み。Dちゃんを含めた数人の女子が廊下で談笑していました。そこへ、ひとりの男子がやってきて、そこにいた女子のひとりを揶揄からかったようでした。その男子がその場を立ち去ろうと背中を向け歩き始めた――そのとき、

 ドンッ!!!!

 ムカついたDちゃんが、その男子の背中に跳び蹴りをお見舞いしたのでした。言っておきますが、決してDちゃんが揶揄われたわけではありません。友人に代わって怒りの跳び蹴りをお見舞いしたのでしょう。
 その男子は元々ヘルニアの腰痛持ちでした。それは知る人ぞ知るぐらいの事実で、おそらくDちゃんは知らなかったと思います。そこへ跳び蹴りをお見舞いしたことで、その男子はしばらく立ち上がることができず。やっとこさ、先生に抱えられ立ち上がりましたが、そのまま病院へ――。幸いにもおおごとにはならなかったようでした。
 元々ヘルニアで腰痛持ちだったとはいえ事実上は、

『跳び蹴りして病院送りにした女』

 ということになります。
 おそろしや、おそろしや。

 改めてお聞きします。
 この中に、
「ムカついた男子の背中にりしたことあるよー」
 という方はいらっしゃいますか?

 そんな初恋相手・Dちゃん。

 皆さまにお聞きします。
 喋ったこともない人に対して道をあけてほしいとき、どのように声をかけますか?
 大抵は、「ちょっとそこどいてもらっていい?」とか、「ちょっとごめん、そこ通るわ」とか、そんな感じですよね?

 その出来事は中学1年のとき、「跳び蹴り事件」よりも前の話です。そしてそれが、僕にとってDちゃんとのファーストコンタクトでもあります。
 僕とDちゃんは違うクラスでした。違うクラスといっても1クラス20名ほどの2クラスしかありません。下校前、僕は隣のクラスの教室で入り口をふさぐような状態で友達と立ち話をしていました。

「ザザッ」

 うしろに人の気配が……。
 振り向くとDちゃんでした。

 当時、僕はまだDちゃんと喋ったことはありません。そんなDちゃんは僕に向かってひと言、

「邪魔」

 ビクッ!!

 考える間もなく全身の細胞が身の危険を察知し、瞬発的に道をあけました。
 教室の入り口を塞いでしまっていたのは事実ですが、喋ったこともない人を相手に「邪魔」なんて言えます? そもそも、入り口を塞ぎ邪魔になっていることに気づいた時点で、何も言われなくても僕は道をあけたでしょう。口に出さなくてもいい、ましてや「邪魔」なんて言葉をわざわざ口に出すんです……。
 おそろしや、おそろしや。

 そんな初恋相手・Dちゃん。

 決してヤンキーとかそういったたぐいではありません。ちょっと気が強いというか、容赦ないというか、そんな感じです。

 Dちゃんと初めて出会ったのは幼稚園のときでした。僕の町には3つの学区があり、それぞれに保育園と小学校があります。町に1つ幼稚園と中学校あり、それぞれの保育園を5歳で卒園したあと、全員が1つの幼稚園に入園するシステムになっていました。幼稚園で1年間共にして、卒園後はまたそれぞれの学区の小学校へ入学します。そしてまた、中学校で一緒になります。小学校はそれぞれ違えど、合同での行事や町のイベントなどで度々顔を合わせるため、みんな顔馴染みで、中学校に入学したときにはみんなの顔と名前はすでに一致していました。幼稚園のとき、Dちゃんとは同じ組でしたが、会話をした記憶はありません。存在を認識していた程度で、特に印象もありません。幼稚園以降も同様です。

 小学生の頃、迷惑をかけてしまったことで女子たちに虐げられた経験があります。[10.何が迷惑になるかわからないから 参照]
 それ以前から、基本的に女子と絡むことが苦手で、恥ずかしいというか、積極的に絡むようなタイプではありませんでしたが、虐げられたことによってますます苦手になりました。それが風化したのち、いじられキャラとして定着し、いじったり、いじられることによって女子とも絡めるようになり仲良くなりました。仲良くなったといっても、基本的にはいじったり、いじられたりの関係で、何か語り合ったりみたいな、会話という会話はほとんどしていません。いじったり、いじられたり、それだけです。それが、迷惑をかけないために、嫌われないために、自分に課した役割でもあり、それだけが僕と女子たちを繋ぐ手段でした。かわいい言い方をすれば「じゃれ合い」でしょうか。特に中学ではより一層研ぎ澄まされていきました。当然、Dちゃんとも同様です。

 中学2年のとき、僕とDちゃんは同じクラスになりました。その頃から、僕はDちゃんに対して恋心を抱くようになるのですが、キッカケというキッカケは覚えていません。当時、どこが好きだったのかも曖昧です。なんせ中学2年生ですから、そういうものでしょう。気がつくと、Dちゃんのことが気になるようになり、やがて片想いという状態になった、そんな感覚です。恋とはそういうものでしょうか。
 これまでお付き合いした人が皆そうだったわけではないですが、僕が片想いに近い感情を抱く相手には、ある共通点があります。それは、ショートカットです。それにも理由があります。小学生の頃、僕を虐げていた主犯格の女子数名はいずれもロングヘアーでした。いっぽうで、ショートカットだった女子たちは、そのロングヘアー女子たちと一緒にいるときには同じような扱いをしてきましたが、積極的に僕を虐げるようなことはしませんでした。ロングヘアー女子たちと一緒にいないときは穏便で、僕と談笑することもありました。
 単なる偶然なのでしょうが、その経験はロングヘアーの女性に対する苦手意識を僕の脳に植え付け、「近寄りがたい存在」になったように思います。昔ほどではないですが、今でもその感覚は多少残っています。語弊があるかもしれませんが、ロングヘアーで、大人っぽくて、おしとやかで、女性らしい女性(あくまで僕の感覚です)が苦手というか、緊張するというか、警戒してしまうというか、そういった感覚があります。特に意識しているわけでもないのに、です。もちろんそれは最初だけで、関わっているうちに薄れていきます。これまでお付き合いした方の中にはロングヘアーの女性もいました。
 Dちゃんは、ショートカットでした。そして、大人っぽくて、おしとやかで、女性らしい女性、そういったイメージからは遠い子でした。ムカついた男子に跳び蹴りをするような子ですからね……。そんなDちゃんは、僕にとっては「近寄りやすい存在」でした。
 それに、僕はDちゃんの容姿も好きでした。かわいかったです。その容姿からは、跳び蹴りをするような印象はないでしょう。粗暴なときと、そうでないときのギャップにも魅了されたように思います。
 当時は自分でも分からなかったですが、今となっては、僕がDちゃんに恋心を抱くようになったことには、ちゃんと理屈があり必然であったように思います。
 ムカついた男子に跳び蹴りするぐらいの子が、僕にはちょうどよかったのでしょう。

 あっ、いやいや……
 決して「跳び蹴りされたい」というわけではないですよ! 笑

 暴力反対!!!! 



                《つづく


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