1.俺のプロローグ 〜迷惑をかけない〜
エッセイ
不定期で更新します。
順番どおりに読んで頂けると嬉しいです。
〈概要〉
“迷惑をかけない”それを意識しすぎるあまり自分が分からなくなることがある。
「もっと自分を出したい」って思うけど、迷惑かけないように、不快にさせないように、顔色を伺い同調しながら、その場その場で自分を変えながら関わってしまうため、結局自分を出せない。
本当の自分って何なんだろう。
もっと自分の考えや思い、いろいろな発想や想像を表に出したい。どうしたらもっと自分を出せるだろう……そうだ、エッセイだ!
自分らしく生きるために、自分を思う存分晒け出すことをテーマに、器用なようで不器用な、不器用なようで器用な私の人生と頭の中を綴ります。
〈目次〉 こちらから各ページに飛べます。
1.俺のプロローグ 〜迷惑をかけない〜
2.迷惑をかけないは迷惑をかけた
3.俺はそんなヤツじゃない①
4.部活の話 〜俺はキャプテン向いてない〜
5.上阪での失敗 〜俺は枝豆〜
6.今の自分は好きですか?
7.砕け散った好奇心
8.もしも俺が魚だったら
9.過去は過去、今は今
10.何が迷惑になるか分からないから
11.初めての本気土下座
12.青鬼になろう
13.俺はそんなヤツじゃない②
14.教師にしばかれた話
15.初めての就職① 迷惑をかけないの力
16.初めての就職② 仕事を辞めれない俺が
店長になった
17.初めての就職③ スタッフからの手紙
18.初めての就職④ 俺って
19.部活の話 〜悪い魔法使い〜
20.人類にラッコの本能を
21.失敗は成功の素(チャラ男風味)
22.勤労学生な生活① 不安
23.勤労学生な生活② ルーティン
24.苦手は苦手でいい
25.勤労学生な生活③ 4年間のあれこれ
26.やりがいを感じた話〜残される側の悔い〜
27.分岐点は君がため①
28.分岐点は君がため②
29.分岐点は君がため③
30.迷惑かけたくない俺の日常 苦手なもの
31.初恋①跳び蹴りするぐらいがちょうどいい
32.初恋②「自分」と「恋愛」
33.初恋③恋の定義
34.初恋④完 未解決の謎
35.暗黒バス トイレ冒険記
36.Y先輩はホッピーが好き
37.自炊奮闘記 〜肉じゃが死す〜
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順番どおりに読んで頂けると嬉しいです。
1.俺のプロローグ 〜迷惑をかけない〜
“人に迷惑をかけない”
それが俺の生き方。
「夢」や「目標」そんなものはない。ないというより分からないというほうが正しい。分からない「人に迷惑をかけない」そうやって生きているから。
“人に迷惑をかけない”
人の顔色、感情の変化、人間関係などあらゆることにアンテナを張る。
人の発言の意図や裏側を考える。
時と場合、環境や立場が変わると俺は変わる。その場での自分の立ち位置、自分がどう振る舞うべきか、自分の役割は何かを考え自分を変える。その時々で俺と関わった人たちの、俺への印象はそれぞれ違うかもしれない。
いちばん楽な方法は何か? それは無言でいることだ。無言でいる自分に慣れてもらうことだ。そうすることで空気と化し、存在を消すことができる。周りが俺のことを気にかけることは無くなる。
“人に迷惑をかけない”
何が迷惑になるか分からない。
究極の方法は何か? それは人に会わないことだ。
俺は人を誘うことが苦手だ。自分のためにわざわざ時間を割いてくれる――申し訳ない気持ちになる。休みの日はひとりで過ごすことも多い。
ただ、こんな俺だが暗い人間ではない。むしろ明るく陽気に生きてきた。
その証拠に中学を卒業するとき、クラスメイトからの寄せ書きには、
『めっちゃおもろかった』
『高校でもおもろいままでおってね』
『たくさんのボケをありがとう』
『高校でもボケろよ』
