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冬の雨が好きだという女

「ねえ、君の好きな人ってどんな人?」

「そうだな、彼女は冬の雨が好きなんだ」

「冬の雨?なにそれ」

「僕もよく分からないよ。ただ君の好きなものを教えてって言ったんだ」

「そしたら冬の雨って?」

「うん」

「そっか」


憤りを感じた。

なにが冬の雨だ。
20代も後半に差しかかろうとしている女がなにをロマンチックなことを。
それにたぶらかされている君も君だ。

そして、確信してしまった。
私はきっと一生彼の好きな彼女にはなれないんだと。

人は図星をつかれると怒りが湧いてくるとどこが見たことがある気がするが、ほんとにそうなのかもしれない。
怒りを沈めようと試みながら思った。

きっと私はずっと悔しかったのだ。
私にはない感性と、謎めいたその魅力に勝つことができないとどこかで確信してしまって、腑に落ちてしまっていたから。

彼女のことを話す彼の顔はとても優しかった。

私はずっと彼女になりたかった。

君にそんな顔で見てもらえる彼女に。

彼は少し冷たい人で、あまり言葉を発さないし感情が乱れることなんて無かった。それなのに彼女に会えなかった時、彼は泣いていた。

私はずっと彼女になりたかった。

感情などほとんど表に出さない君が泣いてしまうくらい、素敵な彼女に。

彼の恋は叶わなかったし、私の恋も叶わなかった。彼は彼女のことを"忘れられない人"と良く言っていた。
私はまだ彼を"忘れられない人"と、思い出に出来るほど前を向けていない。


そしてやっぱり、冬の雨が好きな女なんて大嫌いだ。




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