「踊り場にて」に心を解された。

木曜日に放送されていた いちばんすきな花 を友人の勧めで見たところ、人間関係を築く難しさに共感してのめり込むように見てしまった。


無料で見られるTVerでは1〜3話+9話(2023.12.11時点)しか見られなかったため、FODプレミアムに加入して一気に9話まで追いつくほどハマったのである。

私は好きな作品に出会うと、どういう方が作られたのだろう???と疑問を抱くタチなので当然のように脚本を書かれた方を調べた。

生方美久さんという看護師を経て脚本家になった、並外れな経歴を持つ女性だった。

主な作品には ドラマ silent がある。

脚本家になる人というと、制作にずっと携わっていたり、そういうことを大学で学ばれたりするんだろうな〜〜という漠然としたイメージを持っていたので驚いたし興味が湧いた。

そんな彼女の作品、silentももちろん見たのだが、 踊り場にて というドラマが心に刺さった。


バレエダンサーを目指していた美園舞子(29)が夢を諦め、留学する前までやっていた高校教師に戻る。

家族や生徒たちとの関わりが描かれている作品だ。


まず、とっても優しい世界にとてつもない安心感をもちながら見ることができた。

誰かを攻撃する言葉が出てこない優しい世界が私は好き。



そんな優しい世界とは裏腹に、現実世界は厳しかった。


私は学校というものに良い思い出が無い。


勉強でも躓いたが、それ以上に人間関係で悩むことが多かった。

家や学力が近いだけで同じ学校に通っているクラスメイトと関わることの難しさ、悪意を向けられる悔しさ・惨めさ、それを屈することの出来ない自分への不甲斐なさ。

舞子が採用面接のために高校を訪ねたシーンで、過去のあれこれを思い出して胸が苦しくなった。


タイトルと脚本家の名前だけの情報で見始めたので、高校が舞台と気付いた時には、思春期特有の陰湿さを感じてしまうのだろうなと少し気持ちが沈んでしまった。


しかし、「いちばんすきな花」を書かれる方だからそういう部分には敏感だといいな…と淡い期待を抱く自分もいた。

舞子は教師にしては威厳の足りないふんわりとした方という印象を受け、こういうタイプの先生は生徒から舐められたり挑発的な態度を取られたりすることが多いよなあ。

と、自分の学生生活を思い返した。


しかし、作品の中の生徒たちはタメ口や若者特有の軽い口調でフレンドリーに接するが、決して舞子を下に見ている訳では無い。

明るくハッキリした子が出てくれば、教師を笑いものにして追い込むのでは!?
オタク気質な子が出てくれば、陰湿に悪口をネチネチ言うのでは!?
思春期故の少しツンツンしている子が出てくれば、当たり散らすのでは!?

と、物語が悪い方向に進むと想像してしまった自分が恥ずかしい。

同時に、こんなにも真っ直ぐに"夢"や"好き"に向き合っている10代の生徒たちがキラキラ眩しく見え、その渦中にいることを羨ましく感じた。


1.思春期だから


男子生徒と舞子の会話で印象的だった部分がある。

「なんでイライラしてるの?」
「思春期だからです。」

踊り場にて
 

イライラしていることを思春期のせいにしてしまうこの堂々たる姿。脱帽です。素直に感心した。

私が10代の頃に人から非を指摘されたならば鬱々と考え込み、
(自分が悪い、でもどうにもできない、どうしたらいいの???)
と迷宮入りしていただろう。

他人に害を与えていることを何かのせいにしていいわけではないが、思春期というのはホルモンバランスの乱れに加え、葛藤の連続だ。

些細な事で感情を揺さぶられるのは無理もないと思う。

自分の現状を客観的に捉え、他人に伝えることが出来るのは本当にすごい。

私は世間的に"思春期"と言われる年齢から脱しているのでこのセリフは許されないが、自分の中で消化できないもどかしい感情を抱いてしまった時には、彼の言葉を思い出して自分の現状を見つめてみようと思った。


2.夢を諦めた先に

10代の頃に好きだったもの、夢中になったものは確かにあった。

でも、それを突き詰めるほど努力することは出来なかった。

私には無理だ、才能がない、目指すだけ無駄だ、恵まれた家に生まれた人だけができることだ。と、鼻から諦め努力を始めることすら出来なかった。

目指したところでその夢はきっと叶わなかったと思う。

けれど、
一度自分の"やりたい・なりたい"の気持ちを受け止めて全力で突き進んで見れば良かったかもしれない。


舞子が生徒たちにこう語りかける場面がある。

「夢を追ったことがある人間だけの特権っていうのがあってね。それは、夢を追いかけたっていう事実です。〈略〉
次に何か、新しい何かをやろうと思った時、過去の自分が、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ優しく肩を抱いてくれます。」

「踊り場にて」より


培ったスキルや結果に焦点を当てるのではなく、"夢を追いかける"ということが、地に足つけて生きていくための材料を集める、手段だと示してくれたように感じられて舞子の言葉がスっと染み入った。


自分の人生を優しく肯定したり、少し力を溜めて1歩踏み出すことができたりする人間は強い。

舞子は29歳でそれを手に入れたのだから、今後の人生もしなやかに過ごしていけるのだろうな。


3.夢の中で

私は、夢…という程では無いけど目標を叶えてやりたい職業に就くことができた。
現実的になれるものの中からそれを選んだ感は拭えないが。


今は、これが本当にやりたかった事なのか???私は今後どう生きていくのか???と自問自答を繰り返している。


舞子が母親との会話の中で卒業文集を見ながら子どもの頃の夢を振り返る場面があった。

幼い頃からバレリーナになりたいと思っていた、と舞子は記憶していたが、実際に書いてあった夢は「国語の教師」だった。

舞子の現在の職業である。


母親は

「叶えた夢って、ほら、見えづらくなるのよ」

「踊り場にて」より

と伝える。

この言葉が、私にはズキンッと刺さった。

就きたかった職業が現実になってしまい、日々を生き抜くことで精一杯だった。

でも仕事を通して「こういうことがやりたい」はまだ実現出来ていない気がするし、そう考えれば今は夢の途中にいるし。

見えにくくなったけれど決して消えた訳では無いのよね。

目を凝らせば見える部分を、忘れずに、大切にして、日々を過ごしていきたい。



現実を生きていく中で立ち止まったり、迷ったりすることは、これから何度もあると思う。

そんな時にはこの作品を見返して、自分にそっと寄り添ってあげたい。

温かい言葉で作られる優しい世界を知っている私は強いと思う。きっと大丈夫

素敵な作品との出会いに感謝。

生方美久さん、ありがとうございます。

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