『中3で初めてクラス一緒になったけど、そぉとぉおもしろかったです』
『君は最高でした』
そんな言葉が並ぶ。嬉しかった。
ただ、それが自分のキャラであり、そういう自分でいることが、自分の役割だと思っていた。そして、その役割を全うすることが“人に迷惑かけない”方法でもあった。
俺は明るかった。自ら率先してボケたり、バカをしたり、そんなふうに人の目につくよう振る舞った。そんな俺は、いじられることも多かった。周りからのいじりに、時には乗っかり、時にはツッコミ、時にはいじり返す。
中学生のいじりは雑なものも多い。
あるとき、クラスメイトの1人が俺の筆箱を教室の端へ投げた。
「うぉおい!」俺は明るくツッコむ。
床に落ちた筆箱を、たまたまそこにいた別のクラスメイトが拾い、ゴミ箱に捨てた。
「おいーーー!」俺は元気よくツッコむ。
ゴミ箱の中を覗くとチョークの粉が大量に入っていた。
――腹が立った。
俺は、チョークの粉まみれになった筆箱を手に取り「もぉぉ!」と笑顔で言うだけだった。
傷つくことも、腹立つこともあったが、感情のままにそれを言うことはない。それが俺の役割だから。そんなキャラだった俺は、みんなと仲が良かったし、楽しいことのほうが多かった。
中3のとき、親しかった友達に「俺もう高校なったら、このキャラ辞めるわ!!」と嘆いたことがある。楽しかったが疲れていた――そんな自分でいることに。
その友達は寄せ書きに、
『高校でも今のキャラでおれよ』
と書いていた。
卒業式の数日後、クラスの集まりがあったが、俺は行かなかった――。
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高校でも俺は陽気なキャラだった。そのキャラでいることは楽しかった。
「お前って悩みとかなさそうやな」
あるとき友達にそう言われた。そもそも明るく振る舞っていたが、周りにはそんなふうに見えているのだと認識したことで、より一層強靭なものになった。さらに拍車が掛かり、テレビで見たギャグをマネしたり、自分で考えたギャグを披露したり、とにかく俺は明るかった。
高校生活では“悩みがなさそうな人でいること”それが俺に求められている役割。そして、そうすることが“人に迷惑をかけない”方法でもあった。
こんな俺が野球部でキャプテンになった。“人に迷惑かけない”そうやって生きている俺が――。
先輩が引退する少し前、部室でキャプテンと副キャプテンと3人になったことがあった。
「お前がキャプテンするしかないやろ」
2人からそう言われた。俺も薄々そう感じてはいた。
田舎の小さな弱小校、俺の同期は5人、ひとつ上の先輩は7人しかいなかった。俺は新チーム結成当時から怪我をするまではスタメンで試合に出ていたし、部活のときの俺は普段のただ明るく振る舞うだけの自分とは違い、おちゃらけ要素は激減する。部活は真面目に取り組んでいたし、先輩や顧問に怒られないように気を張っていたから、ちゃんとしている印象はあったかもしれない。それに、他の同期たちは面倒見がいいほうではなかった。
俺がキャプテンになるのは所詮、消去法だ。顧問や同期、後輩からも諭された俺はキャプテンになった。
本当はめちゃめちゃ嫌だった。
“人に迷惑をかけない”
キャプテンになっても変わらない。
野球部は声を出す。声が出てない!活気がない!などと顧問から怒られることがある。俺は誰よりも声を出した。怒られないように、みんなの分もカバーして誰よりも声を出し続けた。
キャプテンの俺は部活に行く前、体育教師だった顧問のところへ練習メニューについて話を聞きに行かなければならない。俺はいつも、重い足取りで教官室へ向かい、そそくさと教官室のドアをノックする。「はぁい」その時々で抑揚の違う顧問の返事に、気を揉みながらドアを開ける。2人だけの空間で、自分のこと、部員のこと、チーム全体のこと、部活に関係ないことなど、あらゆることで俺は度々説教をくらい、時には憤慨される。俺はそれを他の部員にはそのまま言わないし、言うときは「こう言ってたわー」「そう言ってたから気をつけてなぁ」と、ゆる〜く伝えるだけだった。
