アクアポニックス経営の実際 ~成功者たちの現場から学ぶ運営のすべて~第5部(完):未来への展望

真っ白な研究着に身を包んだ高校生たちが、真剣な表情でメモを取っています。

「これが硝化細菌の働き。魚と野菜が支え合う仕組みなんです」

愛知で6年目を迎える中村さんの施設には、毎月のように見学者が訪れます。地域の学校の課外授業、農業研修生、そして新規就農を目指す人たち。

「来てくれる人が増えるのは嬉しいですね。でも、それ以上に嬉しいのは、若い人たちの目の輝きです」

変わりゆく農業の形

中村さんがアクアポニックスを始めた6年前、周囲の反応は冷ややかでした。

「農業なのに土を使わない。魚と野菜を一緒に育てる。変わり者扱いされましたよ」

しかし、最近は様子が違います。

伝統的な農家の後継者が視察に来たり、異業種からの参入を検討する企業が相談に来たり。アクアポニックスを取り巻く空気が、確実に変化しているのを感じるといいます。

「環境への関心の高まり、持続可能な食料生産の必要性。時代が、この形の農業を求めているのかもしれません」

技術の進化

群馬の山田さんの施設では、スマートフォンで水質データをチェックできます。

「始めた頃は、すべて手作業。24時間体制で監視していました」

今では、センサーが異常を検知すると自動的にアラートが届き、遠隔で対応することも可能に。

「でも、これは便利になっただけじゃないんです。データの蓄積が、新たな発見を生んでいます」

たとえば、魚の活性と水温の微妙な関係、野菜の生育速度と光量の相関関係。これまで経験則でしかなかったことが、データで裏付けられるようになってきました。

広がる可能性

「アクアポニックスの可能性は、まだまだ広がると思います」

静岡の鈴木さんは、最近新しい試みを始めました。

地域の福祉施設と連携した就労支援プログラム。知的障がいを持つ方々が、野菜の収穫や包装作業に携わっています。

「農業って、不思議な力があるんです。みんな、生き物と関わることで生き生きとしてくる」

また、県内の小学校と連携した食育プログラムも進行中です。

「子どもたちが魚や野菜の成長に関わることで、食べ物への関心が変わってくる。それが家庭での会話を変え、地域全体の食を見つめ直すきっかけになればいいなと思います」

次世代への期待

「正直、まだ完成形は見えていません」

中村さんは、そう前置きしながら続けます。

「だからこそ、若い世代の参入に期待しています。新しい技術、新しい発想。それらが加わることで、アクアポニックスはもっと面白くなるはず」

実際、研修に来る若者たちの中には、ITやマーケティングのスキルを持つ人も増えてきました。

「彼らが持つ知識と、私たちの経験が組み合わさったとき、どんな化学反応が起きるのか。それを見るのが今から楽しみです」

未来への責任

「持続可能な食料生産」
このキーワードは、もはや社会のトレンドではありません。

山田さんは言います。
「これは、私たちに課された責任だと思います」

化学肥料に頼らない栽培、限られた水資源の循環利用、エネルギー効率の追求。アクアポニックスが持つ特徴は、これからの農業に求められる要素と重なります。

「だからこそ、しっかりとした技術と経営の基盤を築いていかなければ。次の世代に、夢のある農業を残していけるように」

おわりに

取材を終え、施設を後にしようとすると、高校生たちが中村さんを囲んでいました。

「就農したいんです。でも、親が反対して...」

中村さんは、優しく微笑みながら答えます。

「君たちの世代が農業をもっとカッコいいものに変えていける。私はそう信じています」

アクアポニックスという新しい農業の形。
それは、単なる生産技術の革新ではなく、
農業の可能性を広げ、
食と環境の未来を考える、
大きなヒントになるのかもしれません。

[完]

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