エピソード番外編 2023(2)30年前の週刊誌掲載の自分のコメントを振り返る「身体が喜ぶ健康法 西野流呼吸法」(サンデー毎日1994年8月7日号)
タイトル写真の本は番外編(1)(リンク、https://note.com/deepbody_nukiwat/n/n28e1a97ae1b9)で紹介した「名医の語る健康法」である。ここに紹介するサンデー毎日連載の「健康法師の世界」が製本化されたものである。
最後に少し紹介したい。
このコメントは、実は私の人生での「呼吸」との出会いの深い背景が述べられている。
表の世界は国立大学医学部呼吸器内科教授で、学会活動では理事長まで勤めながら、実は長らく重奏低音のように「呼吸」は不思議で面白いと、私の中で鳴り響いていたわけである。
私生活としての人生では、ここで述べている友人の「見性」体験の衝撃、また一方で相互に働きかけ合う(Signalingし合う)西野流呼吸法を呼吸の探究として実践してきた。
このnoteでは後期高齢者となり「人生の宿題」として呼吸運動の本質を考える、という立場も理解していただけるのではないか?
私生活においては、①医学部山岳部に入り北、南アルプス等の合宿、還暦にはキリマンジャロ登山、退職後百名山踏破等の登山歴、②また基礎体力維持習慣としてのジョギングは、米国留学中のボスとボストン・マラソンを3回走破した。いずれも呼吸法が大きく関与する運動であるが、それにもまして20歳前後の座禅と呼吸、40歳以降の西野流呼吸法実践と指導、退職後は西野先生に国際指導員証をいただき、海外へも出かけるという一本の「呼吸」人生がある。
このコメントのポイントは、少し前の時代というか、1950年頃までの日本人は、こうした呼吸による身体イメージングは日常的に体験してきたはずである。私自身、浪人して奨められた選択肢の一つが禅寺であった。そして禅寺経験を実行した私の人生は、大きく変化したと振り返って思う。
それが半世紀をへて、むしろ日本人も西洋人のように呼吸法など知らなくなった。言葉としては知っている人もいるが、実践者は本当に少ないだろう。むしろMindfulnessとして逆輸入されている。黒船尊重文化の日本社会である。それでも実践するのは望ましい。
さてこの質問は、一体呼吸法をどう実践するか、である。
「対気」という相互Signaling稽古は身体が反応するので、しかるべく準備・設備のある場所に出かける必要がある。
昨年以降、西野流呼吸法総本部では認定指導員制が始まり、現時点で九州から北海道まで 8カ所で体験が可能である。(西野流呼吸法総本部 稽古案内:以下URL参照、https://nishinojuku.com/)
こういう場所では通常、西野流呼吸法基礎は60分稽古する。とても毎日はできない。
これに対して、日常的には自分で10~15分の短縮版を行っている。
コロナ禍で多くの人が集まる行事が難しくなって、むしろZoomを使って週1回全国の10~20人前後で、昼休み時間帯に短縮版呼吸法を実行している。
この短縮版は足芯呼吸や華輪は短くしているが、他には全動作が入っているので、後期高齢者としては大変有効である。体験希望者はメールでご連絡ください。
西野流呼吸法は西野皓三先生がバレエと共に合気道、中国拳法などの実践を通して編みだしたbodyworkである。
東洋には古くより2人で行う武道稽古として、例えば太極拳には推手、というように相互にSignalingを行う伝承で今に至る。そして相手の身体は力でなく反応(気で飛ぶ)する。この背景生理は何か?これが「呼吸の不思議」への持続する関心の一端である。
不思議なことに西欧では、四肢を使うスポーツは近世以降盛んになったが、こうした東洋系bodyworkに類似するものは全く知られていない。柔道や合気道は戦後海外に知られたが、現在ポピュラーなYouTube動画では太極拳を含め、欧米では盛んに取り上げられている。
一方、西欧医学ではこうした身体操体は知られていなかったので、現象への研究はほとんどないのが現状である。番外編(1)でも記したように21世紀初頭に、興味あるMMC(medial motor column)という脊髄内神経細胞群が、ヤツメウナギのクネクネ全身運動に関与するとして注目されている。この進化を内包するMMCは東洋系ボディワークに関連するとの仮説を、2022年日本生理学会に報告した。従来の錐体外路系と考えられる。この方向がどう展開するかには関心がある。
またここで述べるように、誰もがSignalを出せるのは、一般的な身体に基盤のある現象であるので、当然である。音楽行為をはじめ、感情を込める行動(演説や怒り等)では自然にSignalが発露するようである。
西野先生は「誰もが同じような身体に目覚めていく。誰もが同じような身体知を獲得しないことをやってもつまらない」と述べている。私も全くの同感である。
この応答コメントも医師の立場を表していると思う。
最後の方にある「これからは「気」という言葉を使わずに説明しようという姿勢が必要」という立場は、現在も変わらない。この現象の面白さを世界に説明しようとするとき、共通言語での説明が必要で、「気」という言葉では受け入れられないことはわかっている。西野先生が「細胞」という言葉を使ったのも、まさにそういう立場では共通語である。
しかし、ここに述べているように細胞の言語としてのDNA、正確にはヒトゲノムが一応読まれたのは2003年、完全に読まれたのは実に2023年である。まだ機能不明な遺伝子も多いし、従って細胞という言葉もなお正確な説明にはならない。
現在の私の立場は、我々の身体は進化の蓄積の上に成立しているという視点である。我々の身体を構成するものは、大脳新皮質のようなホモ・サピエンスのキラキラな進化機構だけではない。ヤツメウナギのクネクネ運動システムも残っている。他にも生きて行く基盤として、我々の皮膚、Fasciaなどには進化に戻って理解すべき未知の領域があるのではないか。
こうした立場に立って考えるのがこのnote、Project DeepBodyである。
サンデー毎日の連載としては、以下が記載されている。
「病気の予兆はこれだ!肺がん、肺気腫に息切れなどの症状が出るが・・」
「西野流呼吸法とは?」
「インタビュー・メモ」
「名医の語る健康法」
このインタビュー当時はまだ40代後半で、「健康法」という意識はほとんどなかった。
しかし後期高齢の76歳となり全体を一読すると、50名を越える多くの医師の皆さんが多彩な方向で、「健康法」を語っていらっしゃる。
ほんの少し紹介すると、「こころの健康」、「体操・呼吸法・瞑想」、「スポーツ・レジャー」、「アイディア」、「自然体」、「食」、「自然健康法」などに分かれている。スポーツ、食などは最も健康法的である。一方、「体操・呼吸法・瞑想」はさらに「自彊術」、「真向法」、「西野流呼吸法」、「躰道」、「腹式呼吸」、「ヨーガ」、「腰痛体操」、「超越瞑想」、「イメージ体操」、「整体」、「お灸」と並んでいる。医師の方々も西洋医学以外に多様な試みが伺えて面白い。
この中で私が現在関心があるのは、整体の「活元」(対気の衝撃に近いものか?)とお灸である。三里の灸の論文は2021年Nature誌に中国の施設から脳・免疫系への関連性が報告されている(リンク、https://www.nature.com/articles/s41586-021-04001-4)。世の中はそういう方向に動いている。