グラウンドに散らばったボールをみんなで回収していたとき、顧問にはチンタラ集めているように見えたようで、近くにいた俺に「おい! お前言わんか」と。
「うぉおおおおい! 早く集めろよぉおおおおーー!」
俺は怒鳴った。グラウンドに響き渡る声量で怒鳴った。自分なりに精一杯怒鳴ったつもりだった。
「そんなんじゃあかんのじゃ!!」
顧問は俺に怒号を放ち、もっとちゃんと怒れと説教をした。
俺はダメだ――。人を怒れない――。キャプテンは怒れないとダメなのか――。そもそも怒りが湧かないし、そんなに怒ることなのだろうか――。
俺はキャプテンも、部活さえも、辞めたいと思うようになっていった。
そもそも向いてない“人に迷惑をかけない”そうやって生きている俺だ。
体育会で生きた経験がある人には分かると思うが、体育会ならではの理不尽なしごき、後輩をいびりたいだけの無駄なしごき、そういったことが度々ある。それが伝統になっていたりもする。俺はキャプテンになってから、それらのほとんどを撤廃した。『人にされて嫌なことを人にしない』園児でも知っているそれを俺は実行しただけ。
そしてなにより、俺は野球が上手くなかった。俺より上手い後輩がたくさんいた。そんな俺が後輩たちに何かを強いたり、嫌がらせみたいな仕打ちできるわけがない。実力が劣るキャプテンの言うことなんて聞かないに決まってる。
顧問が見ていないところで、練習をサボったり、ふざけている後輩たちがいても、キャプテンの俺も同期たちも怒ったりしない。だって、俺たちよりも上手いから。仮に、俺ひとりがどれだけ正論で叱責したとしても、数と力には勝てない。
俺は後輩たちとも明るく陽気なキャラで接した。後輩たちが俺をいじることもあったが、それに俺は乗っかり、ツッコむ、そして一緒に笑う。なんでも許した。きっとこんな俺をナメていたと思う。生意気な後輩たちと絡むのは面白いことも多かったが、憎たらしく思うことも、プライドが傷つくこともあった。
――仕方なかった。
実力もない、引っ張ることもできない、俺はそんなキャプテンだから。
部活は毎日憂鬱だった。
そんな数々の葛藤や苦悩を、他の部員やクラスメイトは知らない。
“お前って悩みとかなさそうやな”
俺のおでこは以前よりも広くなっていた。
――高3の夏。最後の大会で俺たちは一回戦敗退。
終わり良ければ全てよし! そう思いながら、そのために我慢してきた。しかし、俺は試合に出ることなく終わった。全ての苦悩や我慢が、まったく報われないまま終わった感覚だった。試合が終わった直後、俺は泣けなかった。
試合後、球場から部室に帰ると、俺は誰よりも早く部室を出て帰宅した。俺はその日の内に、グローブやスパイクなど、部活で使っていたあらゆる物を自分の視界から消した。
ひとつ、驚くことがあった。
試合で負けて終わった直後、後輩たちが泣いていた。まだ来年もある後輩たち、生意気だった後輩たちが――。
それが唯一、良かったと思えたことだった。
時々、ふつふつと浮かんできていた憎たらしいという感情は、シャンボン玉のように弾けた。
やっぱ俺はこいつらが好きだ。
翌年、後輩たちは最後の夏の大会で県ベスト8に進出する。それは我が母校、およそ30年ぶりの快挙だった。
* * *
――卒業式の後、最後のホームルーム。
生徒一人一人が順番に教壇に立ち、クラスに向けて挨拶をする。
俺は教壇に立ち、
「みなさん卒業おめでとう」
「お前もやっ!」
担任がツッコむ。クラスメイト、教室のうしろで見ている保護者たちが笑う。
「最後に保護者の皆様、この度は・・・」
「誰が言うとんやっ!」
担任がツッコむ。みんなが笑う。
「そんな3年間でした(笑)」ペコリ。
俺は高校を卒業した。